「研究はたのしくてたまらない!」
小鳥が言葉を話していることを発見し、
世界中の動物研究者をびっくりさせた
動物言語学者の鈴木俊貴さんは言います。
代々木公園に来てもらい、
鳥の声を聞きながら
研究者の醍醐味を聞きました。
小鳥の声が気になってしょうがない様子にも
注目です。
最終回の第7回は、
ほぼ日の銀の鳥のキャラクター、
シジュちゃんが登場!
鳥目線でインタビューします。
担当は、「ほぼ日」かごしまです。

>鈴木俊貴さんプロフィール

鈴木俊貴(すずき・としたか)

1983年東京都生まれ。
東京大学准教授。動物言語学者。
日本学術振興会特別研究員SPD、
京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。
文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本生態学会宮地賞、
日本動物行動学会賞、World OMOSIROI Awardなど受賞多数。
シジュウカラに言語能力を発見し、
動物たちの言葉を解き明かす新しい学問、「動物言語学」を創設。
愛犬の名前はくーちゃん。
著書に『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)が
共著に『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)が
ある。

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4)人間とシジュウカラは似ている。

──
シジュウカラは日本全国にいますが、
沖縄のシジュウカラと東北のシジュウカラで
鳴き声が違うということも
鈴木先生の研究でわかっているんですよね。
方言みたいで面白いですね。
鈴木
シジュウカラの言葉と
人間の言葉とはいろんな共通点があるんです。
言語の習得の仕方も似ているから、
方言のように
住む場所による違いも起きるのだと思います。
シジュウカラの言葉と人間の言葉の共通点は
まず単語があること。
シジュウカラには
「ヘビ」「タカ」という言葉があるんです。
「ジャージャー」がヘビ、「ヒヒヒ」がタカとか。
文法があることも共通点の一つ。
「警戒しろ」の「ピーツピ」と
「集まれ」の「ヂヂヂヂ」を組み合わせて
「ピーツピ ヂヂヂヂ」(警戒して 集まれ)という
文章になる。
ひっくり返して「ヂヂヂヂ ピーツピ」という
音を聞かせても伝わらない。
このことから、文法があることがわかる。

ヒヒヒ(タカだ!)と聞いて空を見上げるシジュウカラ ヒヒヒ(タカだ!)と聞いて空を見上げるシジュウカラ

──
「ピーツピ ヂヂヂヂ」でないと意味が
伝わらないと。
鈴木
それだけじゃないんです。
例えば巣の近くで翼をパタパタとさせて
「お先にどうぞ」という意味を鳥に伝えるんです。
巣穴は小さいので、
メスとオスが餌を巣の中のヒナに運ぶときに
ぶつかってしまうかもしれない。
それを防ぐために翼をパタパタと小刻みに
震わせるんです。
これは人間がやるジャスチャーですよね。
音をコピーする力があることも共通点の一つです。
人間の場合、
お父さんお母さんがしゃべってるのを
子どもが聞いて発話できるようになる。
要するに、音をコピーして学習しますよね。
シジュウカラやオウム、インコの仲間は
音をコピーする力があるんです
人間以外の霊長類は音をコピーすることができないんです。
チンパンジーの赤ちゃんに、
「パパ」「ママ」と教える実験をした人もいるんですけど、
やっぱり覚えられない。
手話は覚えられるんですよ。
でも手話の文法ルールは覚えられないんですね。
だから、人間に近い動物でも、
人間が当たり前に使っている言語の力はないけれど、
鳥にはあるんですね。
──
不思議ですね。

鈴木先生直筆の解説イラスト。 『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)より。 鈴木先生直筆の解説イラスト。 『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)より。

鈴木
言葉は習得するものだとすると、
騒音が多いと鳴き声が高くなったりするなど
周囲の環境によって違いが出てくる。
その結果、方言のように鳴き声の違いが
現れてくるんですよ。
だから、言葉の能力でいうと
シジュウカラと人間のほうが、
チンパンジーと人間よりも共通点が多いかもしれない。
──
そうなんですか。
でも鳥って恐竜が
進化したものですよね?
鈴木
そうです。鳥って恐竜です。
鳥の起源は、いろいろ言われてるけれど、
プテラノドンみたいな飛ぶ恐竜じゃなくて、
獣脚類の一つの系統の生き残りなんです。
──
ティラノサウルスとか?
鈴木
そうです。
羽毛を持っていた恐竜の一つのグループが生き残って、
地球上に繁栄していた。
それを僕たちは鳥と呼んでるんです。
──
生物が進化してきた道を表す系統樹のようなものが
今後変わっていく可能性もあるんですか?
鈴木
系統樹は変わらないです。
生き物のなかでどの種とどの種が近い仲間かは、
DNAでわかってきているんです。
──
人間と鳥がDNA的に近かったということはないのですか?
鈴木
人間と鳥は大昔に分かれてるから、
DNA上では遠いんですよ。
遠いんだけれども、
似たような能力が進化してるのが面白いんですよね。
──
だいぶ前から違う進化をしてきたのに、
能力は似ているということですね。
鈴木
道具を使用できることも
人間と鳥の共通点です。
例えばカラスの仲間に
道具を使うものもいるんですよ。
──
針金を使ったり?
鈴木
そう。
植物を加工してフックを作って、
虫のいる穴に差し込んで
引っかけて取り出して食べるカラスもいる。
かなり賢いです。
──
人間と鳥の
共通点は他に何がありますか?
鈴木
あとは群れ社会で生きてる。
群れ社会で生きるから、
他者と会話する必要が出てくる。
あとは子育てをところも似ています。
子育てをするから世代が重なる。
だから、子どもが大人の言葉を
鳴き声を学習する機会もあるわけです。
ほかにも、2本のあしで立つこと。
2本のあしで立つからシジュウカラは、
枝に止まっているときなどに、翼が自由になって、
パタパタと動かしたら
「お先にどうぞ」というジェスチャーができるんです。
──
共通点がいっぱいありますね。
鈴木
世界の見え方にも共通点が多い。
人間は目と耳に頼って、世界を認識している。
鳥も目と耳で世界を認識しているんです。
例えば犬は鼻で世界を認識している部分は大きい。
犬は色覚がよくなくて、
人間のような鮮やかな色は見えてないんですよね。
だから、同じ哺乳類だけど
犬と人間では世界の認識がけっこう違う。
──
鳥にも耳があるんですね。
鈴木
鳥には目の横に大きな耳があります。
ふわっふわな羽毛で、隠れてるから見えないんだけど。
目と耳に頼っているから、
彼らは音声とかしぐさを使った
コミュニケーションをするんですよ。
──
へぇー、面白いですね。
鈴木
面白いです。
鳥と人間は進化的に遠い動物でも、
結果的に似たような部分がある。
鳥と人間の言語について調べてみたら、
ひょっとしたら言語の進化の普遍原理を
解き明かせるかもしれない。

──
鳥って嘘もつくんですよね?
鈴木
そうそう、嘘もつきます。
──
そこもすごいところですね。
鈴木
鳥を観察していると、タカなんて飛んでないのに、
「タカだ」と言うことがある。
そうすると、周りの鳥や動物が逃げたりするんですね。
どういうときにやるかといったら、
自分よりも大きな鳥や動物が餌を食べてるとき。
そいつを脅かしてやろうとして、
「ヒヒヒ(タカだ)」と鳴く。
リスが木の実とか食べてると、
シジュウカラは「ヒヒヒ(タカだ)」と嘘つく。
するとリスが逃げるんですね。
それで自分が木の実を取りに行く。
これはすごい発見で、意図的に鳴いてるってことなんです。
ただ単に怪しいものが空に見えたから、
思わず鳴いちゃうとかじゃなくて、
空にタカなんかいないんだけれども、
相手を騙してやろうという考えのもと鳴いていると
考えられるんです。
──
ずる賢いですね。
鈴木
うん、賢いんですよ。
シジュウカラを観察してると、
彼らにはちゃんと物を考えて発話してるし、
それだけじゃないんですよね。
リスに嘘をつくということは、
シジュウカラの言葉が
種の壁を越えて通じている証拠にもなる。
──
そうか、シジュウカラの言葉を
リスがわかるんですね。
鈴木
そういった世界に
ずっと人間は気づいてなかったんだけど、
動物たちは当たり前に生きてるんですよね。

( 明日につづきます)

2025-08-01-FRI

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  • 鈴木俊貴さんの著書
    『僕には鳥の言葉がわかる』
    (小学館・2025)

    シジュウカラの言葉を発見する過程、
    そしてそれを発表し世界の研究者が驚かせたことまでを
    書いた鈴木さんの自伝的科学エッセイ。
    本文のなかの鳥のかわいらしいイラストは
    すべて鈴木さんが描いたもの。
    研究へのワクワク感、
    そして鳥への愛情が伝わって
    心があたたかくなります。
    そして、ただいま、
    『僕には鳥の言葉がわかる 』の読書感想文コンテスト」を
    実施中だそうです。本を読んで、
    心を動かされた方はその気持ちを言葉にしてみてくださいね。
    応募は2025年9月8日まで。