──

動物がいっぱい出てきて
動物同士で会話している絵本ってありますよね。
ファンタジーの世界だと思われてきたことですが、
それが現実世界にもあるかもしれないですか？

鈴木

それはないと思います。

──

え、そうなんですか？

鈴木

動物の童話は
動物が人間のようにしゃべってるという解釈ですけど、
人間には人間の言葉があるように、
鳥には鳥の言葉があると思うんです。
単語とか文法とかジェスチャーといった共通点もあれば、
違う部分もある。

鳥は人間と世界の見え方も違うし、
物事の論理の立て方も違うかもしれない。
そういった鳥が何を考えて何をしゃべってるのかを
解き明かすには、
人間の論理を押しつけちゃいけないんです。

「動物は人間みたいにしゃべってるよ」と思う人も
たくさんいますがそれも間違いだと思っているんです。

──

そうなんですか？

鈴木

なぜかというと、
人間みたいにしゃべる必要が
シジュウカラにあるかといったら、ないわけですね。

人間も一つの動物であって、
人間の言葉も動物の言葉の一つ。
だから、ほかの動物の言葉もちゃんと調べれば
わかるよと。
そういうことを研究で訴えて、
世界に発信したいなと思って‥‥。

──

どうしました？

鈴木

あの、その‥‥すみません。
あそこにずっとシジュウカラがいて、
気になっちゃって（笑）。

※写真はイメージです。

──

大丈夫です（笑）。

リスが鳥の言葉をわかってるのも
リスが鳥としゃべれるわけじゃないですもんね。
鳥の言葉をリスが理解してるぐらいなんですね。

鈴木

そうそう。
リスも鳥の言葉を学習して、意味が分かるようになった。
例えば「シジュウカラが『ヒヒヒ』って鳴いてるな」
と思ったら、
「あ、空にタカがいる。この声が合図になってるんだ」と
気づいて学習するんです。
言ってみればリスは僕と一緒なんです。

──

20年近く研究者をやってきて楽しいですか？

鈴木

すっごく楽しいです。
今もシジュウカラを見ると早く森に行かなきゃって思うし、
今年やる研究も
すごくワクワクするテーマがいくつもある。

──

こんな楽しい仕事はないというくらい？

鈴木

そう思います。
僕にとってはすごく楽しい仕事で、
あまり仕事と思ってないところもある。
好きなことをずっと続けてきたら、
いつの間にか大学の先生になっていて、
楽しく研究を続けられてきた。
これからもできるのがすごくうれしい‥‥。

あ〜もう、本当ダメ。
ずっとシジュウカラが鳴いてるから、
そっちが気になっちゃって（笑）。

──

いえいえ（笑）、
こちらこそ観察の邪魔をしているようで、すみません。

鈴木さんの本を読むと、
本当に研究が楽しいんだなって伝わってきます。

鈴木

めっちゃめちゃ楽しいですよ。
どんな本にも書いてないこと、
世界中の誰も気づいていないことを見つけられる。
それをどうやったら研究で解き明かして、
世界中に発表できるか、
どうしたら皆さんにそれを伝えられるのかを考えるのが
すごく面白いです。

──

つらいことはないですか？

鈴木

ほかの人がやったらつらいんだろうと思うんですけど、
僕は楽しく続けられちゃう。

大学時代に８キロ痩せたことも、いい思い出。
滞在していた山荘には風呂もなかったんですよ。
だから３日に１度に山を下りて、
一番近いお風呂に行って帰ってくる。
雪山のなか帰ってくるから、湯冷めですよね。

──

長野の雪山、寒そう（笑）。

鈴木

うん。しかも夜に行くんですよ。
昼間は鳥の群れのデータとるから。
日が暮れて調査が終わってお風呂に行くかと出かける。

──

真っ暗ですよね？

鈴木

真っ暗です。

──

怖いですよね？

鈴木

まあでも、星がすごく綺麗。

──

たしかに綺麗そうですが‥‥（笑）

あと鈴木さんの研究のやり方がシンプルなのも
驚いたところでした。
難しい数式やスーパーコンピュータのようなものを
使うわけでもなく、
双眼鏡やレコーダーで録音するなど
身近な機材で、
こんなに面白いことを発見されたのはすごいですよね。

鈴木

本当の意味での科学的な大発見は、
みんなの目の前にあるけれど
誰も気づいてないことを発見することだと思うんです。

それを解き明かすのに一番大事なことは、
多分ほかの人がやったことないぐらい観察してみること。

僕の研究は双眼鏡とレコーダーと、
音を鳥に聞かせるときのスピーカーとか、
家電量販店に売っているようなもので
やってきました。
それでも、世界がビックリするような研究ができた。

シジュウカラを研究して思ったのは、
一番の科学的な発見というのは、
みんなの近くにあるけど誰も気づいていなかったことに
気づくことなんじゃないかと。

──

身の回りにあるけど気がついていないこと‥‥。

鈴木

例えばシジュウカラの鳴き声なんて、
鳥好きの人はみんな鳴いてるのを知っているし、
シジュウカラを研究してる人も世界にたくさんいた。
けれど、それがシジュウカラの鳴き声が
言葉になってるという観点がなかったから、
誰も調べなかった。

でも、一つでいいから新しい気づきがあれば、
誰もやってないぐらい観察を続け、
ちょっとしたアイデアを組み合わせることで、
誰も知らなかった世界を解き明かせる。

──

大切なのはアイデアですね。
身近な不思議ってまだいっぱいあるんですかね？

鈴木

まだまだたくさんあると思います。
スズメの「チュン」の意味だって、
まだ僕らはわかってない。
それを調べてみると、
もっとすごいことに気づくかもしれない。

まだ誰も知らない世界に一つ一つ気づいていくことが
実は僕たちの世界を豊かにすることでもあり、
僕らの世界の理解を深めることでもあるわけですよね。

──

世界が豊かになる‥‥。

鈴木

鳥の言葉を知ってるのと知らないんだったら、
知ってるほうが人生は楽しい。

これまでは人間が高度で、
動物はしゃべらないから下等だと考えてきた。
そういった自然観は間違ってるし、
人間と動物の２つに分けるのも、
ゆがんだ世界の見方だと思う。

そういうことに気がつくことができるから、
鳥の研究って
ただ面白いだけじゃなくて、
いろいろ考えさせられる部分があった。
それらを、いろんな人と共有したいなと思っています。

──

動物と人間を分けるんじゃなくて、
いろんな生き物がフラットな関係であるという
メッセージですね。

鈴木

うん。進化ってそうなってるはず。
僕らは結局のところ、
共通の祖先からほぼ同じスピードで
いろんな生き物に進化してきたわけなんですね。
そこで人間には人間の言葉が必要になって、
いま話しているような言葉が進化した。
シジュウカラにはシジュウカラの言葉が必要な状況で
生きてるから進化してきた。
各々の環境に応じて、各々の言葉が進化してる。

人間には人間の言葉があるように
鳥には鳥の言葉がある。
それが正しい自然の見方だと思うんです。