──

都会にも鳥がいっぱいいるけれど、
鈴木さんがよく調査しに行く
長野の森の中のほうがいっぱいいますよね？

鈴木

はい。
とくに実験は長野のほうがしやすいです。
まず録音がしやすいんですよね。
都会ってノイズが多くて、綺麗な音が録れない。
あと鳥を追おうとしても、
建物のすき間に入っちゃうと
追えないんですよね。
森の中のほうは追いやすいです。

──

さきほど「60メートルぐらい先にシジュウカラがいる」と
おっしゃってましたが、距離もわかるんですか？

鈴木

聞こえてくる声の大きさで、
だいたいこれぐらいの距離かなと
わかるようになっちゃった。

──

すごいですね（笑）。
耳がよくなってるんですか？

鈴木

耳はよくなってきていて、
聴力検査の値がどんどんよくなってる。
それに昔は気づかなかった小さい鳥の鳴き声が
聞こえるようになりました。

ほら、あそこシジュウカラいますよ。

※写真はイメージです。

──

え、どこですか？

鈴木

あそこの、あの、サルスベリの木があって、
その下からね、６メートルぐらいですね。
カラスがいるでしょう。
その奥。

──

全然わからないです。
あっ！

鈴木

ほら、あれあれ。

──

わかりました。木の上のほうを飛び回ってますね。

鈴木

あ、２羽いる。
巣があるかもしれない。

──

耳は使うとよくなっていくってことですか？

鈴木

よくわからないんですけど、
音に敏感にはなっていると思う。

鳥の学者の中でも耳はいいほうで、
海外から鳥類学者の先生を呼んで
一緒に日本の森を回ることがあるんですけれど、
「すごい耳を持ってる！」と驚かれるんですよ。

例えば何メートル先ぐらいに
シジュウカラのヒナいるよとか、
「声聞こえるから向こう行こうぜ」とかいうのが
当たるので驚かれます。

──

同業者に驚かれるほどですか。

高校時代から鳥の鳴き声を聞いてきた蓄積が
今の力になっているんでしょうね。

鈴木

そうですね。
森の中にこもってるときも、都会の公園に来るときも
道を歩いてるだけでも
シジュウカラがいると声が聞こえてきて
観察しちゃうんです。

──

学生時代に雪山にこもって
食事がほとんどないなか過ごしたという
壮絶なエピソードが本（『僕には鳥の言葉がわかる』）に
載ってましたね。

鈴木

鳥が群れを作るのは大体冬なんですよね。
鳥の群れの研究をしたくて、冬の雪山にこもったんです。
３か月分のレトルトや卵、野菜、
ごはんも５キロの袋を３つ持っていって、
毎日、朝から日が暮れるまで鳥の研究をしてたんです。

けども、最後の1か月のときに食料が尽きちゃって、
白米だけが１袋残っていた。
ほかに何も残ってなくて、どうしようかなと思って。
近くのお店まで歩くとかなり遠かったんですね。
１時間半以上かかるし、
往復してたら３時間ぐらいかかる距離だったので、
お店に行ってる場合じゃないと。
だったら鳥を観察してたほうがいいやと思って。

でも、さすがに飽きちゃうといけないからと、
食べ方は工夫して、
そのまま炊いて食べるごはん、
水をかけて食べるごはん、
お湯をかけて食べるごはんの３種類に。

ちょっとずつ味が変わるんです。
そのローテーションでやってました。

──

３種類だけど、全部白ごはん‥‥（笑）。

鈴木

もうちょっと工夫できたかもしれないですけど、
工夫する余裕も興味もなくて、
８キロ痩せちゃった。
身長は178センチなんですけど、
体重が51キロまで痩せて。

山から降りて大学に行ったら、友達に「ヤバくない？」
「激やせしてない？」って言われて、
保健室に連れていかれたんです。
体脂肪計があったので乗ったら、エラー表示。
５％を切るとエラーになるらしくて、
おそらく５％以下になってしまったんだろうと
言われました。

翌年からは、山にこもるときは
板チョコを持っていくようになりました。
安い板チョコを持っていって、
森の中で食べながら研究をするように変えました。

──

食に興味がないのか、研究が好きなのか、
どっちですか？

鈴木

研究が好きですね。
食べ物にはあまりこだわらなくても、
「生きてるから大丈夫でしょう」ぐらいでした。

あとから考えると体脂肪率が５％を下回るのはヤバいから、
この動画を見てフィールドワークに行く人は
本当に気をつけたほうがいいと思います。
食べ物には気をつけてね！

──

なかなかいないと思います（笑）。
鈴木さんの周りには
そういう人はいるんですか？

鈴木

僕が尊敬している長谷川博先生は
アホウドリの研究をしていて、
鳥島という無人島に何か月も通って、
そこで自炊して
アホウドリを守って、増やしてきた人なんですね。

「アホウドリ」の「アホ」というのはかわいそうだから
「オキノタユウ」って名前に変えようとしてますけども。

長谷川先生も僕の痩せこけた様子を見て、
いろいろ教えてもらったんです。
「とにかく卵をいっぱい持っていけ」とか、
日持ちする野菜や動物性たんぱくの摂り方とか。

──

サバイバルしてきた経験があるってことですね。
無人島だとお店はないから大変ですよね。

鈴木

大変だと思う。
食料を持っていかなかったら終わる。

──

鈴木さんは生命の危機は感じなかったですか？

鈴木

僕は全然感じなかったですよ。
ただ楽しかったです。

──

さすがです（笑）。