「研究はたのしくてたまらない!」
小鳥が言葉を話していることを発見し、
世界中の動物研究者をびっくりさせた
動物言語学者の鈴木俊貴さんは言います。
代々木公園に来てもらい、
鳥の声を聞きながら
研究者の醍醐味を聞きました。
小鳥の声が気になってしょうがない様子にも
注目です。
最終回の第7回は、
ほぼ日の銀の鳥のキャラクター、
シジュちゃんが登場!
鳥目線でインタビューします。
担当は、「ほぼ日」かごしまです。

>鈴木俊貴さんプロフィール

鈴木俊貴(すずき・としたか)

1983年東京都生まれ。
東京大学准教授。動物言語学者。
日本学術振興会特別研究員SPD、
京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。
文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本生態学会宮地賞、
日本動物行動学会賞、World OMOSIROI Awardなど受賞多数。
シジュウカラに言語能力を発見し、
動物たちの言葉を解き明かす新しい学問、「動物言語学」を創設。
愛犬の名前はくーちゃん。
著書に『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)が
共著に『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)が
ある。

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2)生き物はこの世界をどう見てる?

──
子どものころは魚も好きだったと。
昆虫も好きでしたか?
鈴木
はい。
魚や昆虫、鳥や動物など
生き物がこの世界をどういうふうに見ているのか、
それが小さいときからすごく気になってたんです。
今でも気になってて、
僕の研究はそこが起点になってます。
──
人間以外の生き物から見た世界はどんなだろう
という疑問を持っていたと。
鈴木
そうですね。
例えば、鳥は紫外線が普通に見える。
僕たちは紫外線を見ることができないから、
RGB3原色(赤、緑、青)の世界に生きてるけど、
鳥たちはそれに加えて
紫外線が見えるんですね。
それは人間が体験したことのない豊かな色の世界。
僕ら人間が一生かかっても
絶対に体験することができない世界だなって。
だから、同じ世界に生きていても、
違うように見えている。
それがすごくワクワクするなと思って、
どうやったら知ることができるかに興味があったんです。
──
昆虫や魚が
この世界をどう見ているかは気になりますね。
鈴木
そうなんですよ。
僕には憧れの先生がいたんですね。
コンラート・ローレンツさんと
ニコ・ティンバーゲンさんという動物行動学者で、
彼らの本を高校生とか大学生のときに
よく読んでいました。
動物がある動きをすることに
どういう意味があるんだろうかを調べる
動物行動学という学問を立ち上げた方々で、
ノーベル賞も受賞しています。
彼らはいろいろな生き物を研究対象にしてるんですよね。
だから大学時代に研究を始めたときは、
シジュウカラだけじゃない鳥や
虫も魚も研究するだろうなと思ったんですよ。
──
いろんな生き物を研究する気満々だったと。

鈴木
そう。でも研究をやっていくと
一つの鳴き声の意味がわかると、
どんどん次のテーマが湧いてきて新しい発見がある。
また新しい発見を研究して論文にすると、
また新しい気づきがあった。
鳥の世界の見え方は
僕が一生かかってもわからないぐらい豊かだし、
その中でいろいろなことを考えて、
いろんな会話をして、
必死にこの自然界を生きてる。
そういった様子が見えてきて、
やめられなくなって今年で20年目なんです。
──
20年、
アニバーサリーイヤーですね。
鈴木
小学校のときは
夏休みの宿題に自由研究がありますけど、
1年間かけて何かの生き物を観察して、
その結果を翌年の夏休みに提出することをやってました。
例えばヤドカリとかカブトムシとか。
カブトムシは成虫を捕って観察するのではなくて、
卵から1令幼虫、2令幼虫、3令幼虫、サナギ、
しかもサナギの前に繭を作って前蛹という状態になる、
それ全部観察して。
フンの大きさがどう変わってくるのかとか、
頭の大きさがどう変わってくるのか、
どれぐらいの期間サナギなのか、サナギが羽化してから、
どれぐらいしたら土の上に出てくるのか、
腐葉土から出てくるのか、
そういうことを一つ一つ観察するのが好きでした。
──
すごい! 子どもの頃から本格的です。
鈴木
それでもやっぱりわからないことがあって。
例えばカブトムシのツノ。
プラケースの中の観察では、
なぜツノを持っているのかがわからないんです。
なんでツノを持ってるかというと、
自然界ではメスを奪うために
オス同士が喧嘩するためですよね。
そのためにツノを進化させているんだけれど、
プラケースの中だったら、
オス、メス1匹ずつ飼いなさいと言われるんですね。
そうすると喧嘩の様子が見えない。
カブトムシは夜行性だから
野外では例えばタヌキとかに襲われるんですよ。
そういった危険性もある中で、
必死にメスと交尾するんだけれども、
そういった世界はまったく家で飼っている
カブトムシではわからない。
──
たしかに。

鈴木
でも野鳥は違う。
野鳥の観察は、鳥たちの世界に
僕が小さな鳥になって双眼鏡で入っていくような作業だから
鳥の世界が全部見えてしまう。
代々木公園のような都市の公園でも
いろんな天敵がいたり、
餌を見つけるのが大変だったりするなど
自然の中で生きてる様子を
双眼鏡が一つあれば見ることができるんですね。
──
確かにケースの中だと
自然の環境にはならないわけですよね。
野鳥観察は、自然界そのものですね。
鈴木
子どものときは生き物を近くで見たかった。
でも、実際にそれは生き物を理解することじゃない。
それでわかることもあるけれど、
それがすべてじゃない、
もっと豊かな世界があるということに気づいたのは
野鳥観察を始めてからです。
──
それで野鳥観察に夢中になったんですね。
鈴木
ただね、観察するのはそんな簡単じゃないんです。
最初は僕もどの鳥がどの声を出してるのか、
わからないので、
一つ一つ双眼鏡で確認しながら、
「あ、この鳥はこんな声も出してるんだ」という
ところからスタートしました。
ある程度、観察していると、
声を聞くだけで何の鳥が鳴いてるかわかるようになる。
やってるうちに気づいたことがあったんです。
それはシジュウカラがほかの鳥と比べて
いろいろな声のパターンを持っていて、
使い分けていること。
「これは面白い!」というのが
研究の始まりでした。
──
それに気がついたのは大学何年生のときですか?
鈴木
大学3年生かな。
──
やっぱりそこまでの域に達するのは
かなり観察歴を重ねてないとならないものですか。
鈴木
そうですね。
例えば、タカが来たときに「ヒヒヒ」って鳴いて、
仲間に「タカだ!」と知らせる
警報があるんですよ。
そうすると周りにいる鳥たちが
一斉にヤブに逃げたりする。
ほかにも、ヘビが出てきたら「ジャージャー」って鳴いて
仲間に知らせるんですね。
そういった天敵の種類によって鳴き声を使い分けて、
どんな敵が迫っていることを仲間に伝え合っている。
そういった世界があることに気がついたんです。

(明日につづきます)

2025-07-30-WED

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  • 鈴木俊貴さんの著書
    『僕には鳥の言葉がわかる』
    (小学館・2025)

    シジュウカラの言葉を発見する過程、
    そしてそれを発表し世界の研究者が驚かせたことまでを
    書いた鈴木さんの自伝的科学エッセイ。
    本文のなかの鳥のかわいらしいイラストは
    すべて鈴木さんが描いたもの。
    研究へのワクワク感、
    そして鳥への愛情が伝わって
    心があたたかくなります。
    そして、ただいま、
    『僕には鳥の言葉がわかる 』の読書感想文コンテスト」を
    実施中だそうです。本を読んで、
    心を動かされた方はその気持ちを言葉にしてみてくださいね。
    応募は2025年9月8日まで。