なんにもなかったところから、
舞台とは、物語とは、
どんなふうに立ち上がっていくのか。
そのプロセスに立ち会うことを、
おゆるしいただきました。
舞台『てにあまる』の企画立案から
制作現場や稽古場のレポート、
さらにはスタッフのみなさん、
キャストの方々への取材を通じて、
そのようすを、お伝えしていきます。
主演、藤原竜也さん。
演出&出演、柄本明さん。
脚本、松井周さん。
幕開きは、2020年12月19日。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第2回 本読み

14時集合。柄本明さん、藤原竜也さん、佐久間由衣さん、高杉真宙さんが顔を合わせ、台本を読む。今日がはじめての「本読み」とのこと。なお、台本は「まだ最終ではない」らしい。横長のテーブルに座り、みんなで台本を読んでいく。俳優たちは、それぞれの台詞を。ト書きの部分は、演出助手の方が。脚本家の松井周さんも同席(演出は柄本さんが兼ねている)。新型コロナウィルス感染対策のため、みなさんマスク姿。輪の外側から見ていたこともあって、台詞が明瞭には聞き取れない。俳優の「声」に集中する。ある瞬間に「アンガーコントロール」という単語が聞こえた。ウキウキするような話とは、ちょっと違うようだ。どっちかっていうと、シリアスな話‥‥? 主演の藤原さん、ときおり台本に何か書き込んでいる。その間にも、台詞は、たんたんと読まれていく。柄本さんが、たびたび物語を止め、疑問点を松井さんに確認する。いつの間にか、俳優たちの会話に引き込まれている。ひとりひとりが、何かを確かめている? 俳優たちは、この場で、何を確認しているのだろうか?
2時間弱。最後の台詞にたどり着いたところで「今日は、とりあえず、ここで」と柄本さん。と言いつつ「松井さん、これ、結局どういう話?」と聞いている。根本的な質問。もちろん、表面的な意味ではないだろう。もっと深いところを問うているはずだ。しばらくの間、これからつくっていく物語についての、俳優たちの議論を聞く。藤原さんは、主にラストシーンについて、松井さんに質問している。そのとき「舞台が具体的にどうなっているのか」が気になっているようす。脚本家の頭の中のイメージを捉えようとしているかのように見えた。柄本さんは「わかんないのは、いいと思う。立ってやれば、わかってくることもある」というようなことを。そして、キリの良さそうなタイミングで「じゃ、探していきましょう」と言った。何を「探していく」のだろうか。最後、松井さんが「次までに、ラスト(シーン)をもう少し整理してきます」と。次というのは1週間後、稽古場での本稽古。今日の2時間弱の「本読み」が、これから、どんなふうに「物語」となって立ち上がっていくのか。柄本さんは、このお話を、どう「演出」していくのか。ともあれ、ここから「演劇」は、つくられていく。物語が、立ち上がっていく。可能性は、すべての方向に開かれているように感じた。今日のこの場は、原始の海というか生命のスープみたいな場所だったのかもしれない。
みなさんより先に部屋を出ていこうとしたら、背後から柄本さんがやってきて「ほぼ日さん、また来るの?」と言った。お邪魔にならないよう、時々うかがいます、よろしくお願いします‥‥とお答えしたら、柄本さんは「了解」というように手を振りながら、男子トイレへと消えて行った。

(続きます。12月19日まで不定期で更新します)

2020-12-01-TUE

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