なんにもなかったところから、
舞台とは、物語とは、
どんなふうに立ち上がっていくのか。
そのプロセスに立ち会うことを、
おゆるしいただきました。
舞台『てにあまる』の企画立案から
制作現場や稽古場のレポート、
さらにはスタッフのみなさん、
キャストの方々への取材を通じて、
そのようすを、お伝えしていきます。
主演、藤原竜也さん。
演出&出演、柄本明さん。
脚本、松井周さん。
幕開きは、2020年12月19日。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第1回 ここから何がうまれるのか?

今から5年ほど前のことですが、
俳優の柄本明さんに、
インタビューさせていただきました。

21世紀の「仕事!」論。24 俳優編 21世紀の「仕事!」論。24 俳優編

自分はインタビューして記事を書く、
ということをやっているのですが、
このときの柄本さんの言葉は、
そのひとつひとつが、
ほとんど
接したことのない種類のものでした。
取材を通じて多くのことを学んだし、
自分自身、
大切にしている記事のひとつです。
読者の反響も、とても高かったです。
で、そのインタビューを、
ある舞台制作の方が読んでくださり、
お誘いくださったのです。
柄本明さん出演・演出による舞台の
制作過程を取材してみませんか、と。
やったことのない仕事だったものの、
「物語とは、どう、うまれるのか」
ということに興味を持っていたので、
何ができるかわかりませんが、
それでもよければ‥‥とお伝えして、
お引き受けしました。
それがたぶん、まだ夏の盛りのころ。

出演する柄本明さんが演出も担当し、
藤原竜也さんが主演する舞台‥‥
ということが決まっているだけだと、
そのときは、うかがいました。
それから、約2ヶ月。
そんな記憶も薄れてきていたときに、
ふたたび、
あの制作の方から連絡がありました。
キャストも決まって、
いよいよ舞台の制作が動き出します、
手はじめに
都内でビジュアルの撮影をするので、
いらっしゃいませんか‥‥と。
それが10月5日、
週の頭の月曜日の午後のことでした。

最初に、
チャコールグレーのコートを羽織った
柄本明さんが現れました。
つづいて共演の佐久間由衣さん、
高杉真宙さん、
そして最後に、藤原竜也さん。
しばしの雑談を交わしたあと、
撮影が、はじまりました。
こんな話になる予定ということは、
ご存知だったと思います。
でも、まだ台本はできていません。
その段階で、4名の俳優たちは、
カメラの前で、
なぜ、あんなふうに動くんだろう。
なぜ、あんな表情をするのだろう。
できるのだろう?

撮影/こむらさき 撮影/こむらさき

つくづく、
俳優って不思議だなあと思いながら
じゃまにならないよう、
はじっこのほうで見ていました。
そしたら、
柄本さんがふらっとやってきて、
ベランダから眼下の街並みを見やり、
「昔‥‥このへんにさぁ、
うまいラーメン屋があったんだよな」
と言って去っていきました。

撮影/こむらさき 撮影/こむらさき

この時点では『てにあまる』という
公演のタイトルも、
ぼくは、まだ、知りませんでした。
決まってなかったのかもしれない、
もしかすると。
そもそも‥‥いま撮っている写真は、
最終的に何になるのか?
そしていずれ目にするはずの物語は、
ここから、
どんなふうに立ち上がってくるのか。
わからないことばかりです。
舞台初日まで、2ヶ月ちょっと。
それだけは、ハッキリしていました。

撮影/こむらさき 撮影/こむらさき

これから、この連載では、
12月19日の舞台の幕開きまで、
稽古場や制作現場に
ときどきおじゃまし、
ひとつの物語が
どのようにうみだされていくのか‥‥
そのようすを、
できるだけリアルタイムに、
お伝えしていこうと思っています。
ビックリするようなことが
起こるかどうかは、わかりません。
物語とは、どう、うまれるのか。
目の前の事実が
そのままの事実として伝わるよう、
ひとりの記録係として
見たこと感じたことを、
書いてみようと、思っています。

(続きます。12月19日まで不定期で更新します)

2020-11-20-FRI

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