南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。

>糸井重里

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糸井重里(いといしげさと)

コピーライター
株式会社ほぼ日会長

雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。

>南伸坊

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南伸坊(みなみしんぼう)

イラストレーター
エッセイスト

蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。

>篠原勝之

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篠原勝之(しのはらかつゆき)

ゲージツ家
作家

鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。

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第41回 延命と永眠


糸井
ぼくらの知ってる人で言うとさ、
和田誠さんがさ、誰にも会わなくなって、
家族だけが静かに会っている状態が続いて、
亡くなったじゃないですか。
それから、谷川俊太郎さんも、
また今度会おうね、のまま会わなくなって、
そのまま逝ってしまった。
つまり、社会的な意味での
和田誠さんとか谷川俊太郎さんというのは、
まず、いなくなった状態になって、
それから亡くなっているんですよね。
そういう去り方、
ある意味でいえば見栄の張り方は、
俺はすごくわかるんですよ。
それはちょっといいなっていうか。
そっちがいいな、っていう気が。

南
うん、うん。
篠原
そうだなあ。
糸井
毎日、じゃんじゃんお見舞いの人が来てさ、
まもなく死にますっていうのよりも、
なんか隠れて消える方がいいかなっていう。
篠原
猫とか象みたいにな。
糸井
ああ、そうだね。
それがいいよね、できたらね。
篠原
俺もそれがいいな。
糸井
ただ、あれなんですよね、
和田さんにしても、谷川さんにしても、
ぼく自身は、もう一回会うだろうな、
と思ってたところがあるんですよ。

南
ああ。
糸井
それは、なんか、
残った側のさみしさがちょっとあったなあ。
南
そうかもしれないね。
自分がどっち側にいるかで
変わってくるんだな。
糸井
わからないけどね。
延命のことにしたって、
俺はしなくていいぞといまは思ってるけど、
そう簡単なことでもないんだろうし。
苦しくないのがいい、とは思うけど、
どういう段階の何をして、
何をやりたくないのかわかってない。
肺が苦しくてぜいぜいして息苦しいとき、
吸い取りましょうって言われたら、
それを断りたいのかっていうとよくわからない。
南
ああ、そうだねえ。
糸井
延命なんかしなくていいって言ってる俺らは、
すごく不遜なことを言ってるのかな、
命を大事にしてないのかな、という気にもなる。
南
そんなことはないでしょ。
篠原
そんなことないと思うぞ。
おっかさんはそのまま死んじゃったけど、
不遜でもなかったし、
命を粗末にしてたわけじゃない。
ただ、ただ、「おー」って言いながら
死んじゃっただけだよ。

糸井
そうだね。
まあ、どうなるんだろう、そのとき。
篠原
俺だって、何も要らないって言ってるけど、
いざそうなったら、
もっと生きたいとか言い出すかもしれないしな。
糸井
そうそう、そこ、興味あるんですよ。
そうなったら人間というのは
もう10分でも長く生きていたくなるんだ、
っていう話も聞くし、
でも、みんながそうだとくくるのも
気をつけたほうがいいと思うし。
南
うん、うん。
篠原
かといって、
わざわざ死にたいとも思わないもんな。
糸井
思ってない、思ってない。
そうなんですよ。
だから、人間って、いろんな思いがあるから、
よくわからなくなってくるんだよね。
それよりは、比べるわけじゃないけど、
うちの犬が死んだときのほうが、
きちんと考えられた気がする。
篠原
ああ、わかる気がするな。
糸井
うちの犬、体力がだんだん落ちていって、
食べられなくなってね、
けっこう長く入院してた。
たぶん、昔の犬なら、自然に死んでるわけだよ。

南
まあ、そうだね。
糸井
お見舞いに行くんだけど、
もう病院から出られなくて。
最後に家に一回引き取って、
一日いっしょにいて、また病院に戻して、
どうしますかっていう状態になった。
いよいよ酸素の部屋にしかいられません、
っていう状況でね。
それはどういうことを意味するかっていうと、
ただ、その酸素の部屋で、
体力が尽きていくだけなんだ。
かみさんと二人で、その話を聞くわけだよ。
どうするかっていうのは、
二人で相談して決めるしかない。
かみさんは、いつもいろんなことを
自分で決める強い人なんだけど、
そのときは、どうする? って俺に言うわけ。
つまり、このまま酸素の部屋に居続けるか、
まあ、安楽死をさせるのか。
南
ああ。
糸井
それは、つながってる管に
眠らせる薬を入れるということを聞いた。
眠っちゃうと、そこでおしまいになる。
でも、めずらしく、かみさんが
どうしたらいいかわからない、
っていう状態だったから、俺が決めた。
眠らせることにします、って。
俺がそう言ったら、かみさんはいつもの感じで
わかったって言って、酸素室の前に行って、
「私が抱く」って言った。
俺は、抱きたいわけじゃなかった。
そこは、役割が違うんだよね。
先生が、いま薬が入りましたって言って、
抱いてるかみさんには心臓の動きがわかるから、
しばらくして「‥‥止まった」って言った。
そこから連れて帰る話をして、
お花とか箱とかを用意して、
なんていうか、そこはちゃんと
ひとつずつ選んで進んだ感じがした。
人だったら、あんなにひとつひとつ
ちゃんと考えられたかどうかわからない。
それは、へんな言い方だけど、
経験しておいてよかったなという気がする。
南
そうかもしれないね。

糸井
眠らせる、イコール、死ぬ、だったのは、
ちょっと俺、うらやましいというか、
いいなと思った。
もちろん悲しかったけどね。
いまになってみると、
そのくらい一回純粋化させて考えた方が、
自分にはいいのかなと思った。
眠らせる、イズ、死ぬ、っていいなって。
篠原
うん。永眠っていうもんな。
糸井
そうだ、永眠。うん。
あと、どんなに死にそうになっても、
動物が絶望しないんだっていうのは、
すごく説得力があった。
篠原
そうそうそう。
動物もそうだし、植物もそう。
死にたいなんて思う生物なんか、
人間以外はいない。
糸井
いないですよね。
篠原
ネコヤナギだって、
死にたいなんて思わないからな。
糸井
ネコヤナギ‥‥。
南
それは動物と植物を兼ねた例として?
篠原
いやいや、たまたま思いついただけ(笑)。
糸井
動物も植物も、ネコヤナギも絶望しない。
南
いいねえ(笑)。
篠原
はははははは。

(長く続きました、次回が最終回です)

2026-04-06-MON

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  • 写真・山口靖雄(MountainDonuts)

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