
南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター
株式会社ほぼ日会長
雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。
南伸坊(みなみしんぼう)
イラストレーター
エッセイスト
蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。
篠原勝之(しのはらかつゆき)
ゲージツ家
作家
鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。
- 篠原
- 俺のおっかさんが死んだときな、
おっかさんは、
延命処置をするなって言うわけよ。
親父は延命処置して、何年も生きただよ。
おふくろはそれを世話したんだ。
それもあったのか、おふくろは俺にね、
死ぬときはね、延命処置は一切するなと。
だから最後にね、俺は横にいて、
手を絶対出さないようにしようと思って
死ぬまで横で見てた。
するとね、おふくろが、
「おおぉぉぉーーー!」って、
すごい声を出したんだよ。
もう、腹から、男みたいな声を。
- 糸井
- それは、病院で?
- 篠原
- いや、施設の部屋なんだけど、
その施設の建物に響き渡るくらいの、
「おおぉーーー!」っていう声を出した。
俺は、枕元でそれをずっと見てたんだけど、
それが、どうもね、
苦しんでいるようには見えないわけよ。
- 南
- うん。
- 篠原
- 「おおぉーー」って言いながら、
身体をよじらせるんだけど、
こう、おどってるようにも見えるんだよ。
- 糸井
- お医者さんは呼ばずに。
- 篠原
- うん。呼ぶなって言われてるし、
呼んでもしょうがない感じだったし、
ずっと見てたんだ。
それで、「おおー、おおー」って言いながら、
だんだん、息を吐いていくんだよな。
「おおー‥‥おおー‥‥」って
だんだん吐く時間が長くなっていく。
目はな、部屋の天井の片隅を見たまんま。
「おおー‥‥おおー‥‥」って、
言いながら、息を吐いて、
最後、体中のぜんぶの息を、
「おおぉぉぉぉぉ‥‥」って言いながら、
こう、吐き終わったんだ。
それで、そのまま、止まった。
- 糸井
- ぜんぶ出しちゃった。
- 篠原
- ぜんぶ。
- 南
- へぇぇぇ。
- 篠原
- 口も、そのままの形で止まった。
間抜けな口のまま、死んだんだよ。
俺は、おふくろがな、
俺にそれを見せたのかなと思うんだよ。
- 南
- ああーー。
- 糸井
- すごいね。
- 篠原
- 死ぬということの瞬間をな。
だから、死体になったわけだよ。
それまでは、
おっかさんというものだったんだけども、
息をぜんぶ吐き終わったあとは、
動きが止まってね、死体になった。
- 糸井
- そうなった。
- 篠原
- それを見ててね、悲しくもなかったし、
もちろんうれしくもないし、
不思議な、淡々とした、感じだった。
南にもらった猫が死んだときのほうが、
ちょっと泣けたな。
おっかさんが死んでも、悲しかない。
あ、こういうもんかと。
そういう、死なんてものが、
俺にも、やがて来るんだろうけども。
- 糸井
- 一回、その見本を見てるわけだ。
- 篠原
- おっかさんのな。
それをちゃんと見せてくれたんだな
と俺は思った。
- 糸井
- へんな言い方だけどさ、
出産の逆みたいな感じだね。
逆のスローモーションみたいな。
- 篠原
- あっ、そうだな。
- 糸井
- うわーって泣いて生まれるのと、
ぜんぶ吐いて死ぬのと。
生と死だね、ほんとに。
- 篠原
- それは施設の人が言ってたんだけど、
生まれたときは、はじめて息を吸うんだと。
でも死ぬときは、ぜんぶ吐き出して逝く。
- 南
- へぇぇー。
- 篠原
- 赤ん坊って、ほら、生まれて来たらね、
おぎゃーって泣くじゃん。
最初、息が詰まってんだ、あいつ、赤ん坊。
- 糸井
- あいつね(笑)。
- 南
- あいつ(笑)。
- 篠原
- それで、おぎゃーって泣いて、
息といっしょに、中に詰まってたものを、
パーッと吐くんだよな。
水生生物が急に陸上に上がってきたみたいにな。
- 糸井
- そういうことだね。
いやあ、すごいものですなあ。
- 篠原
- まあ、おっかさんが、そんなんだったから、
死ぬっていうのが、具体的になったな、俺は。
- 南
- ああ、具体的。たしかに。
- 篠原
- 施設の人がよ、気をつかってくれたのか、
俺をひとりにしてくれてな、
ちょっと俺、おふくろの布団の中に入ってよ、
いちおう、こうしてね、軽く抱いたりして。
それから、のそのそ降りてきて、
それはちょっとかっこ悪かったな(笑)。
- 南
- (笑)
- 糸井
- (笑)
(忘れられないお話でした)
2026-04-05-SUN
-
写真・山口靖雄(MountainDonuts)
これまでの「黄昏」シリーズ
黄昏
黄昏放談
黄昏 日光・東北編
黄昏 あちこち編
黄昏 スカート編
黄昏 ブータン編






