遠くに見えていた大阪城ホールが
どんどん近くなると、心が躍り始めます。
ここまでの人生で何度聴いたかわからない、
70年代を代表するバンド、
Earth, Wind & Fireのコンサートです。
会場やポスターをバックに写真を撮る人たちがあちこちにいて、
笑顔でグッズを掲げてポーズをとる姿には、
ついにここに来たぞ、始まるぞ、
という喜びが溢れています。
アイドルのコンサートに比べれば年齢層は
ずっと高めなのでしょうが、
どの人の顔もキラキラと「あの頃」に戻っている気がするし、
僕もやっぱり、
いつもより10年以上は若返っていたかもしれません。

踊って歌うことはできないけれど、
別の形でお客様をお迎えする立場となった
僕の野球漬けの日々には
「自分の好きな何かを見に行く」という機会が
ほとんどありませんでした。
「見にきていただく」側だったし、
「会場（球場）の中で迎える側」だったので、
こういった大きなコンサートに向かう
ひとつひとつの感覚が新鮮でたまりません。

野球ファンは、京セラドームのくねくね屋根が見えてくると、
おおー、でっかいなー、と声が出るのかもしれない。
僕がどれにしようかと迷いながら
アースのTシャツを１枚買ったように、
グッズ売り場でウキウキしているのかも。
そんなこんなを想像すると、
今更ながら球場に足を運んでくれる人のありがたさを
思わずにはいられませんでした。

さて、スタンド席に陣取って辺りを見渡します。
うーん、こんなふうに見えるんや。
建物の上の方、お客さん側からの視点がなんとも面白い。
そして性格的に、あちこちを観察せずにはいられない。
開始前からテンションマックスの年配の女性二人組、
仕事の後でしょう、疲れ果てた様子で座り込むスーツ姿の男性、
70年代ファッションに身を固めたグループ、
お互いはお互いを知らないのに、同じ目的で集まって、
同じアーティストの登場を待ち焦がれているのです。
同じ音楽にそれぞれが
いろんな思い出を載せて生きてきたのです。
じわじわと高まる連帯感が、
同じチームを応援するって
きっとこういう気持ち？ と思わせます。
僕はどちらかというと、周りがはしゃげばはしゃぐほど、
冷静になってしまうタイプです。
一緒になってウエーイ！とできないのは、照れもあるから。
けれど今日こそは、今夜こそは、
この人たちと共に、
痛い膝のことなど忘れて弾け踊ると心に決めたのでした。

ところが。両手を高く上げて左右に振ったり、
縦乗り横乗りのリズムの中、
まさに見知らぬ同士が大きな波のようにうねって
会場がひとつになっている今！
俺！ 違う！ ひとつになれてない！ ずれているのです。
何かが間違っていると自分でもわかります。
けれど動き出したら、
動きの中で修正することはもうできないのです。
これは明らかに、右隣の男性の影響なのです。
彼がワンテンポずれる、そのズレに、引き込まれ、
引きずられてもう後戻りはできません。
僕はもともとリズム感が悪くて、リズム系のゲームは下手で、
歌を歌えばハモれず別のメロディーを創作してしまいます。
運動ができるのと、リズム感がいいのは、
必ずしも両立しないのです。
とりあえず右の人のせいにしておこう。
でももしかしたら、
彼もまた僕に引きずられているのかもしれません。
かくして、会場全体とは一体化できなかったのですが、
右隣の男性とは、二人とも見事なぐらいにぴったりズレて、
連帯感を勝手に感じることができました。

リズム感で頭に浮かぶのは、子供の頃の大縄跳びです。
身体を上下に揺らしながら、
走り込むタイミングを見計らっていたあの頃。
解説の仕事も一緒で、
実況の方が回している言葉の縄跳びの中に、
リズムよく飛び込んでいくのはとても難しいのです。
もし球場の実況席で僕を見かけて、
不自然な感じで身体が上下に揺れていても、
暖かく見守っていただけますでしょうか。
コンサートは、最高でした。

2025年５月４日　田口壮

ほぼ日読者の皆様、メッセージをありがとうございます。
必ず読ませていただいております。
質問に対しては全てにお答えできず申し訳ないのですが、
今後回答できるように、必ず心に留めておきますね。
お名前のない方は、勝手に名付けさせてもらっています。
少しずつ、この場をお借りして、
ひとことお返事させてください。

●島さん
ゴルフも野球もメンタル大事ですね。痛感しています。

●陽子さん
少年野球と親との関わりは、
僕もその一人として考えさせられる問題です。
これに関しては少し時間をいただけますか。

●同年代のおっちゃんさん
スタジアムから離れていても、近くにいてくださるのを感じます。
ありがとうございます！

●38歳社会人男性さん
野球選手はサウナ好きが多いです。
就活うまくいきますように。

●三年目の女性ファンさん
応援歌だって男声女声でコラボする時代。
プレーする側としては女性大歓迎ですよ。

●WBCきっかけで野球を好きになったさん
嬉しさも悔しさも共有してくださってありがとうございます。
今年はいい思い出が増えそうですね。

●ゆずきさん
野球女子の代表やね。がんばれ、ゆず！

●STさん
同級生！ 電車で見かけたらお声がけください。

●57歳男性さん
まあしゃあない、は魔法の言葉。
慣れるまで時間がかかってもきっとうまく行きます。

●オリしょーさん
親の希望が子供に反映されないのは切ないものです。
一方で、自分の意思をしっかり持ったお子さんです！

●京都からダブルデッカーさん
僕も乗ってみたいです。どこでもいいんですね。
ナイス情報ありがとうございます。

●北海道在住伊藤広海好きさん
野球をご存知ないと言いつつ、
スポーツの見るべきところや
本質を鋭くついていてびっくりです。

●出勤途中気が進まないさん
お仕事お疲れ様です。
僕が少しでも役に立っているなんて光栄です。

●みどりさん
その後体調はいかがですか。
元気を送ります！ ハアーッ！

●何気ない一錠さん
助けてもらってこその薬。
上手に付き合いたいですよね。

●腕時計が誤検出さん
ホンマにね、いっそ腰に鈴下げようかと思いました。

●タナボタばんざいさん
むむむって、たまに鬱陶しくて黙っとけ！
って思いませんか（笑）？
一緒にぴょんぴょんしましょう。

●みすずさん
ありがとうございます。
僕もみすずさんのいいシーズンを願っています。