怖いけど、ちょっと気になる。
そしてなぜこんなに嫌われているのかを知りたい。
ゴキブリについてぼんやり考えていたある日、
“ゴキブリスト”と
名乗っている人がいることを知りました。

そこでゴキブリに興味がある人を募って、
ゴキブリスト・柳澤静磨さんに
ゴキブリのこと、
あれこれ聞いてみました。
担当はほぼ日かごしまです。
(ほぼ日の學校の収録を読みものにしました)

この授業の動画は、ほぼ日の學校でご覧いただけます。

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ゴキブリが苦手な人向けに、
写真などをいきなり見せない
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写真がダイレクトに見られる
通常バージョンにも簡単に切り替えられますので、
お好みに合わせてお読みください。

>柳澤静磨さんプロフィール

柳澤 静磨 プロフィール画像

柳澤 静磨(やなぎさわ・しずま)

静岡県磐田市にある竜洋昆虫自然観察公園副館長。
東京都八王子市生まれ。
新潟での学生生活を経て、
静岡県にある磐田市竜洋昆虫自然観察公園の職員となる。
石垣島・西表島での昆虫採集をきっかけにゴキブリ沼にハマり、
ゴキブリの魅力を伝えるべく「ゴキブリスト」を名乗って
普及啓発・研究活動を始める。
現在、100種以上のゴキブリを飼育し、
ゴキブリを求めて世界を旅している。
著書に『ゴキブリ嫌いだったけどゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)
『愛しのゴキブリ探訪記 ゴキブリ求めて10万キロ』(ペレ出版)、
『ずかん ゴキブリ』 (技術評論社)などがある。

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第3回グルメである。

──
多くの人が知らないけれど、
ゴキブリと長く接している
柳澤さんなら知っているゴキブリの魅力を
教えてもらおうと思います。
柳澤
どれを一般の人が知っていて、
なにを知らないのかを
よくわからなくなってきているんですけど(笑)。
単純に種の数が世界に4600種以上いるのは
知られてないところですし、
日本だけでも現状65種類いるんですね。
よく目に入る種類は
クロゴキブリやチャバネゴキブリなど2、3種。
生態としては、
グルメなところがあります。
ゴキブリってひとつのエサをあげつづけると
そのエサに飽きるんです。
そんなとき別のエサをあげると食いつきが変わるんです。
いろんなものを食べることで
栄養が偏らないようにしているようです。
昆虫だと同じ葉っぱを食べつづける種類が多いので、
食べ物に対する人間っぽさというか
グルメなところはゴキブリの面白いところです。
──
ゴキブリってどんなものを食べるんですか?
柳澤
雑食なので何でも食べます。
よく言われるのが髪の毛も食べること。
都市伝説みたいに言われていますが、
人間の髪の毛も食べることができます。
あとは紙も食べるので
書店の本の背表紙が食べられちゃっていることがあります。
特に古本とか。
──
髪の毛も、本の紙も食べちゃうんですか!?
柳澤
本は紙以外にも背表紙とか革でできたところも。
あとインクのところだけかじったような
跡があるのもあります。お店からすると被害ですね。
森の中だと落ち葉や腐った木だったり、
樹液をよく食べているんですね。
飼育するときぼくがよく使うのは昆虫ゼリー。
昆虫ゼリーはクワガタとかカブトムシ用に
作られているんですが、
栄養と同時に水も与えられるので便利です。
あとはカメのエサ、ウサギのエサ、ネズミのエサとか、
固形の乾燥した飼料。
余ったエサをあげています。

──
昆虫ゼリーか。ゴキブリも昆虫でしたね。
柳澤
そうです。昆虫ゼリーで飼育をして、
たまに「今日は時間もあるし他のエサもあげようかな」と
カメのエサをやるんですけど、
普段あげていないエサをあげると
明らかに集まってきます。
正直で面白いなって思います。
──
集まってくる。ちょっとこわい(笑)。
柳澤
エサに対する反応がいいところは、
ゴキブリの飼育の魅力のひとつだと思っています。
クワガタとかカブトムシって
昆虫ゼリーを置いても「そこに置いといて」って
雰囲気を出されて、あまり反応がないですよね。
だけどゴキブリは「エサだ〜!」って感じで
寄ってくるんですよ。
犬とか猫みたいに、
与えたものへの反応がすぐ返ってくるのは
「飼っている」という感覚があるし、
心がつながっている感覚があるんです。
──
たしかに、カブトムシは反応が少ないです。
つながっている感覚があると、愛情が湧きますね(笑)。
柳澤
葉っぱの上にいる幼虫は新鮮な葉っぱをあげると
すぐ食べ始めたりするのでいいんですけど、
昆虫は基本的に反応が鈍い。
警戒もしていますし、虫かごの中でエサをあげても
すぐ反応する種類はそんなに多くはないんですよ。
捕まえてきたばっかりのゴキブリは
ケースの中で多少警戒しているのか
蓋を開けたりすると、
その衝撃でさっと
逃げ込んで出てこないんです。
累代といって繁殖させて生まれた子たちは
エサへの反応が良くなってきます。
──
そもそもゴキブリって飼育できるんですね。
柳澤さんに教えてもらうまで知りませんでした。
ゴキブリは群れというか家族で生きるんですか?
柳澤
種類によって違います。
基本的に家の中に出てくるゴキブリは
協力体制はあまりないですが、
さきほどお見せしたヨロイモグラゴキブリは
子どもを育てることが知られていて
子どもにエサをあげたり、
産んだ子供を保護するゴキブリもあります。
4600種類もいると生態はそれぞれで違うので
卵を産みっぱなしの種類もいれば、
お腹の中で卵を孵化させて
子どもを産む方式の種類もいるんですね。
生活はそれぞれの種類で違います。

──
あと柳澤さんの本で知ったんですが、
種としてゴキブリはカマキリと近いんですね。
柳澤
先祖が同じなんです。
カマキリは昆虫の中でも人気者の部類ですよね。
ゴキブリに分かれたグループと
カマキリに分かれたグループがいるわけで、
嫌われ者になってしまったグループと
人気の高いグループとで運命が分かれました(笑)。
口とか前足の構造とか、体の構造は似ています。
あと卵を産む方法も似ています。
ゴキブリってこういう卵鞘(らんしょう)という
卵がたくさん詰まった財布みたいな形のものを
ポンって産む種類があるんですけど、
カマキリも綿状で卵をたくさん一気に産みますよね。
そのあたりも似ています。
──
ゴキブリとカマキリ、外見は大きく違いますね。
柳澤
カマキリはちょっと立体的な昆虫で、
ゴキブリは平べったくて隙間に入っていけるような
昆虫なので結構見た目としては違います。
──
食べ物のこと、祖先のことなど、
わたしはゴキブリのこと何も知らなかったんだなと
思いました。

ヨロイモグラゴキブリ 最重量級のヨロイモグラゴキブリは子育てもする。

(つづきます)

2025-05-24-SAT

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  • 柳澤静磨さんの著書
    『愛しのゴキブリ探訪記
    ゴキブリ求めて10万キロ』
    (ペレ出版、2024)

    4600種類もいるという
    多様なゴキブリとの出会いをもとめて
    国内だけでなく、海外を旅するようになった柳澤さんの
    サイエンスエッセイ。
    実践的なゴキブリの採集方法をはじめ
    研究者としてどんなことを考えているのか
    柳澤さんの日常が書かれています。

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