三國万里子さんが書いた初のエッセイ本
『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』が
この秋、新潮社から発売されました。
三國さんはニットデザイナーですが、
この本は純粋に文学としての力を持っている本です。
なにしろ、由緒ある出版社である新潮社さんが、
「この文章はすばらしい!」と絶賛して、
トントン拍子に出版が決まったのですから。
そんな文学界の老舗、新潮社。1896年設立。
神楽坂にある社屋も歴史と伝統があって、
ものすごくかっこよくて、いろいろおもしろいんです。
いつかこの場所を紹介したいなあと思っていた
Miknits担当のほぼ日乗組員みちこが、
ある秋の日、三國万里子さんといっしょに
新潮社のあちこちを見学させていただきました。
日本を代表する文芸出版社、新潮社ってどんなところ?

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第5回 カンヅメ部屋とエレベーターとカレー

松本
さて、社外の施設をご案内します。
みちこ
お、ということは?
三國
いよいよ噂の「カンヅメ部屋」ですね。
松本
そうです!

▲私の荷物を全部持ってくれる
心優しい松本さん。 ▲私の荷物を全部持ってくれる 心優しい松本さん。

みちこ
カンヅメ部屋っていうのは、
なかなか原稿が書けない文豪を部屋に閉じ込めて、
原稿が書けるまで出られないように監視する、
っていう場所ですよね?
松本
ちょっと表現がよくないですが、
だいたいそういう感じです(笑)。
カンヅメ部屋は、正式には「新潮社クラブ」といいます。
宿泊できるような設備がひととおりそろっていて、
集中できる環境になっていますよ。
1階には開高健さんが『夏の闇』を書いた、
とされる部屋があります。
みちこ
おおお。
松本
2階には三島由紀夫さんがいまも居る‥‥
とか言われていますよ。
三國
それは‥‥幽霊的な。
みちこ
それは‥‥すごいですね。
会いたいような‥‥。
でも今は真っ昼間ですからね‥‥。
松本
さあ、着きましたよ。こんにちはー!
あれ? いないのかな?
じゃあ、まあ、1階から見ていきましょう。

みちこ
おじゃましまーす。
三國
おじゃましまーす。

みちこ
ふーん、思ったより、物々しくない。
三國
カンヅメ部屋というか、
文豪の自宅って感じですね。
みちこ
はい。でも、歴史を感じさせるというか。
江戸東京たてもの園に来たみたいな気分です。
囲碁の対局ができそう。
三國
本当、新宿区とは思えない雰囲気。

みちこ
なんだか、現代とは思えない、
ゆったりした時間が流れています。
松本
たしかに、そうですね‥‥。

やなぎ
こんにちは、管理人のやなぎです。
みちこ
こんにちは!
三國
よろしくお願いします。
やなぎ
どうぞ自由に見学してください。
松本
あらためて1階の部屋を見ていきましょう。
やなぎさん、ここが開高健さんが
執筆していたという部屋ですか?
やなぎ
はい、そうです。

みちこ
うわー、そうなんですね‥‥。
あの、記念写真撮っていいですか。
やなぎ
もちろんどうぞ。
みちこ
すみません、では。
‥‥パシャ!

▲すみません、開高健さんとは同じ大阪出身です。 ▲すみません、開高健さんとは同じ大阪出身です。

松本
じゃあ、2階に行きましょうか。
三國
2階が三島由紀夫さんの間ですね。
松本
と、言われています。
やっぱり実際にカンヅメになって書かれる作家さんは、
2階の方が机がしっかりあるので
いいとおっしゃいますね。
みちこ
あの、いまもちゃんと、執筆場所として
ここは使われてるんですよね?
松本
そうですよ。
時期にもよりますけど、
けっこう先々まで予約で埋まってます。
みちこ
へえーーーー。
松本
執筆だけでなく、対談の場所として使ったり。
あと、地方にお住まいの
作家の方が東京にいらっしゃるときに、
ホテルを取るとやっぱりお金がかかるじゃないですか。
ここで泊まりながら書くぶんには、
うちの施設だから、お金がかからないので。
みちこ
ああ、なるほどーー。
松本
三國さんも、いつでも泊まれますよ。
みちこ
著者だから?
松本
著者だから。
みちこ
すごーい!
三國
そのときはみちこを呼ぶよ。
みちこ
ええーーー、いいんですか!
いやいや、だめでしょう、家族じゃないから(笑)。
息子さんを呼んでください、息子さんを。
松本
さあ、2階です。
三國
すごい。畳もめっちゃきれいですね。

松本
カンヅメのイメージ変わりました?
みちこ
はい、かなり。
三國
やっぱりテレビとかはないんですね(笑)。
集中できるように。
みちこ
(スマホを見ながら)
ちゃんとWi-Fiも入ってる。
松本
そこが執筆用の机ですね。
三國
うわーー、すごいです。
いろんな作家さんが座ったわけですよね、ここに。
松本
だと思います。
でも、この椅子は最近新調された気がするなあ。
せっかくなので、写真を撮りましょうよ。
じゃあ、まず、三國さん、座ってください。
せっかくだから、マスクもはずしましょう。
三國
えええ、いいんですか。
それでは。
松本
おお、いいですね。サマになってます。
‥‥パシャ!

みちこ
このなかで唯一の著者ですからね。
松本
たしかに。
三國
ありがとう、ありがとう。
じゃあ、松本さん、どうぞ。
松本
え、ぼくはいいですよ(笑)。
みちこ
いえ、ぜひぜひぜひ。
こういうことはみんなでやりましょう!
松本
それでは、失礼して。
‥‥パシャ!

みちこ
めっちゃ素敵な写真撮れました。
三國
はい、みっちゃんも。わたしが撮るよ。
みちこ
すごい、いいんでしょうか。
私、うれしいです。
三國
いい、すごくいい。
‥‥パシャ!

みちこ
わーい(笑)!
いやあ、素敵な場所ですねぇ。
ドラマの舞台になっちゃいそう。
三國
ロケとかに使えそうですよね。
みちこ
こんなすてきなロケ地、なかなかないです!
やなぎ
お風呂もありますけど、見ますか?
みちこ
え、お風呂、見せてください!

▲こんなチャーミングな札が。
ちなみにお写真NGのやなぎさんもとてもチャーミングでした。 ▲こんなチャーミングな札が。 ちなみにお写真NGのやなぎさんもとてもチャーミングでした。

松本
じゃあ、お風呂も見学しましょう。
滞在する方が実際につかっているお風呂です。
1階と2階で、違う作家の方が滞在するときは、
互いに時間を決めて入ることになります。
みちこ
わあ、なんか、いい感じのお風呂ですよ!

三國
なかなかよさそうなお風呂です。
みちこ
三國さんもここに入る権利は‥‥?
松本
あります(笑)!
みちこ
すごーい、いいなあ。
三國
(笑)
松本
それでは、そろそろ本社に戻りましょう。
やなぎさん、ありがとうございました。
みちこ
ありがとうございましたー。
三國
どうもお邪魔いたしました。
ありがとうございます。
松本
見学できて、よかったです。
今日みたいに1階も2階も空いてることは
なかなかめずらしいんですよ。
三國
そうなんですね。
みちこ
貴重な場所を見せていただいて、
本当にありがとうございます。
松本
三國さん、カンヅメで書きたいときは、
いつでも言ってくださいね。
三國
仕事はあそこでできないと思うなぁ。
ソワソワしちゃうよ。
松本
はい、着きましたー。
みちこ
いまさらですけど、
この本館のロビーもいい感じですよね!

松本
これは初代の社長の胸像です。
島崎藤村と徳田秋声が発起人だったんですよ。
みちこ
え、すごーい。
松本
それでは、新潮社イチの
フォトスポットともいえる
倉庫のエレベーターに乗りますよー。
はい、こちらです。
みちこ
うわー、すごい!
三國
クラシックなエレベーター!

松本
なにしろこのエレベーター、
シャッターが手動なんです。
じぶんの手で閉めなければいけません。
あ、お願いしますー。
‥‥ガシャン!

みちこ
かなり古いエレベーターですね。
松本
そうですね。
ですから2週間に1度くらいのペースで
保守点検して、大事に使っています。

みちこ
この写真映えしそうなエレベーターで
撮影してもいいですか?
松本
どうぞ、どうぞ。
じゃあ、おふたりで、交代で。
はい、撮りますよー!
‥‥パシャ! パシャ!

みちこ
ありがとうございます!
時代を感じるエレベーター、満喫しました。
松本
それでは、本日最後の取材場所、
新潮社の社食に参りましょう。
みちこ
やったー。今日はカレーなんですよね!
たのしみです。
三國
入り口からのぞいたことはあるんです。
広くてすごくいい感じの社食ですよね。
みちこ
泊まれる場所もあって、社食もあって、
古いエレベーターもお風呂もあって、
おもしろいですねぇ、新潮社。
社内になんでもある。
三國
これはもう、街だね、街。
みちこ
うん、街です。
松本
はい、こちらが社食ですー。

▲ポークカレーとバターチキンカレーのあいがけにしてもらいました! ▲ポークカレーとバターチキンカレーのあいがけにしてもらいました!

三國
松本さんはこの社食に
どのくらいの頻度で来られるんですか。
松本
ぼくはもう基本毎日。
みちこ
えーー、いいなあ(笑)。
松本
うちの社食は、炭水化物が多めで、
グラタンにライスがついてきたりします。
ですから、ここに通って
ぼくみたいに大盛りばかり食べていると、
すぐに体型に表れます(笑)。
みちこ
たしかに、おいしそうですし、
盛りもたっぷりですし、
バッチリ働けそうな感じがします。
三國
うん、量がすごい。
松本
はい、それでは記念撮影ですよー。
はい、チーズ! パシャ!

みちこ
それでは、いただきまーす。
三國
いただきます。
みちこ
三國さん、どうでしたか。
自分の本を出版してくれた
新潮社さんのあちこちをめぐってきて。
三國
うーーーん、そうだねえ‥‥。
いま、いろんな新しいメディアが
たくさん出てきたこの時代に、
本というもので勝負してるって
やっぱりすごいことだなあと思います。
ウェブとか、オーディオとか、写真とか、
情報を取り入れやすくするための
工夫や仕掛けがいっぱいあるじゃない?
そのなかで、こんなに丁寧に、
本をつくっているなんて。
みちこ
うん、うん、そうですね。
三國
文章を書いて本を作るって、
いとおしいことだなあ…と感じました。
松本
ああ、そう言っていただけると。
みちこ
なんか今日お会いしてきた新潮社の皆さんが
本を大切に思ってる感じが
ひしひしと伝わってきましたね。
三國
そう、そう。
松本
みんな、ほんとに本が好きなんだと思うんですよね。
みちこ
そう思います。
本に直接関わっている装幀部や校閲部、
松本さんのいる編集部だけでなく、
受付の方も、新潮社クラブの方も、食堂の方も、
みんな本を大切にしているような。
松本
それぞれにみんな本が好きで、
そのうえでちゃんと
自分の仕事をしていると思うんです。
みちこ
すごくわかります。

松本
そして、全員がものすごく、
書き手の方を尊敬している。
三國
そうなの。だから、優しいんだよね、みんな。

みちこ
今日は、お忙しいなか、たっぷりと
新潮社をご案内してくださって
ほんとうにありがとうございました!
松本
いえいえ、こちらこそ、
取材してくださって、ありがとうございます。
三國
おもしろかったね。
みちこ
はい、とっても!
松本
またいつでも遊びに来てくださいね。
ありがとうございました!

(おわります!)

2022-11-27-SUN

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