あしかけ6ヶ月間にわたって
阪本順治監督の最新作
『せかいのおきく』の制作現場に
お邪魔する機会を得ました。
主演は、黒木華さん。
共演に寛一郎さん、池松壮亮さん。
テーマは、なんと「う○ち」です。
4月28日(金)の公開初日まで、
ひとつの映画がうまれていく
そのようすを、
不定期でレポートしていきます。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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9 「ダビング」2022年8月25日(木)@日活調布撮影所

夏の盛りは過ぎているのだろうが、まあ、暑い。途中、青々とした田んぼの脇で涼をとりながら、日活調布撮影所への道をゆく。最寄りの鉄道駅からは徒歩で20分ほどだろうか。もう何度めだろう。この道をはじめて歩いたのは、ひとつ前の季節のはじめだった。
今日は、
阪本順治監督をはじめ、撮影の笠松則通さんや編集の早野亮さん、音響効果の勝亦さくらさんなどが一堂に会する。監督の指揮下、録音の志満順一さんの仕切りで、画(え)と音の最終調整をするらしい。最終作業ダビング。メインスタッフ大集合ということで、いつまでたっても門外漢のドキドキ感で撮影所に到着、スタジオへ。我ながらちっちゃい声で「失礼しま~す‥‥」。汗みずくだったのは、暑さのせいだけではなかったと思う。
しばらく薄暗い部屋の隅っこに座って、みなさんの雑談を聞くともなく聞いていた。助監督の方が、さしいれのお菓子を勧めてくれる。と、部屋の照明が落ちた。10カウントののち、大きなスクリーンに「映画」が映し出された。ああ、『せかいのおきく』だ。これまでずっと、取材をしてきた作品だ。冒頭、汚穢屋の矢亮(やすけ)と中次が、柄杓で「肥桶」に「う○ち」を「ドボドボ、ドボッ」と。んー、いい音! いや、「いい音」という表現はおかしいかもしれないが‥‥。5.1チャンネル? はじめて映画館と同じ環境で聞いたが、いまにも「飛沫」が飛んできそうな臨場感。さすがは、勝亦さんたちのつくった「音」である。あ、あれは太秦で見たリヤカー、何だっけ、大八車? 未舗装のデコボコ道を疾駆する。走らすふたりは「汚穢屋」だ。しばらくすると、あの、一部始終を見学させてもらった長屋の場面。「なんかくせェな」。石橋蓮司さんが、篠突く雨の夜に。でもこのときって、本当は「ビッカビカに晴れた昼日中」。なのに、スクリーンからは闇夜の深さと寒さが伝わってくる。あの日の暑さと太陽を覚えているだけに、ちょっとすごい。映画って、こんなふうに映るんだ‥‥! 感動してしまった。
第2章が終わったところで、いったん止める。いちばん前に座っていた阪本監督から、いくつかの質問や修正点。「中次が厠へ行くときの声、見つからなかった?」「足音のボリュームを大きく、もっと慌ててる感じを出したい」「勝手まわりの鍋ぐつぐつ感、上げて。桶がぶつかる音は、少し抑えて」。指示がすごく細かくて驚く。「ハエの音、もっと立ててもらっていい? 3匹、飛んでるんで」何と具体的な、ハエの数!「で、アリンコの足音はやめたの?」の問いには、勝亦さんが「やめました」と。アリンコの足音‥‥?
それらの指示を、パソコンに向かう勝亦さんたちが、その場でどんどん修正していく。その作業を、えんえん繰り返す。90分ほどの作品を、今日から丸4日をかけて最終的に整えていく。最後の最後、神が宿るほどの細部を詰めていく作業だ。映画は、こうして、できあがっていくのか。夏の終わりの初号試写は、もうすぐそこだ。

(つづきます)

2023-04-27-THU

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  • せかいのおきく

    脚本・監督:阪本順治
    出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、
    眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
    2023年4月28日(金)よりGW全国公開
    配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
    ©2023 FANTASIA
    http://sekainookiku.jp /

    せかいのおきくは、 こうしてうまれた。  バイオエコノミー監修:藤島義之さん編

    せかいのおきくは、 こうしてうまれた。  阪本順治監督編

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    てにあまるがうまれる。 藤原竜也+柄本明 ある演劇制作の記録