
あしかけ6ヶ月間にわたって
阪本順治監督の最新作
『せかいのおきく』の制作現場に
お邪魔する機会を得ました。
主演は、黒木華さん。
共演に寛一郎さん、池松壮亮さん。
テーマは、なんと「う○ち」です。
4月28日(金)の公開初日まで、
ひとつの映画がうまれていく
そのようすを、
不定期でレポートしていきます。
担当は「ほぼ日」奥野です。
撮影4日目。撮影予定表の備考欄には「坂道は一気に登れ by 三遊亭円歌」。土曜日なので、太秦映画村には大勢の観光客。撮影エリアは立入禁止だが、規制線の外からはざわめき・嬌声・誰かを呼ぶ声などが聞こえてくる。本番直前になると、スタッフの方が「お静かにお願いしまーす」と声を張る。時代物の映画を、こういう状況で撮っているとは思わなかった。そもそも撮影スタッフの数に驚く。100人はくだらない。静謐な画面の外に、これだけの人が息を潜めていたなんて。後ろの方から撮影を眺めていたら「下駄、久しぶりだなあ」と通る声。佐藤浩市さんだ。つねに誰かに話題をふり、軽い冗談を言ったりして、現場を盛り上げている。好対照なのが、石橋蓮司さん。ご自身の出番がくるまでじぃーっと座って目を閉じている。蓮司さんお願いしますと呼ばれたら立ち上がり、現場へ入って台詞を言う。言い終わると戻って座り、再び目を閉じる。寡黙な方なんですねと隣の方に言ったら、ふだんはそうでもないらしい。続く場面で「そのはなしは、あとにして!」と怒鳴り声を上げているのは、主演の黒木華さんだ。
撮っているのは、昨日の大雨の翌日のシーン。路地に水が撒かれており、あたり一面ぐちゃぐちゃだ。雨のせいで、長屋の共同便所から「う○ち」が路地に溢れてしまったという、地獄の場面。今回の映画はモノクロなので「土」と「う○ち」の質感の違いをどう表現するかが、美術スタッフの課題だったという。肥溜めに落ちた経験のある自分の目にも「そうそう、そうだよね」という出来栄え(我ながら、なぜそんなにえらそうなのか!?)。当初はダンボールを混ぜていたそうだが、環境的な配慮から別の素材に切り替えたとのこと。何でできているかは、教えてもらえなかった。
「水!」。場の中心から阪本監督の声。もう少し現場に水を足したいらしい。若いスタッフが飛び出してきて、そこらへんのバケツを手にし、脇の池へザバーっと突っ込む。「あわてるな、あわてるな」と監督。「あわてんでええから、急いで!」。隣の人が「いまのギャグ、わかった?」と。「阪本監督、ああいう人なんですよ」。何となく、わかりかけています。そうこうするうち、時刻はすっかりおひるどき。このシーンを撮ったら休憩らしい。「まさかカレーじゃねぇだろうな」と誰か。「今朝、カレーパンでした」と別の誰か。「そのはなしは、あとにして!」と、さっきの黒木さんの台詞を、また別の誰か。「ははは‥‥」と一瞬緩んだ空気を「さあ、緊張しよう」と監督が引き締める。そして本番。そしてOK。おひる休憩。
はてさて、どうしよう。コンビニにでも行こうかなと思っていると、自分にもお弁当があるという。なんと、ありがたい‥‥。食堂へ移っておいしくいただき、どなたかのお気遣いに感謝する。おなかいっぱいでボンヤリしてたら、もう午後の撮影がはじまる時刻。みなさんのあとを追って、撮影現場へと続く坂道を一気に登った。
(つづきます)
2023-04-21-FRI
-

脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、
眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
2023年4月28日(金)よりGW全国公開
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
©2023 FANTASIA
http://sekainookiku.jp /



