あしかけ6ヶ月間にわたって
阪本順治監督の最新作
『せかいのおきく』の制作現場に
お邪魔する機会を得ました。
主演は、黒木華さん。
共演に寛一郎さん、池松壮亮さん。
テーマは、なんと「う○ち」です。
4月28日(金)の公開初日まで、
ひとつの映画がうまれていく
そのようすを、
不定期でレポートしていきます。
担当は「ほぼ日」奥野です。

前へ目次ページへ次へ

2 「衣小合わせ」  2022年6月14日(月)@京都・太秦

持ち場へ散っていくプロたちの背中を見送りながら、はてさて、どうしたものか。まごまごしていると「衣小(いしょう)合わせを見に行きませんか?」と声をかけてくださる人あり。助かった。ぜひお願いしますと、その方について所内の俳優会館へ。ここで、これから、寛一郎さん&池松壮亮さんの衣装の最終チェックがあるという(ちなみに衣装と小道具を合わせるので「衣小合わせ」と書くそうだ)。ふたりの役は、江戸時代のう○ちの運び屋さん。それ用の服を着て、髪もそれ風に整え(乱し?)、「本番のカメラの前に立つ姿」を仕上げていく。時代劇専門の衣装担当・大塚満さんが台本を読み込んで、阪本監督、企画・プロデューサーで美術監督も務める原田満生さんとイメージを共有しながらつくった衣装だ。草履やすげ笠、蓑のような何か‥‥など、それらしい小道具もそこここに。メモと鉛筆を手に、部屋の隅で縮こまった。縮こまる必要はたぶんなかったが、気持ち的に。と、阪本監督が登場。空気がピリッと引き締まる。役者を待つ。監督がボソッと何か言った。隅の者には聞き取れなかったが、場の空気がゆるんだので、それがギャグか駄洒落だったらしいと知る。
寛一郎さんが現れた。なるほど、これが「江戸のう○ちの運び屋さん」か。たしかに農家のお百姓さんとも、長屋の町人ともちがう。じつは細部まで「意味のあるデザイン」になっているそうだ。阪本監督が「ちょっと、そのカゴ背負ってみて」とリクエスト。長身の寛一郎さんを囲んで、ためつすがめつ、みんなで見る。前から後ろから、左から右から、見る。写真に撮る。監督・役者さん・衣装さん・ヘアメイクさんで話し合いながら、最終的にキャラクターを決め込んでいくような作業。以前、NHK大河ドラマの演出家の方に取材したとき、「何を着るか」で台詞の言い回しも変わってくると聞いた。役者の衣装とは、役者にとって、それだけ重要なものなのだろう。続いて、池松壮亮さん。着ているものが、いっそうボロボロ。つくり込みというか、汚しがすごい。そして「重たい」らしい(ご本人がそう言った)。さっきの「安全祈願」のときの池松さんとは一変、すっかり「その人」だ。銅銭の束を手にしている。これで「五十文」とのこと。重要な小道具かもしれない、覚えておこう。ちなみに、自分は池松さんの演技のファンである(以前インタビューもさせてもらった)。ゲイの大学生、モックンの担当編集者、殴られても殴られても起き上がる宮本‥‥いろんな池松さんを見てきたが、今回も楽しみ。なにせ汚いほっかむりがキマりまくっている。すっかり「江戸のう○ち運び」なおふたりは、このまま「大八車の練習」に向かうという。大八車。おもしろそうなので、ついていくことにする。

(つづきます)

2023-03-24-FRI

前へ目次ページへ次へ
  • せかいのおきく

    脚本・監督:阪本順治
    出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、
    眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
    2023年4月28日(金)よりGW全国公開
    配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
    ©2023 FANTASIA
    http://sekainookiku.jp /

    せかいのおきくは、 こうしてうまれた。  バイオエコノミー監修:藤島義之さん編

    せかいのおきくは、 こうしてうまれた。  阪本順治監督編

    制作現場レポート シリーズ

    てにあまるがうまれる。 藤原竜也+柄本明 ある演劇制作の記録