10万個でヒットの業界で、
100万個以上のヒットを連発しているのが
「キタンクラブ」という会社。
独自の考え方と判断で、
次々に新鮮なクリエイティブを生み出しています。
他と真逆のことばかりを、
主宰の古屋大貴さんが語ります。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>古屋大貴さんプロフィール

古屋大貴(ふるやだいき)

株式会社キタンクラブ 主宰。
1975年埼玉県生まれ。
株式会社ユージン(現:タカラトミーアーツ)で
カプセルトイを学び、 2006年に独立して
株式会社キタンクラブを設立。
斬新なアイデアと面白さ優先のものづくりで、
「ネイチャーテクニカラー」や「コップのフチ子」など、
次々とヒット商品を手がけている。

キタンクラブ公式サイト

  • 『コップのフチ子』さんの誕生。

    『コップのフチ子』さんは、
    2012年に誕生して、今年で10周年ですね。
    もとは、漫画家タナカカツキさんに
    考えていただいたキャラクターなんです。

    最終的に、2000万個ぐらい売れました。
    こんなに売れるとは、まったく考えていなかったのに、
    出来上がってしまった作品、生まれてしまった作品、
    と言えばいいでしょうか。
    売るために出来上がった商品ではないんです。

    「なぜ売れたか」と言うと、
    きっかけはSNSだと思います。
    みんなが携帯電話で写真を撮ってSNSにアップして、
    それが拡散された、というのがポイントですね。

    ドリンクが入ったコップや、ご飯茶碗に、
    フチ子さんが引っかかっている。
    そんな写真を撮って、友だちに送る。

    この一連の作業がたくさん行われたってことが
    一番売れたきっかけなのかな、と思います。

    もう一つ、けっこう大事なのが、
    フチ子さんは、カプセルトイから
    生まれたオリジナルのキャラクターなので、
    漫画やアニメのキャラクターみたいに、
    何も性格付けがないんですよね。

    そういう決まったキャラクターがないからこそ、
    それを買った消費者の皆さんが、
    それぞれ自由に、背景やキャラクターを考える。
    そういう「のりしろ」みたいなおもしろさがあるのも、
    売れた理由になっていると思います。

    最初フチ子さんは、落書き程度の手書きのラフが
    ちょっとあっただけのキャラクターだったんです。
    もちろん、種類もこんなになかったし。

    ただ最初から、
    「コップのフチに引っかかるフィギュアがあったら
    おもしろいなぁ」っていうのは、ありましたね。

    そのあと、色がついた彩色見本が来た時に、
    「これは絶対売れる」って思いました。

    フチ子さんを、よく見ていただくとわかるんですが、
    ヒザの所とか、関節の裏とか、ひじの所とか、
    いちいち赤い紅を差してるんです。

    普通は、こんなことをやる必要はないんです。
    全部一個ずつ手作業でで塗らないといけないから、
    その分コストが上がってくるんですよね。

    パンティが見えるものが結構あるんですけど、
    スカートの中って、機械では塗れないので、
    筆を入れて塗るしかないんですよ。
    中国の工場で、工員のおじさん達が
    筆入れて一個一個パンティ塗ってるんです。
    スカートも逆さまになったら、めくれ上がってるし、
    服のシワなんかも、ちゃんと作っています。

    そういう余計なことばっかりやって作ってるのが、
    『コップのフチ子』なんです。

    こんなふうに細かいこだわりのおかげで、
    フチ子さんは、人間っぽく見えてるし、
    ちゃんと存在に温かみがあるんだと思います。

     

    『フチ子さん』以外のヒット商品の数々。

    これは、ちょっと昔のやつなんですけど。
    温泉や銭湯にいくと、ロッカーの鍵がついている
    こういう手首に巻くバンドがありますよね。

    普通はスライドして鍵が出てくるんですけど、
    この商品は鍵を出すところから、時計が出てくる。
    そして、ボタンを押すと時間が出るんです。

    これは、うちのスタッフのアイデアなんですが、
    スーパー銭湯に行った時に思いついたって言ってました。

    ※おにぎりん具のシリーズ累計販売数は現在200万個以上に更新

    最近のヒットは、この『おにぎりん具』なんですけど。
    球状のカプセルではなくて、このおにぎりの状態で
    カプセルマシンから落ちてくるんですよ。

    おにぎりを開けると、中には
    おにぎりの具の形のリングが入ってる。
    これはネギトロのリング。
    ほかにも鮭とかイクラとか、色々あります。

    最近、テレビで取り上げられたこともあって、
    『おにぎりん具』を何個も指につけて、
    写真を撮って、SNSにアップしてくれているんですよ。
    そして、みんながシェアして拡散する。
    これが、コミュニケーションツールになってるんです。

    これは、マッチ箱の中に猫が隠れているんですけど、
    開ける前から、ちょっと手がでてる。
    で、こうマッチ箱を開けると、
    猫がひょっこり顔を出すんです。

    これは昔からあった「仕掛け」だと思うんですが、
    みんなが忘れてた懐かしいギミックを復活させた、
    という商品です。

    猫のかぶりモノのシリーズです。
    これもよく売れましたね。
    実際に猫がかぶることができるんですけど
    これがトータルで600万個以上売れてるんです。

     

    大ヒット商品をいくつも生み出せるわけ。

    「何にも気にしなかった」っていうところが
    良かったのかもしれませんね。
    「よし儲かった!これでいこう!」
    みたいな感じだけでやってきた、という。

    そう言いつつ、実はそんなに儲かってないんですよね。
    儲かってなかったのも、良かったかもしれないです。

    途中100万個とかいったら「やった儲かった!」って
    思ってしまうんですけど、
    実は、そこまで利益出てないんです。
    100万個の時点では。
    最終的に、1000万個、2000万個となった時には、
    儲かってるんですけど(笑)。

    よく分からないまま、
    楽しいから作ってたっていう感じです。

    普通だったら、ヒット商品が生まれると、
    フィギュアだけじゃなくて、それを派生させて
    マグネット出そう、ステッカー出そう、とか
    いろいろやるんですよ。

    でも、うちは、マーチャンダイジングで、
    展開を横に広げるっていうのをやらなかった。
    ちょっとは、やってるんですよ。
    それは、あくまでも、
    イベントをやる時にちょっと作るぐらいです。
    あんまり、儲けるための展開をしてこなかったんです。
    「儲け」ってところと、離れてたんですよ。

     

    ヒットの肝となる企画のアイディア。

    たとえば、オタクのイベントがあると、
    そこに出向いて、作家さんを見つけてきたり。

    彫刻作家さんのイベントに出向いて、
    そこで交渉をしたりだとか。
    常日頃、みんなで探し続けてます。

    月1回、企画会議があるんですが、
    その会議のために、みんな見聞を広める努力をしてます。

    うちの会社が「早く帰ろう」って言ってるのは、
    そういう見聞を広めるためには、
    会社にいても何にもならないので、
    早く帰って、みんな遊びましょう、ということです。

    毎月1回の企画ミーティングにはみんなが集まります。
    企画の採用基準は、アイデアを発表した時に、
    「みんなが一瞬で、湧くかどうか」なんですよ。

    アイディアが出た後、
    みんながちょっと黙る瞬間があると、
    それは大体ダメですね。
    5秒ぐらいみんなが「うーん」となると、
    「 はい!すいませんでした!」って
    却下になっちゃう、っていう感じですよね。

    ちなみに『おにぎりん具』の時、どうだったかなぁ?
    企画の最初の部分はちゃんと覚えてないんですよ。
    なぜかと言うと、これは商品化までに
    5年ぐらいかかってるんです。

    普通の企業だとしたら、
    発売できるかどうかもわからないようなものに対して、
    すっと開発研究を続けるってことはありえないんです。
    でも、この『おにぎりん具』は5年かかって、
    それでも、奇跡的にすごく売れたので、
    結果的にはよかったですけどね。

     

    キタンクラブの企画会議。

    普通、大手企業の企画会議っていうのは、
    営業と企画の部署の人たちが参加して行われるんですが、
    ぼくらの場合は、営業と企画と広報と、それから
    アイディアを持ってる人は、誰でも参加していいんです。

    アルバイトの人でも「出たい」って言ったら
    出てもらうし、外部の人でもいい。
    誰でもプレゼンしたい人に、プレゼンしてもらう。
    アイデアを持ってる人は、誰でも出ていいんです。
    まったく垣根がないですね。

    それから、決済が速い。
    大手の場合は、企画会議の後の決済が
    そこから早くても一週間はかかります。
    普通は、一か月近くかかるんじゃないかな。
    数字にもきちんと落さないといけないし、
    大手さんは、いろんな事をケアしないといけないから、
    一歩進むごとに書類を出して、絶対的に遅くなるんです。

    じゃあ、キタンクラブはどうかというと、
    A4一枚のアイデアスケッチでいいんですよ。
    おもしろいと思ったら、採用になっちゃうんです。
    スピードが早いですね

    数字に関しては、企画を採用した日の午後に
    すぐ数字の会議をやるんです。
    そこで「これ、商品化したら赤字」なんてことも
    わかっちゃうんですよね。
    でも、赤字で進むことも、もちろんあります。

    この商品は、この部分がこうやって動いた方がおもしろい。
    でも、動かせば赤字になる。
    動かさなくても商品化はできるけど、つまんない。
    そんなときには、かならず
    「赤字でも、動かして出そう」
    っていう風になるのが、ウチですね(笑)。

    大手企業だと、赤字は出せないから、
    商品化を諦めるか、動かさないまま出すか、って
    なっちゃうと思います。

     

    カプセルトイを世界に。

    ぼくは、カプセルトイが好きなので、
    この業界が盛り上がるような事は、
    先陣を切ってやりたいな、って考えていて。

    ひとつは海外です。
    海外にもっとカプセルトイの魅力を伝えたいのが一つ。

    もうひとつがwebですね。
    ネットを通じてカプセルトイをやる、ということ。

    今も、徐々に少しは増えているんですけど、
    「もっとみんなが分かりやすく」というか、
    「携帯で簡単に誰もが買える」っていうのを、
    やりたいな、というのは思ってます。

    ぼくらの商品だけじゃなくて、
    カプセルトイ業界、全メーカーの商品が
    買えるような仕組みができたらいいなと思っていて。

    どこの会社がやってくれてもいいんですけど
    なかなか大手って、そういうとこは腰が重いので。
    ぼくらが火を付ければ、絶対ほかも追随してくれるんで。

    それが、キタンクラブの役目かなと思ってます。
    余計なことをする。
    すでにある概念の外側に飛び出すっていうこと。
    きっと、何の業界でも大事なことなんでしょうけど。

    ぼくが子どもの頃、カプセルを買うと、
    出るまでドキドキだったし、
    欲しいものが出なかった時には、悔しいし、
    いいのが出た時には、すごく嬉しいし。

    カプセルトイには、プラスもマイナスもあるけど、
    やっぱり、感動がある。
    それを、これからも届けていきたいです。

     


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