アウトドアの魅力を発信している伊澤直人さん。
教えているのは、ただのアウトドア術ではありません。
野外で生活するスキルは、“生きる力”。
その能力は、いざという災害時にも役立ちます。
動画で配信中の伊澤さんの「ほぼ日の學校」の授業から、
「防災サバイバルキャンプ」というプログラムを通して
より実践的なスキルと考え方を教えていただいた
応用編の一部を読みものでご覧ください。

>伊澤直人さんプロフィール

伊澤直人(いさわなおと)

野営家。
幼少よりボーイスカウト活動に参加、
18歳でスカウト活動に於ける最高賞を受勲し、
総理大臣と皇太子殿下に拝謁。
さらに技術と経験を磨くため、
米国発アウトドア・サバイバルスクールにて
トレーニングを積み、卒業後は運営側として
個人向け及び法人企業研修を実施。
その後、東京で会社員生活を送る傍ら、
週末のラフティングや野外学校の運営に携わる。
阪神淡路大震災ではTV取材班に随行し、
報道されない現場の実情を経験。
また、東日本大震災ではボランティアとして
津波被害の復旧作業に携わり、被災者の避難生活を支援。
これがきっかけで15年間の会社員生活からの
卒業を決意し、起業。
管理されたアウトドアではなく、本物の自然を感じられる
”野営”を経験し楽しむ「週末冒険会」を運営。
自らの力と自己責任で、
自然の中で過ごせる人材を育成している。

防災サバイバルキャンプ
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  • 現場でできることは少ない

    キャンプの基礎をお伝えした1日目につづいて、
    「防災サバイバルキャンプ」の2日目は、
    いよいよ「防災」に入っていきたいと思います。

    ワークショップを中心に、
    より具体的にやっていきます。

    日本の災害には、
    地震、噴火、洪水、津波といろいろあります。
    これらに対して、
    どうやって自分の身を守っていくのか、
    そのために何が必要か、ということを考えるのが
    リスクマネージメントになるわけですが、
    「現場でできることは少ない」です。
    この意味わかりますか?

    文字どおりなんですけど、
    その場で考えて何か対応できることは、
    理想形から考えたらほんのわずかで、
    大事なことは、
    「その場で対応する < 準備をしておく」ということ。

    何か起きたその時にするんじゃなくて、
    「あらかじめ準備をしておく」
    ということなんです。

    その場でなんかやろうと思っても、
    できることは少ないです。
    だから、いかに準備が大事か。

    リスクが起こる前に、
    どんなことが来るのかな、
    どんなヤバいことが起きるのかな、
    と考えておく。
    まずは、その情報集めです。

    「起こるか起こらないかわからん」
    「そんなことは起こらない」と否定せずに、
    まず、数限りなく思い浮かぶだけリスクを洗い出す。
    情報集め。

    その中から取捨選択して、確率が高いもの、
    緊急度や重要度が高いものに順番を付けます。
    これが1番目の「予測」です。

    可能性が高いもの、重要なもの、
    緊急性が高いものというのが分かったら、
    今すぐにでも準備を始めないとマズいよね
    ということで、
    物や知識やテクニックを準備していく。
    これが2番目の「準備」です。

    そして、準備も整った、
    どうなるかわからないけど、
    やれることはやりました、
    あとは実際にことが起きた時に、
    自分が準備してきたことを信じて実行に移す。
    これが3番目の「回避」です。

    どれだけ準備しても、
    予測しきれないことは出てくるので、
    100%生き残るなんていうことは運だ
    ということになります。
    でも、運に身を任せるだけではしょうがないので、
    リスクマネジメントをやろうという話になります。

    つまり、より早いタイミングで、
    リスクを予測、かつ準備できると、
    より安全にリスクを回避できるようになる。

    当たり前といえば当たり前のことですが、
    その場であたふたするよりも、
    前もってちゃんと準備しておこうよ、
    そうすれば実際にことが起きた時に
    慌てなくて済むよね、という、
    ごくシンプルな話なんです。

    シンプルに備える

    なぜ、自分が死んじゃうのか、
    何が私の命を奪うんだろう、
    ということをトータルに考えると、
    災害、遭難、紛争、テロ、
    いろいろあると思います。

    それらがもたらす命を奪う要因。
    例えば、地震だったら、
    建物が倒れて潰されて死んじゃうとか、
    遭難だったら、
    冬山で体温が低くなって死んじゃうとか。

    そういう要因を突き詰めていくことで、
    それらに備える手段や発想を
    体系的に考えられるようになれば、
    災害も含めた、
    いろんな不安に対応できるようになる。
    ということで、
    今回の「防災サバイバルキャンプ」という
    プログラムをつくり上げてます。

    いま普段の生活では、
    本来自分ができること、こなせることまで、
    楽な道具、便利な道具に頼りすぎてると思うんです。
    そうすると、自分の本来持っている能力を活かさず、
    眠らせたままになっている。

    そこの意識をちょっと変えて、
    これ自分でもできるんじゃない?
    これ何とかできるんじゃない?
    そういう発想でものを考えることで、
    単なる棒1本、ロープ1本、布1枚で寝床を作ったり、
    あるいは、その場にテーブルがなくても、
    「この切り株で代用すればいいんじゃない?」
    という発想になってくるはずなんです。

    「創造」「応用」「兼用」と言うんですが、
    あるものでなんとかする。
    「なんとか結果を出せばいいんだから」と
    いつも言うんですが、
    これは仕事でも同じだなと、
    独立してからよく思うようになりました。

    人もいない、お金もない、コネもない。
    でも、ご飯を食べていかなきゃいけない。
    そうなると、
    あるもので結果を出さなきゃいけない、
    しかも、決まった期間内に。
    これは、野外でも、災害でも、
    日常生活でも、ビジネスでも、
    すべて一緒だと思うんです。

    災害時に最も困ること

    いちばん分かりやすいのは、
    例えば、この「火」ですよね。
    普通に街に住んで家で生活していれば、
    エネルギー源はいっぱいあります。

    寒ければ、エアコンをつければ暖かい空気が出る。
    部屋が暗ければ、壁のスイッチで電気の明かりがつく。
    ご飯が食べたければ、台所でガスを使う。

    でも本来は、昔の人のように、
    森から薪を切ってきて、火を起こして、
    暖まったり、ご飯を食べたりしてたわけです。

    いま文明社会の中でみんな共同で過ごしてると、
    誰かが得意なことは、特化した人に頼って、
    私はできることをする。
    それをお金という媒介を通して交換することで
    生活が成り立っている。
    つまり、特化した人がいてくれるから成り立つ
    という仕組みの中で生きてるわけです。

    ところが野外では、
    一通りいろんなことを自分でできなきゃいけない。
    スペシャリストとゼネラリスト
    という言葉がありますけど、
    野外で生活するためには、
    ゼネラリストになる必要があると思います。
    その代わり、クオリティは求めなくてもいい。

    その部分を理解していないと、
    何か大変なことが起きて、
    人や道具やシステムに頼れなくなると、
    一気に全部が止まってしまって、
    生活できなくなって、
    最終的には死に至ってしまう。

    電気やガスや灯油などの
    エネルギー源がなくなったときに、
    野外で生きるために、唯一と言っていいほど、
    野外から供給可能なエネルギーである「火」。
    この「火」の扱い方を知らないと、
    生きていけないということになります。

    「物」についても、そうですよね。
    歩いて行ける場所なのに、
    ちょっと遠いから楽しようと車で行く。
    普段からそういう生活してると、
    ガソリンがなくなると動けない、
    車が壊れると動けないということになります。
    多少重たい荷物でも、
    本来、自分の労力で運べるはずなのに、
    車じゃないと運べない体になってしまっている。

    それでは何かあったときにマズいなと、
    自分自身に対しても思いますし、
    ある程度の最低限のレベルはキープするように、
    自分でも運動したり、
    そういうことはしています。

    現場対応力を身につけるには

    具体的なメソッドというよりは考え方、
    いわゆる「頭の柔らかさ」だと思うんです。

    キャンプのときによく言うのが、
    何でテントの屋根があるのか?
    壁があるのか?
    雨を避けるため、風を防ぐためだよねと。

    じゃあ、風を防ぐためだったら、
    必ずしも、テントを張らなくても、
    風上の風が当たらない森や土手の陰で
    キャンプすればいいんじゃないのとか。
    ご飯を炊くお鍋がないんだったら、
    缶ビールの空き缶で炊くこともできるよとか。
    米を煮ることができる器があれば、
    ご飯は炊ける。
    そういう発想があれば、
    竹の筒でご飯を炊くこともできるわけで。

    現場対応力を身につけるには、
    そういう頭の柔らかい発想で
    目的が達成できれば、途中の手段は問わない。
    そういう発想が大事かなと思います。

    自分より弱い存在を守るには

    ちょっと酷なようですけど、
    最終的には「自分の身は自分で守る」
    というのがベースになってくると思うんです。
    体の弱いお年寄りでも、小さい子どもでも。

    ただ、そのうえで、
    カバーしてあげられることは、
    カバーしてあげる。
    そのときに必要なのが、
    やっぱり事前の準備とトレーニング。

    あらかじめ 、どうやって逃げたら、
    子どもと安全に逃げられるかを考えておく。
    その先には、どんなものがあるか。
    この子が1週間生きるのに必要な
    最低限の量は、どのくらいか。
    それと自分の荷物を合わせて、
    このぐらいの荷物に収まれば、私が担いで、
    子どもと一緒に逃げられる。

    そのために、なるべく道具を少なくして、
    子どもの分も持てるようにする知識や工夫。
    あるいは、逃げるルートや避難場所も、
    子どもが歩ける範囲じゃなかった場合、
    荷物と、さらに子どもまで背負って歩くのか。
    ということを考えておく。

    「その場で何とかする」というのは、
    かなり限定的で、できることは限られる。
    なので、前もって準備やトレーニングしておく
    ということが、いちばん鍵になると思います。

    本当にいちばん役に立つのは、
    なるべくリアルな体験です。
    だから、トレーニングでも、
    なるべくリアルに近いようにしてます。

    スキルや知識を学ぶことも大事なことですが、
    本当にいちばん必要で重要な部分は、
    どれだけ実際と同じ心境に近くなれるか。

    なので、写真や映像を見ること、
    あるいは実際に体験した人の話を聞くこと、
    しかも、きれいに編集された話ではなく、
    生の話を聞くこと。

    それがいちばん、
    いい意味で、自分に恐怖心やリアル感を
    感じさせてくれると思います。

     


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    「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。


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