意味があるとかないとか、役に立つとか立たないとか、
そんなことは、気にしない。
自分だけの “いい感じ” のアンテナをたよりに、
自由気ままに世界をたのしみ歩く
エッセイスト宮田珠己さんが、
その境地に至るまでにたどった道のりとは。
人とは違っていいんだと、きっといろんな方が、
そっと背中を押されるお話です。
見慣れた世界が、ちょっとたのしく軽やかに
感じられるようになるかもしれません。
自分だけの “いい感じ” を、探しませんか。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>宮田珠己さんプロフィール

宮田珠己(みやたたまき)

エッセイスト
エッセイスト、ライター、編集など。
主に、旅や散歩、レジャー、本に関する著作を執筆。
海の生きもの、ジェットコースター、巨大仏、
ベトナムの盆栽、迷路のような旅館、石などに関心あり。
近刊は『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』
『無脊椎水族館』など。

宮田珠己|note

  • 本当になんでもない、そのへんの石を拾う。

    今、ぼくの中で一番盛り上がっていて、
    割と最近書いた本の中で
    いろんな人におもしろがってもらえているのが、
    『いい感じの石ころを拾いに』という、この本です。

    「いい感じの石ころ」というのは、
    そのへんに転がっている石ころのことです。
    宝石とか立派な石のことではありません。
    本当に、海岸とか川とか道端で拾う石です。

    ぼくは、もともと石が好きだったわけではありません。
    たまたま、旅行に行ったパキスタンで、
    河原に石がいっぱい転がっていたので、
    ちょっと、この旅の思い出に持って帰ろう、
    と拾ってみたことがきっかけです。

    石の中に輪っかが付いているのを見つけて、
    「こんな珍しい石があるんだ!」と思って
    持って帰ってきたんですよ。

    そしたら、「こんなの日本にもいっぱいあるよ」
    って言われちゃったんですけど。
    その時は知らなかったから「珍しい!」と思って。

    でも、その石を拾ってる時間がよかったんですよ 。
    無心というか、石のことしか考えてなくて。

    ただ、時間を無駄にしているとも言えるんですけど、
    大自然の中でボーッと石のことしか見てない、
    石だけ見てるみたいな時間が、
    「なんか緩やかでよかったな」と思って。

    そんな話をすると、みなさんの中からも
    「ぼくも、どこかで拾った石を持ってるんですよ」
    みたいな人が出てくるんです。
    意外に、みんな1個ぐらい石持ってたりするんですよ。

    「自分だけじゃなくて、他のみんなも惹かれている」
    ということがわかって、やっぱりこれは、
    「みんなが惹かれる理由があるな」と思って
    ちょっと調べてみることにしたんです。

    まず「津軽にすごくきれいな石が落ちてる場所がある」
    と聞いて行ってみました。

    そしたら、本当にきれいな石が落ちてて、
    「こんなのが拾えるんだ!」と驚きました。

    それで、津軽以外にもこういう場所を調べて
    「全国に拾いに行こう」と思ったのが、
    この企画の始まりです。

    石を拾う人の中には、
    オパールとかヒスイとか水晶とか、
    そういう本当にきれいな宝石とか鉱物を拾う
    マニアの人もいるんですよ。

    一方で、山みたいな形の石を台にのせて愛でる、
    みたいな、盆栽に似た趣味の石を拾う人もいます。
    これは、専門の雑誌もあって、
    ひとつの趣味のジャンルとして確立されています。

    それ以外だと、化石や隕石を探す人たちもいます。

    ぼくが拾ってるのは、本当になんでもない、
    そういう「箔」の付いてない、そのへんの石。
    でも、「なんかいい感じ」というのが、時々あるんです。

    そういう、いろんな「石を拾う」ジャンルの隙を狙って、
    「いい感じの石を拾いに行こう」という。
    そんなふうに考えて、この本を書きました。

    「いい感じの石」を探していると。

    これが、ぼくが最初に行った津軽の浜で拾った
    錦石(にしきいし)という石です。

    この種類の石には、結構コレクターがいるんです。
    津軽の錦石はすごくきれいだ、って有名で
    地元の人なんかは取り合ったりするそうです。

    海が時化(しけ)ると錦石がよく浜に上がるので、
    人より早く海に行って、いいものを見つけて、
    拾って帰る、というような。

    その錦石のコレクターの方に案内していただいて
    これを拾ったんですよ。

    最初、その方が「錦石だよ」って渡してくれた時、
    全然きれいじゃなくて、
    「この石が人気があるなんて全然意味わかんない」
    って思いました。

    そしたら「これを磨くんだ」と言われて。
    磨くと、急に透明感が出てくるんです。

    反対側を見ると白いのが間に挟まってるんですけど
    磨くと、こういうふうに透明になって、
    奥行きが出るんですよね。

    錦石というのは、だいたい磨いてあって、
    こんなふうに中が透けて見える石も多いんです。

    それがすべてじゃないですけど、
    そういうのが結構あって、しかもカラフルだったりして
    すごくきれいなんです。
    この石も、金色みたいに見えてきて。

    「こんな石が海岸に落ちてるんだ!」と
    ノックアウトされました。

    自分の中では、津軽は聖地みたいに
    なっているんですけど、
    こういう石が他の地域にもあるんじゃないかな、
    と思って、全国いろいろと歩いたわけです。

    だいたいわかってきたのは、
    日本海側にいい石が多いなっていうこと。
    理由は、よくわからないですけど。

    石の専門の先生にも聞いてみたんですけど、
    よくわからない。

    海底にそういう露頭というか、
    岩が露出してるところがあって
    それが砕けて上がってくるんだろう、
    ということなんですけど、真相はよくわかりません。

    島根県とかも結構いいのがあったり、北海道もあったり。
    それに比べると、
    太平洋側は比較的、透明感のある石は少ないようです。

    そんなふうに歩いているとわかってくることもあって。
    知識というほどの深い話ではないですけど、
    「このへんに、いい石が落ちてるよ」みたいな話ですね。

    自分の「好き」は、子どもの頃にヒントがある

    どの本を書く時でもそうですが、
    「どういうふうに自分がそれを好きなのか」は
    結構ちゃんと検証します。
    「なんで自分は、これにそんなにこだわってるのか」
    ということですね。

    それを考え出すと、どんどん子どもに戻っていきます。
    子ども時代の好きだったこととか、
    そういう無垢だった時の感性に寄っていき、戻っていく。

    何かを書こうと思った時、
    子どもの時のことっていうのは、
    すごくヒントになるな、と思っています。

    実はみんなそうなんじゃないかと、最近思っています。
    ある画家さんから、
    「描けなくなっていた時に、子どもの頃描いてた絵を、
    今の技術で描き始めたら、売れた」
    という話を聞きました。

    「三つ子の魂百まで」じゃないですけど、
    人間の奥底の小さいころに感じてたことを
    掘り起こしていくと、
    本当の自分の好きなものというのが
    見つかるのかなって思っています。


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