
ホストクラブ、キャバクラ、シャンパンタワー‥‥
現実から一歩離れたような場所、新宿歌舞伎町を、
ライターの佐々木チワワさんは
「社会学」の視点で研究しています。
自身も歌舞伎町の住人でありながら、
冷静に夜の街を見つめる佐々木さん。
お金でつながり、演技し合う歌舞伎町の人間関係の裏には、
「現代の誰もが持っている本心」が隠れているといいます。
知らなかった歌舞伎町が見えてくるお話、
ほぼ日の玉木がうかがいました。
佐々木チワワ(ささき・ちわわ)
文筆家。2000年生まれ。
慶應義塾大学総合政策学部卒業、
立命館大学院社会学研究科在学中。
高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、
トー横キッズやホストクラブの現場を取材し、
「歌舞伎町の社会学」を研究。
自身もホスト通いを重ね、
消費者としても参与観察を続ける。
著書に『「ぴえん」という病』(扶桑社新書)、
『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)、
『ホスト!立ちんぼ!トー横!
オーバードーズな人たち』(講談社)
『歌舞伎町に沼る若者たち 搾取と依存の構造』
(PHP新書)がある。
- ──
- 佐々木さんのご著書には、
ホストの方が大変なお仕事をしてるからといって、
歌舞伎町を単純に賛美するわけにはいかないので、
なにを研究の問題として扱うかには
葛藤があるとも書かれていました。
そのようななか、「社会学」の枠で
研究なさっているのは
どうしてなのでしょうか。
- 佐々木
- 歌舞伎町の研究って、
文化人類学っぽいところもあるし、
民俗学っぽい側面もあるので、
必ずしも社会学に限定するつもりはないんです。
ただ、最近「HUMAIプログラム」という、
AIと感情労働についてのプロジェクトでお会いした
宇野毅明(うのたけあき)先生から
「ホストという職業を通して、
お客さんとのあいだになんらかの規範が生まれて
人が変わっていくことに興味があるんだとしたら、
それは非常に社会学的な問いになるよ」と
言っていただいて。
宇野先生の指摘の通り、
私は、人に興味があるのか、
ロジックに興味があるのかでいうと、
どちらかというと「人が、歌舞伎町という町や
その独自のシステム、ルールのなかに
参入したことで、どう変わっていくのか」
というところに興味があるみたいなんです。
なので、いまのところは、私がやっているのは
社会学だといっていいんじゃないかな、
と考えています。
- ──
- 「ある人が歌舞伎町という場所に入り、
その場所のルールに従ううちに変わっていく」
とは、どういうことでしょう。
- 佐々木
- 振る舞いが変わるというよりは、
「見てわかっちゃう」という感じですね。
ある会社のなかで
「明らかに社員じゃなくて、外部から来た人」って、
なんとなくわかるじゃないですか。
同じことが歌舞伎町でもあるんです。
もうこの町の住人なのか、
たまたま飲みに来ている人なのかが、
外見や歩き方や話す内容から見えてくるんですよ。 - 歌舞伎町の住人同士だと、
ちょっと仲よくなったり距離が近づいたりと、
地域社会らしさがあります。
武岡暢先生は、人々が実際に住んでいる場所を問わず、
歌舞伎町を地域社会として提唱なさっています。
武岡先生に習って、私も、
本当に歌舞伎町に住んでいるわけではなくとも、
「歌舞伎町での営みが生活の軸になっている人たち」
同士のかかわりを「地域社会」と呼んでいます。
そこで、ほかの地域社会と違って特殊なのは
「金銭を介した人間関係」が
当たり前に入ってくるところです。 - 歌舞伎町では、居酒屋さんやラーメン屋さんでも
接客を売りにしていたり、
シャンパンを置いていたりするところが多いんです。
常連になったらシャンパンを下ろしたり
(注文したり)します。
私は、応援やお礼でお金を使うという文化が
すごく好きで。
コロナ禍のときなどは、
よく行くお店を応援するために、
チップを渡すような感覚で
シャンパンを入れていました。
「無償の愛」「無償の友情」よりも、
お金によって愛を目に見える形にするのが
好きなんです。
行き過ぎて依存やトラブルを
引き起こしてしまうことには
注意しなければいけないですが、基本的には
「私はこの人やこの場所に価値を感じているので、
時間とお金を投じます」という文化は
肯定しています。
- ──
- それは、歌舞伎町の独特な文化といえそうですね。
- 佐々木
- ほかの場所では、あまり
「なにかあったら、応援するために
シャンパン入れよう」とは
ならないですもんね。
- ──
- たしかに、ならなそうです(笑)。
- 佐々木
- 「店員さんによくしてもらったときに、
時給以上のなにかをお返ししたい」
という感覚が身についてから、
感情労働にもすごく敏感になりましたね。
- ──
- 感情労働というと、具体的にはどういうものですか。
- 佐々木
- いわゆる肉体労働や知的労働ではなく、
「自分の感情を商品とする」労働です。
わかりやすいところでいうと、
キャビンアテンダントさんや
クレームに対応するお仕事の方など、
自分の感情を管理して、
常に笑顔でいるようにする職業です。
接客業全般が感情労働であるといえると思います。
さらに、その感情労働のなかにも
「表層演技」と「深層演技」
というものがありまして。
- ──
- 表面と、もっと深いところ。
- 佐々木
- キャバクラなどで働く女の子が、
心のなかでは「お客さん気持ち悪い」と思いながらも、
「お兄さんカッコいい。会えてうれしかった、
ありがとう」と伝えるのは表層演技です。
一方で、「私はほんとにこのお客さんが好きで、
恋人のように接することを楽しむんだ」と
自分に言い聞かせて演出していたら、
それは深層演技なんです。
- ──
- 自分に対しても演技をするのが、深層演技。
- 佐々木
- たとえば、ガールズバーやキャバクラで働いている
女の子は、セクハラを受けたりしても、
「仕事だから」と流すことが多いです。
でも、普通の居酒屋さんのアルバイトの女の子が
お客さんからセクハラを受けたら、
それは許されませんよね。
「相応の対価があれば許せる」という人もいれば、
「お金はいらないから
絶対にセクハラはされたくない」
という人もいるから、
キャバクラなどが成立しているわけです。
外では絶対にやらないことなのに、
キャバクラに来たら
女の子の身体をさわるおじさんも、
「そのためのお金を払ってるから
そういうことをしていい」
と思ってやっているんですね。 - さっき例に出した、
店員さんによくしてもらったときに
「ありがとうございます」だけじゃなく、
お金になるなにかで返そうと考えるのは、
私が歌舞伎町から学んだ好きな考え方です。
でも同時に、お金で感情をあやつる、
歌舞伎町の病でもあると思っています。
- ──
- 学問の世界では、これまでも
「労働を正しく認識していく」ということを
目指してきたと思います。
でも、感情労働について問題提起する人は、
あまり多くありませんでしたよね。
歌舞伎町にいると、感情労働の問題に
気づきやすいのでしょうか。
- 佐々木
- 歌舞伎町では、接客してくれる人たちの
リップサービスを「労働」として認識しやすいのは
たしかですね。
すべてが建前ではないと思いますが、
普段から服屋さんなどでよく聞く
「お客さま、お似合いです」も、
接客業の労働の一部だったんだ、とか。
(明日に続きます)
2026-05-02-SAT
