清水

1960年代から80年代のレトロ感は、
かなり当時の技術に依存しているんです。
たとえば、入稿データを作るにしても、
当時はパソコンがなかったので、
仕上がるまでどうなるか
わからなかったんですよ。
だから、構成がシンプルだったりする。
それから、1970年代は、それまで
統一されていなかったデザインのセオリーが、
体系的にまとまり始めた時期でもあります。
構成がシンプルなのは、そういった時代の
影響もあるかもしれません。

──

「昭和レトロ」の独特な雰囲気には、
技術的な理由もあったのですね。

清水

実は、パソコンよりも手描きのほうが
自由度が高い場合も多いです。
当時、なぜ手描きの文字が多かったかというと、
写植をするよりも手で描いたほうが
安くて早かったからです。
だから、手描きのかわいい文字が
たまたま流行っていたというわけではなく、
背景や理由があったんです。
最近も作字のブームがありますが、それは逆に、
多くの人がiPadなどを持つようになって、
気軽に作字がしやすくなったからだと考えています。

──

その時代にやりやすい手法を選ぶうちに、
かわいいものが生まれたんですね。

清水

昭和と現代、どちらの場合も、
あえてその手法を選ぶというよりは、
「その方法がやりやすいから主流になる」
という理由は大きいです。

小鳥遊

60年代は、
おもちゃの素材自体も変化しました。
50年代に、プラスチックのおもちゃが
国内でも作られ始めたんです。
それまで主に使われていたセルロイドよりも
燃えにくく、安全ですし、
出せる色の種類も増えました。
なので、60年代にはプラスチックが
より広く使われるようになり、
プラモデルブームが起こったりもしました。

こんなふうに、60年代は、さまざまな要因から
おもちゃがたくさん売れ出した時代なんです。
大倉トーイのおもちゃが出始めたのは、
たしか、その少しあとでしょうか。

大倉

その前に、ガラスのビーズを、
プラスチックのビーズにしたのがうちですね。

──

ええっ、大倉トーイが最初に、
プラスチックのビーズを作った‥‥！　

清水

すごいですよね。
これ、ガセじゃないんですよ。
本当なんです。

大倉

そうですよ、本当ですよ。

──

びっくりはしましたけど、
うたがってないですよ（笑）。

小鳥遊

つまり、1960年代あたりは、
おもちゃ業界がすごく元気だったんです。
いまより子どもも多かったので、
つくればつくるほど売れていたみたいです。
なので、いろんなメーカーが
おもちゃを出していて。
そのなかで子どもに手に取ってもらおうと、
見た目がどんどん派手になった、
という経緯があります。
色遣いがビビッドになったり、
イラストがぎゅぎゅっと詰め込まれたり。

▲撮影：小鳥遊みかさん。

小鳥遊

この、子どもに届けたいという気持ちが
全面にあらわれた、
ギラギラ感が私は好きです。
そのときどきの流行りがあるとは思いますが、
この時代のおもちゃには、情報と一緒に
夢やあこがれも詰まっているなと感じて。

▲あこがれが詰まった、大倉トーイの指輪。

清水

正直なところ、私はいまでも、
本物の宝石より、
おもちゃの指輪のほうが好きなんです。
本物の宝石はもちろん素敵だけど、
値段が高いので、「失くしたらどうしよう」
と心配になってしまうんですよね。
おもちゃの指輪は、たくさん買えて、
いろんな種類を楽しめるのが嬉しいです。

──

たしかにそうですね。
きょう、このビーズハウスで拝見した指輪は、
高くても１個100円くらいで、
こんなかわいいものが、この値段で！？ と、
衝撃でした。

清水

大倉トーイが作っていたような
おもちゃの指輪は、
当時の大人向けの指輪カタログに載っていた
指輪を模したものが多いんです。

──

大人が持っているものへのあこがれが、
そのまま形になったのですね。
昔、大人がつけるようなデザインの
アクセサリーのおもちゃを身につけたとき、
すごくときめいたのを思い出します。

清水

わかります。
子どものとき、こういう指輪をつけたら、
ずっと眺めていましたよね。

▲清水さんの、大倉トーイ指輪コレクション。

──

清水さんの、とくにお気に入りの
大倉トーイのおもちゃはどれでしょうか。

清水

まず、こちらです。背景の絵も好きです。

清水

美しいんですけど、情報量が、ちょっと多くて。
言ってしまえば‥‥けっこう支離滅裂なんです。

大倉

はははは。

清水

四角い台紙に収めるために、右の女の子の顔が
すごく斜めになっているところもかわいいです。
両端に女の子がいて、
まんなかに蝶々がいて、花があると思ったら、
下のほうには稲のような植物が生えていて。
いまのデザインの常識からすると、
昭和のデザインは
ある意味「ハチャメチャ」だから、
真似しようと思ってもできないんですよ。

──

昭和の終わりごろにつくられたものは、
おもちゃに限らず、
すみずみまでかわいく工夫されたものが
多い印象があります。
町なかの看板や、張り紙なども、
あえてかわいい文字で書かれていて。
そういったものは、
人々が少しでも心たのしく暮らそうとした
形跡なのかなと、私は感じます。

清水

そうですね。
「よく暮らそう」という気持ちは、
どの時代でも大事なんだろうなと思います。

清水

ペンダントトップも、
たくさん持ってきました。

──

きゃあああ、かわいい！！　
気絶する！！　

清水

ペンダントトップは、プラスチックの中まで
細工がほどこされているものもあります。
この細工が、マジカル感を増幅させていて。

▲とてつもない、マジカル感です。

──

こういった細かい絵柄も、
手彫りの金型で作られていたんですね。
ちょっと圧倒されます。

大倉

それぞれの商品に入っている
大倉トーイのロゴも、
金型に手彫りで入れていました。

小鳥遊

あぁ、ロゴに個体差があるのが
気になっていたのですが、
手彫りだったからなんですね。

──

小鳥遊さん、
ロゴの個体差にも気づいていたんですね。
本当に研究家だ。

清水

こういったおもちゃのことは、
学問化されていないから、
われわれは孤独に「あっ、これとこれ違う」
みたいな発見をしては、
ひっそりよろこんでいるんですよ。