清水

私は、デザイン的な観点から見ても、
昭和のおもちゃが好きなんです。
というのも、私は、
1970年代くらいの少女向けのデザインが、
グラフィックデザイン的に
いちばんカッコいいと感じているんです。

──

どんなところが、とくにカッコいいのでしょうか。

清水

まず、ビジュアルの魅力が
ひと目で入ってくるところです。
色を見ただけで、わあっと興奮できますし、
ディテールも美しいです。
そして、この時代の少女の絵は、ちょっと
ファッション写真のようなところがあるんです。
なんというか「瞬間的」な感じがして、
前後の時間があまり見えない。
すごく楽しい瞬間だけを
切り取っている感じがして、そこも好きですね。

──

たしかに、刹那的な印象があります。

清水

現実の少女というよりは、
子どもが思う「あこがれのお姉さん」のイメージを
描いている感じがします。

──

小鳥遊さんと清水さんの、
とりわけお気に入りの大倉トーイのアイテムを
見せていただけますか。

小鳥遊

もちろんです。私は、まずはこのふたつです。

▲撮影：小鳥遊みかさん （今回、店内写真以外のおもちゃの物撮りはすべて小鳥遊さん撮影です）。

──

うわぁ、すごい！　
かわいいものがぎっしり詰め込まれてます。

小鳥遊

こちらは「おしゃれセット」です。
外箱の書き文字もかわいいんですよ。

小鳥遊

こちらのケースは、よく見ると、
大倉トーイのマスコットキャラクターの
ミユキとマコトが彫られています。

──

このふたり、ミユキとマコトというんですね。

清水

実は、大倉トーイのおもちゃに描かれている
女の子と男の子は、
みんな「ミユキとマコト」なんです。

──

えっ、そうなんですか。
見た目が違っても？　

清水

はい。全員、ミユキとマコトです。
そのあたり、おおらかなんですよね。

▲車のワッペンにも、別バージョンのミユキとマコトが。

小鳥遊

こちらのおしゃれセットは、
箱のすみずみまで
カラフルでかわいい絵が描かれています。
小物がたくさん入っていて、
すごく豪華なセットです。
個人的に、
とくに大倉トーイらしいおもちゃだなと
思います。

清水

持ち手に入っている文字も斬新ですね。
こんなデザイン、近ごろはなかなか見かけません。

小鳥遊

すごくかわいくてキラキラしているんですが、
中身をよく見ていくと、
「このアクセサリーはここにつけてね」みたいな、
指示があったりするんですよ。

──

へえーっ、具体的なんですね。
かわいいけれど、子どもに対して
媚びていない印象を受けます。

小鳥遊

そう、媚びてないんです。
作っている側の意思が垣間見えるというか。
これもアクセサリーセットですが、
箱の裏に「プラスチックケースは、
パパやママに、植木の受け皿として
プレゼントしよう」と、
ちょっとナゾな提案があります（笑）。

▲表

▲裏。小鳥遊さんいわく「ナゾの提案」が。

清水

子どもとの距離感が独特なんですよね。

小鳥遊

微妙に親孝行をすすめたりね。

▲こちらのワッペンには「パパの自動車のウインドガラスに貼って楽しくドライブに行きましょう」と提案があります。

清水

親子のコミュニケーションを生もうと
してくれている、
作り手の人格がチラっと見えてきます。
それにしても、
植木の受け皿にするかなぁ、これを。

大倉

それは、大倉トーイの社長が考えたんですよ。
社長の趣味が植木だから。

清水

あぁ、社長ご本人が植木をするから、
「このケース、使えるな‥‥」って
ピンときちゃったんだ。

大倉

たぶん、ちょうど、大きさが植木鉢に合うねん。

小鳥遊

完全に、社長の趣味ですね（笑）。
でも、なんだかいいですよね、これ。
わざわざ、
「植木の受け皿としてプレゼントしよう」
と言うためだけに、
シールまでつくったんですから。

──

たしかに。かわいい絵もついていて。

大倉

社長は、いまも植木鉢を入れて使ってます。

──

あ、ほんとに使えるんですね。

▲ピアノ型の宝石箱。

小鳥遊

こちらのピアノ型ケースは、
おもちゃと思えないほど精密に
装飾がなされています。

清水

当時のプラスチックのおもちゃは、
ほぼすべて、金型から作られていました。
その金型の造形が、ものすごく凝っていたんです。

▲ハート型の宝石箱。

清水

側面にバラの模様があったり、
美しく反射させるために筋を入れたり‥‥
細かい創意工夫が見えます。

大倉

いまはレーザーで金型をつくるけど、
昔は、金型も手彫りだったんですよ。　

小鳥遊

えっ、手彫りだったんですか。知らなかった。

──

このピアノ型ケースやハート型ケースも、
手彫りの金型で‥‥？　
つまり、手仕事でつくられたんですか？　

大倉

はい。

──

ええっ、こんなに細かいのに！？　

清水

彫刻刀のような道具で、
ひとつひとつの金型に彫り込んでいたんですね。
大量生産品でありつつ、工芸品の要素もあるんです。

大倉

ああ、そう言えると思います。

清水

私、ハートのケースが、
小さいころ家にあったのをよく覚えてます。
キラキラした宝箱みたいな細かい意匠が、
子どもから見ても美しくて。
当時の手彫りの金型だからこそ、
表現できたものだったのかもしれませんね。