──

清水さんと小鳥遊さんは、
お店にいらっしゃるとき、
店主の大倉さんとどんなお話をされるんですか。

清水

私はちょっとした雑談くらいしかしませんが、
小鳥遊さんはけっこう、大倉さんと話し込んでいる
印象があります。

小鳥遊

そうですね。
大倉トーイの情報を得られるところが、
もう、このお店以外ないんです。
なので、来るたびに、大倉さんに
「このおもちゃは何色がありますか」、
「いつごろつくられたんですか」
などと質問をして、
大倉トーイについての知見を得ています。

──

ほとんど、調査活動ですね。

小鳥遊

ふふふ、そうですね。
大倉さんは、商品ひとつひとつについて
把握なさっているので、
どんな質問にもすぐ答えてくれるんです。

大倉

いやいや、分かる範囲だけですよ。

▲質問に答える大倉さんと、熱心にメモをとる小鳥遊さん。

清水

そう言う小鳥遊さんも、すごいんですよ。
「この商品は前からあった」とか、
「これはなかった」とか、ほとんど全部
記憶してるんです。

──

すごい‥‥。
大倉トーイの記録を残しておきたいという、
気持ちの強さゆえですね。
小鳥遊さんは、大倉トーイのアイテムの、
どんなところがとくにお好きなのでしょうか。

小鳥遊

大倉トーイの好きなところは、
ものすごくたくさんありますが‥‥
端的に言うと、「いろいろな楽しみ方ができる」
ということですね。
おもちゃで遊ぶのはもちろん、
膨大な種類の小物ひとつひとつのデザインを見て
楽しむこともできます。

70、80年代のおもちゃは、
いまはあまり見ないビビットな色遣いだったり、
柄や文字が手描きだったりと、
それぞれがユニークなんです。
大倉トーイのおもちゃは、
とくにそういった見どころが多いと思います。
細かいところまで凝っているので、
たとえば美しい彫りの装飾だけに注目する、
みたいな楽しみ方もあります。
一個一個のつくりが素晴らしいですし、
それらがセットになると、
素晴らしい要素がひとつに集まって、
とっても豪華で嬉しい。
「もう完璧やん」って思うんです。

さらに、完璧かと思いきや、
あの時代ならではのおおらかなところもあって、
そこも好きなんですよ。

──

へえー。たとえば、どんなところでしょうか。

小鳥遊

よくあるところでいうと、「おままごとセット」に
「アクセサリーセット」の台紙が
ついていたりするんです。
私は独自に「あべこべ台紙」と呼んで、
愛でています（笑）。
「おままごとやのに、
アクセサリーの台紙で売っちゃうんかい」って。

▲「あべこべ台紙」。台紙は「アクセサリーセット」ですが、中身をよく見ると‥‥ミニチュアのキッチン用品など、おままごとセットが入っています（撮影：小鳥遊みかさん）。

清水

わかります。
テキトーなわけではないんだけど、
「そうしちゃうんだ」という面白さがあります。

小鳥遊

いまだったら
欠陥品としてあつかわれてしまうものが
許されていた時代の空気感というか、
完璧じゃないところにも、
愛おしさを感じるんです。

清水

むしろ、完璧じゃないものを見つけると
嬉しくなります。

小鳥遊

そうそう、見つけると
「また、あべこべや！」って。

──

それは、間違えて
あべこべになっているわけではなく、
意図的なものなんですか？　

大倉

間違いというよりは、
ほんらいの台紙が品切れになってしまったときに、
「しかたない、こっちの台紙で間に合わせるか」と
補ったことで「あべこべ」が生まれたんです。

──

なるほど。あべこべのセットが見つかると、
「あっ、このとき、台紙が足りなくなって、
別のにしたんだな」とわかっちゃうわけですね。
たしかに、ほんらいのセット以上に
つくり手の存在を感じて、
愛着が湧くかもしれません。

小鳥遊

私は、先にあべこべのほうの
アクセサリーセットを手に入れたので、
あとからほんらいのセットを見つけて、
「これだったのか！」とスッキリしました（笑）。

▲こちらが、ほんらいの「アクセサリーセット」。台紙と中身が一致しています（撮影：小鳥遊みかさん）。

──

清水さんは、どんなところがお好きですか？　

清水

まずはシンプルに、見た目が好きです。
見た目から、当時の空気が感じられるんです。

──

昭和の空気が。

清水

はい。私、ちょうど最近
「なぜ自分は昭和のおもちゃが好きなのか」
に気づいたんですよ。

──

お聞きしたいです。

清水

昭和に限らずですが、おもちゃって、
「子どもが生まれて初めて
世界に触れるためのメディア」だと思うんです。
大人が子どものために安全な空間を作り、
「世界というのは、こういう形をしているんだよ。
おもしろい、楽しいものがたくさんあるんだよ」
「この世界は生きるに値する場所なんだよ」
ということを教えてくれるのが、
おもちゃなんだと。

もちろん、
おもちゃの世界と実際の世界は違います。
でも、やっぱり私は、
おもちゃのそういう、優しいところが好きです。

とくに昭和後期の60年代、70年代については、
戦争の影響を考えざるをえません。
戦争があって、いろんなものを失って、
だけど「戦争はつらかった、苦しかった」
と言ってばかりもいられない状況があった。
そこから、だんだん経済が成長してきて、
少しずつ社会がよくなってきて、人々が
「自分たちって、生きててもいいんだ」
「もっと自由にやっていいんだ」と気づいたときの、
純粋な活気やエネルギーが、
昭和のものにはあるように思うんです。

現代で「昭和レトロブーム」が起こるのも、
いま抑圧されて生きている人々が、
昭和のものが持つエネルギーを、
無意識に求めているからなのかもしれません。

──

ああ‥‥すごく腑に落ちました。
このあいだ、児童文学の作家さんに
インタビューさせていただいたんです。
その方が、よく似たことをおっしゃっていました。
「児童文学は、読者である子どもたちに
『この世は生きるに値する場所なんだ』
ということを伝えられるもの」だと。

清水

その通りだと思います。
絵本やおもちゃは、子どもに
「この世界で大人になってみたいな」と
思わせるだけのことをしなければいけない。
私はそう感じています。