「おいしい店とのつきあい方。」でおなじみ、
サカキシンイチロウさんが、ほぼ日の學校に登場です。
歳を重ねてひとり暮らしになったサカキさんは、
ひとりで外食を楽しむヒントをつづった本
『大人の東京おひとりさま外食』を出されました。
しゃんとして満ち足りた、
サカキさん流のおひとりさまには、
どうしたらなれるのでしょうか?
孤独を受け入れた先にある、
自分で自分をゴキゲンにする食べ方と生き方について、
サカキさんの豊かな哲学を聞きました。

>サカキ シンイチロウ

サカキ シンイチロウ

サカキシンイチロウ
1960年愛媛県松山市生まれ。
慶應義塾大学経済学部卒業後、
店と客をつなぐコンサルタントとして
1000社にものぼる地域一番飲食店を育成。
語学力と行動力と豊富な知識で戦略を展開する。
飲食店の経営のみならず、
食全般に関するプロデュース、
アドバイスを主な業務として活躍中。
著書に『おいしい店とのつきあい方。』
(角川文庫)などがある。
毎日更新しているブログ
「サカキノホトンブ」
noteでも発信している。

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第1回 おひとりさまは自己責任。

──
私は、大学生になって上京して、
初めてひとりで小さなカフェに行ったとき、
ドキドキしたのを覚えています。
サカキ
おお、小さなカフェというのがいいですね。
──
サカキさんは日本全国の飲食店に行かれていますが、
いちばん最初の「おひとりさま」体験は、
覚えてらっしゃいますか。
サカキ
ボクも、大学のときだったかな。学食でした。
それまでは、外食といえば
家族でするものだったから、
ひとりで行く機会はありませんでした。
父がずっと飲食店をやっていて、
飲食店経営者の家族だったのに、
外食はあまりなかったんです。
買い食いや、学校の帰りにどこかに寄ることも
なかったの。
両親が、みんなで家で食べるということに
強い思いを持っていたんです。
たまに、誰かの誕生日や、
なにかいいことがあった日には、
みんなでご馳走を食べに行って。
だから、ずっと家の食事がいちばんで、
そうでなければ、とびきり非日常的なものを
みんなで食べに行くというイメージでした。
日常的なものをひとりで食べる習慣は、
なかなかつかなかった。
学食でも、友だちとワイワイ言いながら
食べることが多かったです。
そして、大学を卒業して、
父がやっていた外食産業のコンサルタントの会社に
入りました。
すると、「飲食店に行ってごはんを食べる」という
勉強が始まったんです。
──
お仕事として外食に行かれるようになったんですね。
サカキ
そうです。いろんなお店にひとりで行って、食べて、
報告書を書くんですよ。
最初はね、ただ「おいしかった」とか
「盛り付けがどうだった」とか「初めて食べた」
と書いていたんだけど、それだと、
ぜんぜんオッケーがもらえないの。
「おいしいから店はあるんだろう」と指摘されて、
「その通りです」って。
「どういう場所にあって、どういう雰囲気のお店で、
なにが売られていて、何種類くらいの商品があって、
だいたいいくらくらいの値段が付いていて、
なかでもボクはこれがいちばん魅力的だと思って
注文しました。結果、こうでした」というふうに
書けるようになって、初めてオッケーが出たんだよ。
だから、ボクはひとりで
食事をするようになってからずっと、
お店が持っている様々なことを分解しながら
自分のものにしていくトレーニングを
してきたんだと思う。
おもしろかったですよ。
そういう食べ方をするとね、
ひとりでもぜんぜんつまらなくないの。

──
食べているあいだ、
ずっと考えていることになりますもんね。
サカキ
そのうえ、まわりを見るようになるんです。
「どういうお客さんが来ているか」というのは、
お店を構成するすごく大きな要素だから。
そのお客さんのなかで
「自分は居心地がよかったのか」
「違和感を感じたのか」というところが、
そのお店がどういう人を顧客対象にしていて、
どういう利用動機で来てほしいのかが
現れる部分だと思うんだ。
それがわかり始めると、
自分に合ったお店がどんどん見つかるようになるの。
で、なかにはね、「自分は呼ばれてないな」と思う
お店もあるのよ。
──
呼ばれてないというと? 
サカキ
「ボクなんかはお客さんじゃないな」って。
たとえばね、若いころに、ひとりで
銀座のお寿司屋さんに行ったとき。
当時のいちばんの冒険でした。
しかもね、時間が夕方の5時半だったんだよ。
これって、すごい時間なんだよね。
銀座のお寿司屋の5時半は、大金持ちの旦那さんと、
見目麗しいクラブのお姉さまが
親交を深める時間帯なんです。
──
へえーーっ。
サカキ
すごかったんだよ。カウンターがあってね、
ボク以外全員ふたり、ふたり、ふたり、ふたりで、
ボクだけひとりなんだよ(笑)。
もう、お店の人が明らかに、
ぼくをどう扱っていいものか戸惑ってらっしゃって。
席についたときに、まず
「お連れの方はいついらっしゃいますか」
と訊かれたから、
「ああ、そういう店なんだな」と思った。
でもね、そんなところに飛び込んで行くのも、
楽しみのひとつではあるんです。
ひとりで外食するって、本を読む行為に似ています。
店構えは、本の表紙のようなもの。
看板は帯についているキャッチコピーです。
そして本をひらくと、目次があるでしょ。
それがメニューなんです。
しかも、本も、ひとりで読み始めて、
ひとりで読み終わるものです。
ただ、本は「合わないな」と思ったら
途中で読むのをやめられるんだよ。
そういう本、あるでしょう。
──
たまに、自分に合わない本はありますね。
サカキ
ボクはね、「この本、全然合わないな」
と思ったら、とりあえず読むんです。
それで、最後の10ページだけ読まないの。

──
ええっ?! 
サカキ
それで、「読んでやらなかったぞ」っていう
意思表示をするの。誰も見てないんだけどね(笑)。
でもね、飲食店は、読み始めたら、
最後まで読み終えないといけない。
だから、どういうのかな....
受け身ではいられないんだよね。
前向きに、前向きに。
「ああ、なんでこのお店を選んじゃったんだろう」
と思ったときも、途中で帰ってしまうと
「負け」だから、
「それでもボクは楽しかったよ」と思うために、
いろいろくふうするんです。
──
どんなくふうをするんですか。
サカキ
たとえば、おいしくない料理が出てきたら、
「どうやって、これを再構築すればいいんだろう」
と考えるの。
「このサイズだからおいしくないのかな」と、
小さく切ってみたり、
「これとこれを組み合わせると、
味が持つかな」と混ぜてみたり。
それでもどうしようもないときは、
まわりでおいしそうに食べている人たちを見るんです。
そして、反省をすればいいの。
「ああ、ボクの味覚はもう衰えたんだな」
「おじいちゃんになっちゃったんだな。
若い人はこれがいいんだな」なんて思いながら
食べていると、それはそれで学びがあるから、
みじめではないです。
ひとりで食事をするっていうことは、
自己責任だから。
なんの責任を取るかというと、
「このお店はつまらなかった」と、
自分に思わせない責任です。
『大人のおひとりさま外食』を書いたときに、
あらためて気づいたことがあって。
ほぼ日さんで連載させてもらっていた
「おいしい店とのつきあい方。」では、
「受け身にならないで囲む食卓って、
こんなに素敵なんだよ」ということを
ずっと書いていたんだなあ、と。
だから、ある意味「おいしい店とのつきあい方。」
があったから書けた本なんです。

──
本のタイトルにも「大人」とあるように、
「おひとりさま」には大人なイメージがあります。
自分で責任をとるということも、
大人になるために大切なことなのかもしれないですね。

(明日に続きます)

2026-06-28-SUN

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  • 『大人の東京おひとりさま外食』
    (主婦と生活社)
    サカキさんが通う東京の飲食店と、
    その「おひとりさま」流の楽しみ方を
    紹介する本です。
    読めばきっと、ひとりで外食に
    出かけたくなりますよ。

     

     

    聞き手:下尾苑佳
    書き手:松本万季
    デザイン:土屋梓