こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第10回 盲学校の生徒たちの立体作品。今だから、見てほしいです。[山本ゆきみさん(ギャラリーTOM)]

──
この3月から5月にかけて、
ギャラリーTOMさんで予定されていた
「ぼくたちの作ったもの」展、
とても興味があって、
ぜひ、拝見しようと思っていたんです。
山本
ありがとうございます。
──
盲学校の生徒さんが制作した立体作品の
展覧会ということですけれども、
現在の新型コロナウィルスの感染拡大で、
残念ながら開催延期になってしまって。
山本
ええ、でも7月に
あらためてやろうと思ってるんです。
──
はい。ギャラリーTOMさんには、
柚木沙弥郎さんや
安田侃さんのインタビューのときに、
お世話になっていますね。
山本
いえいえ、こちらこそ。
──
あらためて、TOMさんの設立の経緯を、
教えていただけますでしょうか。
山本
現館長の村山治江さんの息子である
村山錬さんが「全盲」だったということ。
このことが、ひとつ、大きくあります。
治江さんの夫は
村山亜土という児童文学作家、
お父さんは村山知義という「ダダイスト」、
いわゆる
前衛芸術家だった人なんですが。
──
ぼくたち盲人もロダンを見る権利がある、
という村山錬さんの言葉が
ギャラリーTOMには掲げられていて。
見るたび毎に、ハッとさせられるんです。
山本
知義さん、亜土さんは芸術家で、
治江さんもデザイナーでもあったんです。
なので、錬さんの言葉にふれたご家族は、
自分たちの身近にある芸術や美術が、
視覚障がいを持つ息子さんには、
いかに遠いものだったかと知ったんです。
──
なるほど。
山本
いまでこそ、アウトサイダーアートなど、
芸術や美術の世界にも、
さまざまな個性の方が参加できますけど、
当時は、公立の美術館などでさえ、
目の不自由な方が
芸術に触れるチャンスはなかったんです。
──
そうなんですね。
山本
でも、目が不自由でも、芸術を楽しめる、
楽しむ権利があるんだと錬さんは言った。
実際、錬さんは立体作品に手で触れたり、
芸術や美術というものを、
さまざまなかたちで鑑賞なさってました。
──
はい、以前、治江さんにお聞きしました。
ロダンでも何でも、
海外で触らせてもらっていたんだよって。
山本
ロンドンやパリの美術館では、
障がいを持った人たちへのプログラムが、
昔から、ありましたから。
そこで、
視覚障がい者にも開かれた芸術の場所を
日本にもつくろうと思って、
まず、
ポンピドゥー・センターや大英博物館に、
勉強しに行かれたんです。
──
それは、治江さんが。
山本
ええ。
──
いつごろの話ですか。
山本
ここがオープンしたのが、1984年。
それに先立つ2年くらい、
パリやロンドンで修業なさったようです。
視覚障がいの人たちが
芸術鑑賞することのできるメニューが、
用意されているんです。
──
そうなんですか‥‥2年間も、海外で。
山本
はい。ロンドンならロンドンで
実際に生活しながら、
RNIB、王立の盲人協会に通っては、
学ばれたと聞いています。
そうやって、ここを立ち上げたんです。
──
そういうコンセプトのギャラリーって、
日本で最初だったんですか。
山本
そうですね。先駆者だったと思います。
いまでこそ、上野の西洋美術館はじめ
国立の美術館でも、
東京都の運営する美術館でも、
森美術館のような民間の美術館でも、
視覚障がい者へのプログラムは、
さまざまなかたちで、あるんですけど。
──
そういった動きの先駆的な役割を、
何ていうんでしょう、
こうして渋谷の奥にひっそり建ってる
TOMさんが担っていたとは。
山本
でも、その後、多くの美術館で、
障がいを持つ人に向けたプログラムを
開設するようになったので、
いまは、当初のわたしちの役割は、
ひとつ終わったようなところはあって。
──
そうなんですね。
山本
でも、いまも年に一度は、
必ず目の不自由な方を意識した展示を、
開催するようにしているんです。
──
そういう動きのひとつが、
「ぼくたちの作ったもの」展であると。
山本
もともとは、86年から隔年で、
コンテスト形式で開催していたもので、
全国に70くらいある盲学校すべてに、
まず、お手紙をお出しするんです。
美術の先生に宛てて、
こんなテーマで展覧会を開催するので、
ぜひ応募してください、と。
──
ええ、なるほど。
山本
すると、こんな作品ができましたって、
写真が返ってくるんです。
その写真を見ながら、
彫刻家の佐藤忠良さんや堀内正和さん、
清水久兵衛さん、
早稲田の建築家の鈴木恂さん、
華道家の中川幸夫さん、
陶芸家の鈴木治さんや、鯉江良二さん、
という、そうそうたる先生方が‥‥。
──
わあ。
山本
作品の審査にあたってくださいました。
そして、これはという作品を、
実際、このTOMに送っていただいて
展示していたんですね。
そういうことを、ある時期まで
定期的に、隔年で、やっていたんです。
──
そのとき収蔵された作品を、
今回、展示なさるということですか。
山本
はい。TOMの収蔵品としても、
柱となるような重要な作品ばかりです。
──
何点くらい、展示しているんですか。
山本
20点くらい‥‥いや、もっとかな。
いま、パソコンを持って、
ちょっと会場を歩いたりしましょうか。
──
あ、お願いできますか。ぜひぜひ。
山本
画面越しにうまくごらんいただけるか
わからないけれども‥‥
えっと、まずはこの作品、見えますか。
お送りした展覧会のDMにも、
使わせていただいたのですが。
──
はい、すごく印象的でした。
タイトルが「よだかの星」ですよね。
この作品の写真を見て、
展覧会に、強く興味を惹かれたので。

山本
おそらく、盲学校の先生が、
宮沢賢治の『よだかの星』のお話を、
生徒に読み聞かせてあげたんですね。
そこからインスピレーションを得て、
うまれた作品なんだと思います。
──
よだか‥‥というのは、鳥ですよね。
目が「まったく見えない」、
もしくは「ほとんど見えない」方が、
鳥という、
見たことのない生きものを想像して、
おつくりになったのが、この作品。
山本
そうです。
──
鳥です。夜に、啼いている鳥ですね。
山本
きっと、親御さんや美術の先生方が、
おもちゃやぬいぐるみなどで、
立体の把握などの教育をされていて。
──
なるほど。
触ることで、知っていたんですね。
鳥というものを。
山本
こっちも、すごいんですよ。

──
わあ、猫ちゃん。この躍動感‥‥!
山本
当時、小学校5年生だった方の
「ねずみをおそう猫」という作品です。
──
まさしく「おそいかかる瞬間」ですね。
すごーい!
山本
しっぽも「ピン!」って立ってますし、
いまにも、
ねずみを襲う猫の顔をしてるんですよ。
──
次は「手」ですか。すごい迫力ですね。

山本
この作品をつくった生徒さんは、
目と耳と口が不自由で、
車椅子での生活だったんですけど、
手は動かせたんですね。
作品名は「つつむ手」です。
両手で、お花を包んでいるんです。
お花が大好きなんだそうで。
──
見入ってしまいますね。はぁ‥‥。
山本
大阪の「大泉緑地」という公園に、
この作品のブロンズがあります。
その公園の方が、
何か彫刻を設置したいんですって
相談に来られたとき、
彫刻家の先生の作品じゃないけど
これがいいんじゃないですか、
花を包んでいる手なんですよ、
とお伝えしたら、採用してくださって。
──
へえ‥‥。
山本
この作品は、見えますか?

──
ええ、少し逆光ですが、大丈夫です。
坐像ですね。大きそう。
山本
はい、沖縄の方の作品で、
タイトルは「男の坐像」と言います。
盲学校に「登り窯」があったから、
沖縄では、
大きな作品がつくれたそうなんです。
──
あの、盲学校の生徒ということは、
ようするに、
今まで見た作品をつくったのは、
全員お子さんと言ったらアレですが。
山本
そうですね。
小学生から、せいぜい高校生くらい。
さっきの「男の坐像」なんかも、
当時、中学生の作品です。
制作年は1967年とあります。
いまは、鍼灸院の先生なんですけど。
──
50年以上前の中学生の作品。
山本
とにかく、沖縄もそうなんですけど、
各地の盲学校の先生が、
本当に、すばらしい方ばっかりで。
──
こうして作品が残されているのも、
現場の先生のちからが、
やっぱり大きかったんでしょうね。
山本
ええ、それはもう、本当に。
各学校の先生方のご尽力なくしては、
ありえないと思います。
──
そうですか。
山本
はい。生徒さんたちが、
すばらしい先生方と出会って、
幸せな時間を過ごしただろうことが、
作品を見ていると、
やっぱり、伝わってくるから。
──
本当ですね。
山本
いろいろ話しましたけど、
障がい者とか
ノスタルジックなことは置いといて、
こんなときだから、いまだからこそ、
この作品たちが、
切実に響くのではないかと思います。
そんな力のある作品だということを、
ぜひ、感じていただきたいです。
──
ありがとうございました。
延期の日程は、7月の予定ですね。
山本
はい。あらためてご案内しますね。
──
ありがとうございます。
必ず、うかがいます。楽しみです!

(つづきます)

2020-05-13-WED

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