アイドルから本屋さんへ。
夢眠ねむさんの「夢眠書店」は
本屋さんのプロじゃなかったからこそ、
たのしみながら模索する魅力があります。
そのたのしさは、糸井重里が「ほぼ日」を
はじめた頃にもいっぱい経験しています。
自分だけの道を歩んできたふたりによる
「名づけようのない時間」のお話です。
ぽんぽんぽーんと、あっちへこっちへ
明るい話題が転がっていきますよ。
夢眠ねむ（ゆめみ・ねむ）
「夢眠書店」店主
三重県に生まれる。
年の離れた姉の影響で「渋谷系」の音楽が好き。
小さい頃からの夢である広告デザイナーを目指し、
多摩美術大学に進学したが美術家に転向。
2009年、アイドルグループ、でんぱ組.incに加入。
2019年1月にでんぱ組.incを卒業。
2019年3月に芸能界を引退した後は、
東京・下北沢にて、
これからの本好きを育てる書店「夢眠書店」を開業。
2021年には出版レーベル「夢眠舎」をたちあげる。
現在はキャラクターデザイナー、
プロデューサーとしても活躍。
X @yumeminemu
Instagram @yumemibooks
- 糸井
- 今日は名づけようのないものについて
話してきましたけど、
こうやって話している時間もやっぱり
名づけようがないですね。
- 夢眠
- 糸井さんがやってこられたことで、
わたしも今やろうとしているのが、
場所をつくるってことなのかなと思うんです。
たとえば「生活のたのしみ展」も、
おなじ空気を吸える人たちが会場にいて、
出展している人たちの温度感も近いんです。
それでも、それぞれが全然違うのって
すごくいい「場」だなぁって思いますね。
- 糸井
- うん、全部が違う個性のおかげで、
嫌わなくても済むんです。
その場があるのはすっごく嬉しいですね。
- 夢眠
- ほんとですねぇ。
- 糸井
- お祭りには歴史的にそういう面がありますよね。
祭りの場所では見ず知らずの人同士で、
仲がいいとか悪いとかもう抜きにして、
いっしょになって騒いだりします。
ぼくはそういう場が欲しかったんでしょうね。
- 夢眠
- 今日も会場の門をくぐった瞬間からたのしかった！
遊びに来ていたみなさんとお話が合いそうですし、
お互いのことを嫌いじゃないのが
すごくわかるような空間でした。
おなじ何かを好きかもしれない人たちがいる場って、
すごく心地いいんです。
- 糸井
- ああ、それは嬉しいよねぇ。
- 夢眠
- わたしは三重県の出身で、
お祭りのある地域で育ったのでゾワッとしました。
生活のたのしみ展は、お祭りだった！
- 糸井
- お祭り感は、ぼくらが神田に引っ越してきたのにも
関係があるのかもしれませんね。
会社が地元と親しく付き合うような経験が
今までにはなかったんですよ。
- 夢眠
- 今までは、おしゃんシティの青山ですもんね。
- 糸井
- おしゃんじゃないときにも、
地元との付き合いはないんですよ。
麻布十番からちょっと離れた東麻布だとか、
魚籃坂にいた時代もあったけど、
地元の人が何をしてるかわからない寂しさが、
ちょっとあったんじゃないかな。
選挙に出るような人は「地盤・看板・鞄」といって、
地元の候補者だから応援する人たちのおかげで
選挙が成り立っていますよね。
ぼくは、そういう付き合いが昔から苦手で、
地元のことも大嫌いだったんですよ。
なのに、前橋でブックフェスをやるようになった。
ねむさんにも協力してもらいましたよね。
- 夢眠
- え、地元が嫌いだったんですか？
てっきりお好きなんだと。
- 糸井
- 嫌いじゃなければ、そのまま群馬にいますよ。
だからあえて「東京糸井重里事務所」とか、
振っ切っていたんです。
- 夢眠
- シティ感を出したんですかね。
- 糸井
- シティというよりは、
「おれはどこの人でもない」感がほしくて。
それが自由ってことじゃないですか。
そう考えていたんだけど、
力が集まるとか、お互いを大事にするとか、
人間はずっとそうやってきたんだよなって
思うようになったの。
たとえば、そういう付き合い方って、
オタクをやってる人もそうじゃないですか。
でんぱ組.incが好きなだけで
「おっ、いいやつじゃん！」みたいにさ。
それって、なんの根拠でもないのにね。
- 夢眠
- 大悪党かもしれないですもんね。
- 糸井
- 「おれは悪党だけど、でんぱ組が好きなんだ」
「そうか、それだったらいいよ」
- 夢眠
- 許されてる（笑）。
- 糸井
- そういう連帯感を、人はどこかに持ってるんです。
それで、自分たちがいる地元のことを
好きになってみたい気持ちが生まれたんですよね。
- 夢眠
- 糸井さんの中に変化があったんですね。
- 糸井
- その変化のプロセスの中で、
京都に家を持っていた時期があります。
京都には「地元」がありますよね。
地元のおじさんが喫茶店で
新聞を読んでいるような光景を見て、
他人事ながらいいなって思っていたんです。
で、東京でいうと神田がそういう土地だったの。
いい物件がないかなって調べはじめてみたら、
「神田祭には参加していただけますか？」
というところからはじまりました。
- 夢眠
- 地元のお祭りに参加していたわたしからすると、
よその町の人がだんじりを引くのって
あり得ないと思っていたんですよ。
- 糸井
- うん、もともとはそういうものだよね。
- 夢眠
- でも、コロナが明けてお祭りが再開したときに、
地元で参加する人が減っていたんです。
みんなが地元で結婚してこどもを生んでいたら
町も栄えていたかもしれないですけど、
まあ、わたしだって出ちゃってますし。
だから、町と関係ない人たちが
自分の町のだんじりを引くのを知って、
変わったなぁーって思ったんですよね。
- 糸井
- いろんなものがガラッと変わって、
それじゃあ地元がなくてもいいのかよって
自分自身に問いかけてみると、
帰る場所もない旅は嫌だなって思ったんです。
旅って、帰ってくる場所があるから旅なわけで、
ずっと旅をして帰ってこなければ、
ただ家がないだけの人になっちゃう。
帰ってくることでホッとしたり、
自分をさらけ出して安心できる場所って、
ひとりでフラフラしてる限りは永遠にないの。 - そんなことを思って、頭の中にあった碁石が
年をとってキュッと集められた感じかな。
お祭りとか、地元とか、神田とか、
ここをふるさとにするんだっていう発想が
好きになっちゃったんです。
- 夢眠
- しかも、神田から迎えに来てくれてますし。
- 糸井
- ありがたいですよね。
ぼくらの会社がある神田錦町っていう町にも、
今まで通りじゃダメだって気持ちがあったみたい。
昔ながらの伝統を尊重はするけど、
いつまでも「それはいけねぇ」って言いながら
栄えさせることなんかできないんです。
ぼくらはよそ者ですけど
地元のつなひき大会で優勝したんですよ。
神田のおやじさんたちが
ぼくたちを認めてくれた理由のひとつが、
つなひきだったりもするわけで。
そこで、つなひきに一所懸命になれたのも、
ほぼ日のいいところだと思うんですよね。
- 夢眠
- それ、めちゃくちゃ大事ですね。
- 糸井
- つなひきに勝つ方法は確かにあって、
町内では誰も意識しないでつなひきに参加するんです。
男が強いとか、運動部だったからどうだとか、
メンバーを集めるだけで普通は終わるんですよ。
- 夢眠
- そこで作戦会議が終了しちゃう。
- 糸井
- ほぼ日の場合は、いろいろ調べて
つなひき協会にコーチングをお願いしたり、
綱を借りて社内で練習したり、
人数のバランスを工夫したり、腰を落としたり。
そういう努力を、ものすっごくするの。
- 夢眠
- そういうところ、ほぼ日だなぁ！
たしかに、つなひきの練習って
小学生以来やってないですよね。
- 糸井
- でもさ、つなひきには世界大会があったり、
日本一のチームもあったりするわけだからね。
ぼくも昔、モノポリーの世界チャンピオンに
なろうとしたことがあって、
どうすれば勝てるかなっていっぱい考えました。
「行ける道なら行ってみたい」が弊社の社風です。
- 夢眠
- やるからには１等賞がほしいですよね。
- 糸井
- 優勝を狙って、ダメならそれでもいいの。
ねむさんのアイドル論と同じですね。
- 夢眠
- わかります、頑張っていればいい。
- 糸井
- そこで初めて支持されて、誇りが持てるんです。
だから、ねむさんがアイドルについて
ずっと考えてきたことは、
ほとんどぼくらの歴史そのものですよ。
（つづきます）
2023-10-28-SAT
