前回の『生活のたのしみ展』で
「全国ミュージアムショップ大集合!のお店」
をやったら大賑わいだったんですが、
その店に、ミュージアムグッズ愛好家の女性が、
遊びに来てくれたんです。
彼女の名は、大澤夏美さん。
ミュージアムグッズが大好きなだけでなく、
ミュージアムグッズの観点から
「博物館学」の研究もされている、とのこと。
おもしろそうなにおいがする‥‥。
というわけで、北海道のご自宅にお邪魔して、
全国から集めたミュージアムグッズを
「大じまん」していただきました。
「こんなグッズが売ってるなら行きたい!」
と、グッズきっかけで
ミュージアムに行きたくなることもあるんだ。
担当は、ほぼ日の奥野です。
全12回のロング連載、お楽しみください。

>大澤夏美さんのプロフィール

大澤夏美(おおさわなつみ)

ミュージアムグッズ愛好家。博物館体験や博物館活動を豊かにする観点から、ミュージアムグッズの新たな役割を模索している。札幌市立大学デザイン学部在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作ではミュージアムグッズをテーマに選ぶ。北海道大学大学院文学研究科で博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始め、2023年4月より北海道大学大学院文学院博士後期課程に在籍。ミュージアムグッズの観点から博物館における文化と経営の両輪を研究している。

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第10回 「わからない」をスタートに

──
大澤さんは北海道を拠点にして、
全国のミュージアムへ
足繁く通っているわけですけれど。
大澤
はい。北海道からって言うと、
「あらまあ遠くからよく来たね」
って言ってもらえます(笑)。
北海道以外ではあたりまえのことに
馴染みがなかったりするので、
瓦屋根もわからない、竹の林もわからない。
──
そうか。瓦屋根、ないんだ。
大澤
はい。雪が重いんで、無理なんです。
だから、
他の人にとってはあたり前のことに、
ビックリすることもしょっちゅうで。
──
外はこの雪‥‥ですもんね。
(取材したのは、まだ冬の日でした)
大澤
そうなんですよ。
石川県へ取材に行ったときにも、
お祭りの会館があって、
地域の人たちは、
お祭を生活の起点にして生きていて、
お祭りがきたから1年、
みたいな気持ちで生きてるんだ、と。
でも、当時のわたしには、
その感覚がわからなすぎたんですね。
で、そういうわからなさを
「わかんねぇんだ」と感じて認めるのが
ミュージアムなんだなあと実感しました。
──
わからない、に出会える場所。たしかに。
そう思ったら気軽に行けそうですね。
誰でも、臆することなく。
大澤
感覚を完全には共有できない人と一緒に、
同じ国の中で生きてるんだ‥‥
ということを、あらためて思ったりします。
──
大事なことですね。
大澤
お祭りができなかったときの、
みなさんのガッカリ感‥‥みたいなものが
わたしマジわからんって思ったけど、
ミュージアムに行って、
同じ「お祭り」でも、
地域によって扱われ方とか重みが違うことに
気づくことが大事なんだと思います。
──
各都道府県の国公立美術館に行くと、
郷土ゆかりの作家にフィーチャーして、
学芸員さんたちも、
誇りと愛着を持ってるじゃないですか。
あの感じは、すごく好きです。
大澤
大事ですよね。
とくに、わたしが住んでいる北海道には、
アイヌのみなさんもいらっしゃるので、
多様性という課題に、
みんなで取り組まなければならないと思うんです。
地域一丸となって盛り上がるお祭りを
楽しく拝見しながら、
でも、そこからこぼれ落ちる人はどうするの、
という視点も、片方にはあって。
──
ミュージアムに行ったとき、
よくわからないと思うことがあっても、
「それでいい」んですね。
大澤
人ってこんなに違うんだ、
地域ってこんな違うんだ。
そのことがわかるだけでも、もうけもの。
──
逆に言えば、
「すべて完全にわかる」ところに行っても
あまりおもしろくなさそうですよね。
「わからない」から「何だろう?」へ。
そこのところが大事っていうか。
大澤
そうそう。「わからない」がスタート。
いったん、わからなくていいから、
わからない部分がお互いにあるよねー、
というところからはじめられたら、
ミュージアムという場も、
もっと楽しめるんじゃないかなあって。

──
いま、ご自身の活動の領域の中で、
いちばん興味あることって、何ですか。
大澤
市民参加で、
ミュージアムのお宝を探すという活動を、
きちんとやりたいなと思ってます。
──
ミュージアムの、お宝。
大澤
わたし自身、ミュージアムって、
展示を見るだけの場所だと思っていた、
みたいなところがあるんです。
でも、そうじゃなくて、
ミュージアムって
ちゃんと「自分たちの場所」だし、
自分たちが関わっていく余地が
もっとあるはずだと思うんですね。
──
なるほどー、おもしろい。
受け取るだけじゃなく、はたらきかける。
ミュージアムに。
大澤
そういう「お宝探し」活動を、
ミュージアムグッズでやれないかなあと
考えているところです。
──
各地のミュージアムの常設展を
不定期でめぐる連載をやっていると、
学芸員さんが、
自分たちの館の「お宝」を
本当にうれしそうに
「大じまん」してくれるんですね。
そして「じまん話」なのに、
一切まったくイヤな感じがしないんです。
作品に対する
学芸員さんたちの誇りや愛着を感じるからで、
そこへアプローチしていくのって、
すごくいいです。大いに期待してます!
大澤
ありがとうございます。
あと、ミュージアムグッズを考える
ワークショップも、もっとやりたいです。
以前、千葉市美術館で
やったことがあるんですけど。
──
ええ。どんなのを?
大澤
中高生たちに、ミュージアムとは何ぞや、
ミュージアムグッズとは何ぞや、
というレクチャーをしたあと、
みんなで
千葉市美術館の中を歩き回って探検して、
自分ならこのミュージアムの
どの財産、どのお宝をグッズにするか、
という内容なんですけど。
──
めっちゃおもしろそう。
大澤
参加者のうちのひとりが
「わたしは、これが財産だと思う」って
提案してくれたのが、「扉」で。
──
扉?
大澤
千葉市美術館って元は銀行建築なので、
重厚でおしゃれな扉があるんです。
重いし、気軽に開けにくいような扉で、
しかも、その向こうは
ミュージアムという
なんだか難しいと捉えがちなところ‥‥を、
「開けたらすごく楽しいところなんだよ」
って伝えたいと。
だから、その「扉」を表紙にしたノートを
つくりたいですって。
──
最高じゃないですか。
大澤
ですよね!
「わたしは、この扉が財産だと思う」
という提案に、感動しちゃいました。
市民がそう言ってくれたってこと自体が、
ミュージアムにとっての、
いちばんのお宝じゃないかと思います。
──
本当ですね。
大澤
そういうことを、やりたいと思っています。
日本各地のミュージアムで。

(つづきます)

2025-08-06-WED

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  • 大澤夏美さんのお宝カタログ『ミュージアムグッズのチカラ』

    取材では、時間の許すかぎり、大澤夏美さんの
    お気に入りのグッズを見せていただいたのですが、
    それでも、まだまだほんの一部。
    保管庫には、丁寧に梱包され仕分けされたお宝が、
    ぎっしり詰まっていました。
    大澤さんの2冊のご著書には、他にもたくさんの
    魅力的なグッズが、制作にいたる物語とともに
    紹介されています。
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