
前回の『生活のたのしみ展』で
「全国ミュージアムショップ大集合!のお店」
をやったら大賑わいだったんですが、
その店に、ミュージアムグッズ愛好家の女性が、
遊びに来てくれたんです。
彼女の名は、大澤夏美さん。
ミュージアムグッズが大好きなだけでなく、
ミュージアムグッズの観点から
「博物館学」の研究もされている、とのこと。
おもしろそうなにおいがする‥‥。
というわけで、北海道のご自宅にお邪魔して、
全国から集めたミュージアムグッズを
「大じまん」していただきました。
「こんなグッズが売ってるなら行きたい!」
と、グッズきっかけで
ミュージアムに行きたくなることもあるんだ。
担当は、ほぼ日の奥野です。
全12回のロング連載、お楽しみください。
大澤夏美(おおさわなつみ)
ミュージアムグッズ愛好家。
- ──
- 大澤さんは北海道を拠点にして、
全国のミュージアムへ
足繁く通っているわけですけれど。
- 大澤
- はい。北海道からって言うと、
「あらまあ遠くからよく来たね」
って言ってもらえます(笑)。 - 北海道以外ではあたりまえのことに
馴染みがなかったりするので、
瓦屋根もわからない、竹の林もわからない。
- ──
- そうか。瓦屋根、ないんだ。
- 大澤
- はい。雪が重いんで、無理なんです。
- だから、
他の人にとってはあたり前のことに、
ビックリすることもしょっちゅうで。
- ──
- 外はこの雪‥‥ですもんね。
(取材したのは、まだ冬の日でした)
- 大澤
- そうなんですよ。
石川県へ取材に行ったときにも、
お祭りの会館があって、
地域の人たちは、
お祭を生活の起点にして生きていて、
お祭りがきたから1年、
みたいな気持ちで生きてるんだ、と。 - でも、当時のわたしには、
その感覚がわからなすぎたんですね。
で、そういうわからなさを
「わかんねぇんだ」と感じて認めるのが
ミュージアムなんだなあと実感しました。
- ──
- わからない、に出会える場所。たしかに。
そう思ったら気軽に行けそうですね。
誰でも、臆することなく。
- 大澤
- 感覚を完全には共有できない人と一緒に、
同じ国の中で生きてるんだ‥‥
ということを、あらためて思ったりします。
- ──
- 大事なことですね。
- 大澤
- お祭りができなかったときの、
みなさんのガッカリ感‥‥みたいなものが
わたしマジわからんって思ったけど、
ミュージアムに行って、
同じ「お祭り」でも、
地域によって扱われ方とか重みが違うことに
気づくことが大事なんだと思います。
- ──
- 各都道府県の国公立美術館に行くと、
郷土ゆかりの作家にフィーチャーして、
学芸員さんたちも、
誇りと愛着を持ってるじゃないですか。 - あの感じは、すごく好きです。
- 大澤
- 大事ですよね。
- とくに、わたしが住んでいる北海道には、
アイヌのみなさんもいらっしゃるので、
多様性という課題に、
みんなで取り組まなければならないと思うんです。
地域一丸となって盛り上がるお祭りを
楽しく拝見しながら、
でも、そこからこぼれ落ちる人はどうするの、
という視点も、片方にはあって。
- ──
- ミュージアムに行ったとき、
よくわからないと思うことがあっても、
「それでいい」んですね。
- 大澤
- 人ってこんなに違うんだ、
地域ってこんな違うんだ。 - そのことがわかるだけでも、もうけもの。
- ──
- 逆に言えば、
「すべて完全にわかる」ところに行っても
あまりおもしろくなさそうですよね。 - 「わからない」から「何だろう?」へ。
そこのところが大事っていうか。
- 大澤
- そうそう。「わからない」がスタート。
- いったん、わからなくていいから、
わからない部分がお互いにあるよねー、
というところからはじめられたら、
ミュージアムという場も、
もっと楽しめるんじゃないかなあって。
- ──
- いま、ご自身の活動の領域の中で、
いちばん興味あることって、何ですか。
- 大澤
- 市民参加で、
ミュージアムのお宝を探すという活動を、
きちんとやりたいなと思ってます。
- ──
- ミュージアムの、お宝。
- 大澤
- わたし自身、ミュージアムって、
展示を見るだけの場所だと思っていた、
みたいなところがあるんです。 - でも、そうじゃなくて、
ミュージアムって
ちゃんと「自分たちの場所」だし、
自分たちが関わっていく余地が
もっとあるはずだと思うんですね。
- ──
- なるほどー、おもしろい。
受け取るだけじゃなく、はたらきかける。
ミュージアムに。
- 大澤
- そういう「お宝探し」活動を、
ミュージアムグッズでやれないかなあと
考えているところです。
- ──
- 各地のミュージアムの常設展を
不定期でめぐる連載をやっていると、
学芸員さんが、
自分たちの館の「お宝」を
本当にうれしそうに
「大じまん」してくれるんですね。 - そして「じまん話」なのに、
一切まったくイヤな感じがしないんです。
作品に対する
学芸員さんたちの誇りや愛着を感じるからで、
そこへアプローチしていくのって、
すごくいいです。大いに期待してます!
- 大澤
- ありがとうございます。
- あと、ミュージアムグッズを考える
ワークショップも、もっとやりたいです。
以前、千葉市美術館で
やったことがあるんですけど。
- ──
- ええ。どんなのを?
- 大澤
- 中高生たちに、ミュージアムとは何ぞや、
ミュージアムグッズとは何ぞや、
というレクチャーをしたあと、
みんなで
千葉市美術館の中を歩き回って探検して、
自分ならこのミュージアムの
どの財産、どのお宝をグッズにするか、
という内容なんですけど。
- ──
- めっちゃおもしろそう。
- 大澤
- 参加者のうちのひとりが
「わたしは、これが財産だと思う」って
提案してくれたのが、「扉」で。
- ──
- 扉?
- 大澤
- 千葉市美術館って元は銀行建築なので、
重厚でおしゃれな扉があるんです。 - 重いし、気軽に開けにくいような扉で、
しかも、その向こうは
ミュージアムという
なんだか難しいと捉えがちなところ‥‥を、
「開けたらすごく楽しいところなんだよ」
って伝えたいと。
だから、その「扉」を表紙にしたノートを
つくりたいですって。
- ──
- 最高じゃないですか。
- 大澤
- ですよね!
「わたしは、この扉が財産だと思う」
という提案に、感動しちゃいました。 - 市民がそう言ってくれたってこと自体が、
ミュージアムにとっての、
いちばんのお宝じゃないかと思います。
- ──
- 本当ですね。
- 大澤
- そういうことを、やりたいと思っています。
日本各地のミュージアムで。
(つづきます)
2025-08-06-WED
-

取材では、時間の許すかぎり、大澤夏美さんの
お気に入りのグッズを見せていただいたのですが、
それでも、まだまだほんの一部。
保管庫には、丁寧に梱包され仕分けされたお宝が、
ぎっしり詰まっていました。
大澤さんの2冊のご著書には、他にもたくさんの
魅力的なグッズが、制作にいたる物語とともに
紹介されています。
気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
(1冊目のAmazonリンクはこちら)