
前回の『生活のたのしみ展』で
「全国ミュージアムショップ大集合!のお店」
をやったら大賑わいだったんですが、
その店に、ミュージアムグッズ愛好家の女性が、
遊びに来てくれたんです。
彼女の名は、大澤夏美さん。
ミュージアムグッズが大好きなだけでなく、
ミュージアムグッズの観点から
「博物館学」の研究もされている、とのこと。
おもしろそうなにおいがする‥‥。
というわけで、北海道のご自宅にお邪魔して、
全国から集めたミュージアムグッズを
「大じまん」していただきました。
「こんなグッズが売ってるなら行きたい!」
と、グッズきっかけで
ミュージアムに行きたくなることもあるんだ。
担当は、ほぼ日の奥野です。
全12回のロング連載、お楽しみください。
大澤夏美(おおさわなつみ)
ミュージアムグッズ愛好家。
- 大澤
- もりおか歴史文化館さんも大好きなんです。
- 所蔵品《水虎之図》に描かれた河童の図を
反物に起こして
トートバッグにしていたりして。これです。
- ──
- うわ~、めっちゃいい!
- 大澤
- 抱きつき河童といって、
河童が抱きついてくる伝承があるんですね。
- ──
- ひええ、その言い伝えはちょっと怖いけど、
抱きつかれたらヒンヤリしそうだけど、
この河童のトートは、すごくいい。
- 大澤
- そうなんです。
このトートも布の継ぎ目が後ろなんですよ。
つまり、河童さんの手が
ちゃんとひとつながりになっているんです。
- ──
- ホントだ。ズレてない。たしかに。
- 大澤
- 地域の反物屋さんに、
布からつくってもらったトートだそうです。 - ものとしても、すごくいいです。
布生地はもちろんですが、縫製も丁寧だし。
- ──
- 河童ファンでもなかったけど、
このトートは‥‥妙にほしくなりますねえ。
- 大澤
- 盛岡って「南部家」の領地で、
10代までは、肖像画が残っているんです。 - で、その肖像画を1枚1枚こうやって、
切り取ってグッズ化してます。
めちゃめちゃきれいに抜いてるんですよ。
- ──
- おおー、いいなあ。藩主たちの表情が最高。
一筆箋ですか?
- 大澤
- はい、フキダシはもちろんですが、
裏にも書けるようになっていて便利ですよ。 - これは歴史系の展示を準備しているときに、
ある学芸員さんが
余った印刷物のお殿様の部分を切り取って、
裏にメモを書いて、
他の学芸員さんのキーボードに
差しておいたんですって。
そしたら、これグッズ化できるんじゃない、
となって生まれたそうです。
- ──
- へええ。
- 大澤
- おしゃれなんですよ、南部家の歴代藩主。
- ──
- これは‥‥椿? 南部重信さんの頭に花。
たしかにファッションとしても素敵。
- 大澤
- 学芸員さんがそれぞれに、
「わたしは南部利視(としみ)推しです」
みたいな話をしていて、それもいいなと。
- ──
- 兜に鳥居がついている人もいる。
- 大澤
- 学芸員さんが地域の歴史を伝えるために、
がんばってらっしゃるんです。 - 商品名も「一筆啓上致し候」って言って、
お手紙を差し上げます、
という意味の文章なんですよ。
- ──
- いかにも藩主の言いそうな台詞が商品名。
「いっぴつ、けいじょういたしそうろう」
- 大澤
- 恵比寿にある東京都写真美術館さんでは、
ゲームキットを出しています。 - これは「教育普及プログラム」といって、
美術作品鑑賞を行う前の
ウォーミングアップ用の教材として
「色と形と言葉のゲーム」を
ミュージアムショップで販売しています。
- ──
- ゲーム? どうやって遊ぶんですか。
- 大澤
- さまざまな色と形状のカードがあって、
それらをワーッと並べて、
「まぶしい」だったら、
「あなたはどれを選ぶ?」みたいな。 - 自分はこれかな〜と手に取って、
なぜそのカードを選んだのか話し合う。
そういうゲームです。
- ──
- 言葉とか表現の選び方が磨かれそう。
- 大澤
- 理由を聞いていくと、
目をつむったときに浮かんでくるのが
こんなかたちなんですとか、
この色なら
暗闇の中で光っている感じがするとか、
人によって
「まぶしい」の理由が違うんですよね。 - 人の見方と自分の見方を
ちょっとさぐってみる‥‥という、
美術鑑賞の前のウォーミングアップに
最適のゲームなんです。
- ──
- つまり、写美さんで売ってるけど、
写真鑑賞に限った話ではないんですね。
美術全般に通じている。
ちょっと中身を拝見してもいいですか。 - ああ、「まぶしい」「しびれる」「近い」
「やったー」「やさしい」
「応援する」「じっとしている」
「ドキドキする」‥‥。
これ、自分がやると思って見てみたら
すごく興味深いし、
他の人が何を選ぶのか気になりますね。
- 大澤
- あくまで「教材」なので、
ファシリテーションをする人への
注意事項も書いてあって、
プレイヤーの言葉を
盗まないようにしましょうだとか、
ファシリテーター自身の話は
しないほうがいいとか、
うまくやろうと
思いすぎないほうがいいよーとか。
とくに、
「ファシリテーターとは何ぞや」
という部分が示唆的で、
博物館教育的にもおもろいですね。
- ──
- 教材ってことは、
いわゆる「ねらい」みたいな何かが
あるんだと思うんですが、
それってどういうことなんですかね。
- 大澤
- たとえば
ものの見方には優劣がないねだとか、
自分とまったく違う感覚や
ものごとの捉え方があるんだね、
ということに気付くとか。 - 正解はないし、いい悪いもない。
- ──
- 子どもとやってもおもしろそうです。
- とくに
「社会には絶対の正解はないんだよ」
みたいなことを
教えてやりたいな〜と思っていて。
学校のテストには正解はあるけれど、
世の中のものごとには、
多くの場合「正解はないよ」って。
- 大澤
- 現代美術なんかも、
よく「見方がわかりません」とか、
「難解です」とか、
「何を言ってるかわからん」とか
いろいろ言われますけど、
でも、
何を言ってるかはわからなくても、
「あなたは何を感じたんですか?」
が大事なんだよって、
子どもに言いたいときにいいです。
- ──
- たしかに!
- 自分も、いい大人になってから、
美術館に行くようになって、
別に答えがわからなくてもいいんだ、
ということがわかっただけで、
どこか自由になれた感じがあります。
- 大澤
- 作家としては意図して描いてるわけで、
そこには
いろんな意味合いもあるでしょうけど、
「そう見なきゃいけない」
というわけじゃ決してないんですよね。 - むしろ、作家本人だって、
それを望んでいるとは限らないですし。
そんなことを考えさせてくれるゲーム、
じゃないかなと思います。
(つづきます)
2025-08-05-TUE
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取材では、時間の許すかぎり、大澤夏美さんの
お気に入りのグッズを見せていただいたのですが、
それでも、まだまだほんの一部。
保管庫には、丁寧に梱包され仕分けされたお宝が、
ぎっしり詰まっていました。
大澤さんの2冊のご著書には、他にもたくさんの
魅力的なグッズが、制作にいたる物語とともに
紹介されています。
気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
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