前回の『生活のたのしみ展』で
「全国ミュージアムショップ大集合！のお店」
をやったら大賑わいだったんですが、
その店に、ミュージアムグッズ愛好家の女性が、
遊びに来てくれたんです。
彼女の名は、大澤夏美さん。
ミュージアムグッズが大好きなだけでなく、
ミュージアムグッズの観点から
「博物館学」の研究もされている、とのこと。
おもしろそうなにおいがする‥‥。
というわけで、北海道のご自宅にお邪魔して、
全国から集めたミュージアムグッズを
「大じまん」していただきました。
「こんなグッズが売ってるなら行きたい！」
と、グッズきっかけで
ミュージアムに行きたくなることもあるんだ。
担当は、ほぼ日の奥野です。
全12回のロング連載、お楽しみください。
大澤夏美（おおさわなつみ）
ミュージアムグッズ愛好家。
- ──
- あっ、これは例の‥‥諸橋近代美術館の！
ダリのベコ！ ですね！
- 大澤
- はい。大人気ですよね！
- ──
- 毎回、発売直後に売り切れちゃうという、
ミュージアムグッズの金字塔。 - さすが大澤さん、やっぱりお持ちなんだ。
- 大澤
- なかなか買えない貴重なグッズですよね。
- 諸美さんは「こけし」もかわいいし、
伝統工芸とのミックスがすてきなんです。
- ──
- わはは、
背中にシュルレアリスムって書いてある。
いいなあ。 - これ、説明するのも無粋ではありますが、
いちおう‥‥福島の「赤ベコ」に
「ダリのようなヒゲ」が生えている、と。
諸美さんの大ヒット商品です。
- 大澤
- わたしも見つけたときは、
すでに人気が出はじめていたころでした。
これは、ほしくなっちゃいますよね。 - 拙著『ミュージアムグッズのチカラ』の、
第２号の表紙も飾ってくれたんですよ。
- ──
- 諸橋近代美術館さんは
不定期連載中の『常設展へ行こう！』で
取材させていだいてるんですが、
そのときに、
まだダリの著作権が生きてる状態なので
何でもかんでもホイホイつくれない、
そこで、グッズ制作にも、
かなり創意工夫をされている印象でした。 - ヒゲでダリを想起させたりとか、
で、このダリベコは、その代表作ですね。
- 大澤
- 正式名称は「ひげべこ」だったかな。
- 近現代の美術の場合、
グッズ化にあたってはそこがネックです。
みなさん四苦八苦しつつ、
でも、すてきな商品をつくっていますね。
- ──
- 本当に。楽しい工夫をなさってますよね。
みなさん。 - ヒゲで、ダリということを思わせてる。
ヒゲのサコッシュとかもありますしね。
- 大澤
- ヒゲには著作権はないから。
- ──
- わはは、たしかにです。
- でも、
個性的なヒゲだからダリだかわかると。
思わず
定番すぎるダジャレを言ってしまった。
失礼いたしました。
- 大澤
- いえいえ、大丈夫です（笑）。
- ただ、ダリって、
ダリ自身もそういう人だったというか、
ミュージアムグッズと
相性のいいアーティストだと思います。
- ──
- あ、たしかに。「資本主義」だったり、
「商品」「広告」みたいなものと、
すごくしっくりきそうな感じがします。 - あと、ダリといえば「アリ」ですけど、
アリの角皿もアリますよね。うっ‥‥。
- 大澤
- またダジャレ（笑）。
- ──
- いまのは不可抗力でした。
- ちなみに、
いまもすぐに売り切れちゃうんですか。
- 大澤
- たぶん、そうだと思います。
この子は、いまではレアキャラですね。
- ──
- 地域の伝統工芸士さんの手作りだから、
大量につくることはできない、と。
- 大澤
- 伝統工芸って、そういうものですしね。
いちどに作れる数が限られてる。
ただ、そのぶん技術もしっかりしていて、
非常に品質が高い。 - こちらは、千葉の国立歴史民俗資料館、
通称「歴民」さんが出した、
めちゃめちゃマニアックなシールです。
- ──
- マニアック？
- 大澤
- 「印判」と「花押」のシールなんです。
- まず「花押」というのは署名のひとつ。
総理大臣でも
花押をお持ちの方がいたりします。
- ──
- 説明文を読ませていただきます。
- 花押とは
「自分の公式の名前を崩したもので、
平安時代の後期から庶民や武家は、
実名と花押を両方とも書くようになり、
名前とは関係のない字や形なども‥‥」
現代の「サイン」みたいなものかな。
- 大澤
- はい。裏にちゃんと、
小島道裕先生の解説がついていますね。 - この解説が大切なんです。
- ──
- たしかにマニアックかもしれないけど、
でも、サインだと思うと興味深い。 - これが源頼朝のサインか‥‥って。
なんとなく「なるほどな」とも思うし。
- 大澤
- 専門家のみなさんは、
こういう対象を研究しているんだなと、
そういう視点で見るのも、おもしろいです。
- ──
- これって、自分で考えたんですかね。
- それとも、
現代の人のサインを考える人みたいに
誰か、ナイスなセンスをお持ちの人に
考えてもらったのかな。
- 大澤
- 武将の名前って変わるじゃないですか、
けっこう、時期によって。
- ──
- たしかに。上杉謙信とかは、
ぜんぜん別の名前があったりとかもね。
- 大澤
- そうそう、だから
名前ごとに考えていたのかなあとか、
いろんなギモンがうまれます。
- ──
- 豊臣秀吉の花押もいいですね。
うまくいえないけど秀吉感があって。
天下をとりそうな人のサイン。
- 大澤
- はい、カッコいいですよね（笑）。
印判のシールも見てください。
- ──
- 印判っていうのは、判子の柄ですか。
模様というか、文字というか。
- 大澤
- それぞれの殿様の個性が出ています。
- たとえば、細川ガラシャの旦那さんの
細川忠興の花押などは、
ローマ字が使われてたりして、
現代のわたしたちから見ても、
すごくおしゃれだなあって思うんです。
見ていて、何だか楽しくなるというか。
- ──
- この、武田信玄なんか文字じゃないし。
イラストっぽいですね。
- 大澤
- ふつう研究者しか目にしないものを、
思わぬかたちで
おすそわけしてもらったかのような、
そんな気持ちにもなります。
- ──
- これがスマホの裏に貼ってあったら、
「そのシール何？」
「ああ、これは頼朝のね」‥‥とか。
- 大澤
- 花押といってね‥‥って。
やっぱりマニアックかもしれません。 - でも、大好きです（笑）。
（つづきます）
2025-07-31-THU
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取材では、時間の許すかぎり、大澤夏美さんの
お気に入りのグッズを見せていただいたのですが、
それでも、まだまだほんの一部。
保管庫には、丁寧に梱包され仕分けされたお宝が、
ぎっしり詰まっていました。
大澤さんの２冊のご著書には、他にもたくさんの
魅力的なグッズが、制作にいたる物語とともに
紹介されています。
気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
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