
前回の『生活のたのしみ展』で
「全国ミュージアムショップ大集合!のお店」
をやったら大賑わいだったんですが、
その店に、ミュージアムグッズ愛好家の女性が、
遊びに来てくれたんです。
彼女の名は、大澤夏美さん。
ミュージアムグッズが大好きなだけでなく、
ミュージアムグッズの観点から
「博物館学」の研究もされている、とのこと。
おもしろそうなにおいがする‥‥。
というわけで、北海道のご自宅にお邪魔して、
全国から集めたミュージアムグッズを
「大じまん」していただきました。
「こんなグッズが売ってるなら行きたい!」
と、グッズきっかけで
ミュージアムに行きたくなることもあるんだ。
担当は、ほぼ日の奥野です。
全12回のロング連載、お楽しみください。
大澤夏美(おおさわなつみ)
ミュージアムグッズ愛好家。
- ──
- あ、もしかしてそちらは
国宝・曜変天目のぬいぐるみですか。 - ぼくは、実物は、丸の内に移転した
静嘉堂文庫美術館で見たんですけど、
ほかにも
藤田美術館とかにもあるんですよね。
- 大澤
- もとになっているのは中国の茶碗で、
割れていない完品は世界に3つ。
それらがすべて、日本にあるんです。 - 実物を見ると、
本当に綺麗で、吸い込まれそうです。
- ──
- 静嘉堂文庫美術館さん、
茶碗を
ぬいぐるみにしちゃうっていうのが、
すごいなと思ったんですけど。
- 大澤
- よくやりましたよね。
- でも、わかるような気もするんです。
立体のものを平面にしちゃうと、
とたんに
魅力を伝えるのが難しくなるんです。
最近は
何でもアクスタにできちゃいますが、
立体のものは立体でほしいんです。
- ──
- 以前、ある美術館の館長さんと
雑談していたとき、
曜変天目のぬいぐるみができて以降、
ミュージアムショップの
ぬいぐるみまわりが
おかしなことになってるって(笑)。
- 大澤
- 動物園や水族館では、
生き物に関しては、飼育員さんが
ちゃんと監修してぬいぐるみにする
という動きがありますけど、
生きていないものまで
こうやって、ぬいぐるみにしちゃう。
しかも人気が出て、
一般化するところまで来ています。 - 推し活の文化と近いところがあると、
わたしは思ってます。
- ──
- 曜変天目ちゃん推し‥‥。
- キャラクターとか
かわいらしい動物を推す気持ちは
わかるんですけど、
この曜変天目とか、刀剣なんかが
推しの対象になるのか、と。
- 大澤
- 何回も見たいとか、通いたくなるとか、
ミュージアムの資料には、
どこか「会いに行く」という感覚を
持ちやすいものがあるんでしょうね。
- ──
- 昔「ベルリンの壁」が好きで、
壁と「結婚したい」という女の人が
ニュースに取り上げられていて、
驚いた覚えがあるんですけど、
そう思えば納得できる気もしました。
- 大澤
- 偏愛、マニアックさみたいなものが
受け入れられやすい土壌には、
なってきましたよね。 - 結婚したいぐらい好きだ、
その気持ちはわからんでもないって。
- ──
- 一緒にいたいってことですもんね。
つきつめれば。
- 大澤
- 骨をうずめたいぐらいに、ね。
- 静嘉堂さんも、
いいコレクションいっぱいお持ちで、
曜変天目だけじゃないってことも、
グッズを見ているとわかるんですよ。
- ──
- この天球図のトートバッグ、いいな。
司馬江漢の絵なんですね。
- 大澤
- はい、オランダの天球図を元にして、
西洋の星座を
蘭学者の司馬江漢が描いたものです。
司馬江漢って
何でもできる人だったみたいで、
江戸時代の
サイエンスコミュニケーター、
みたいなところが
あったのかもしれないと思ってます。
- ──
- いろんなグッズがあるんですね‥‥。
あらためて。
- 大澤
- 他のジャンルで流行ったアイテムが、
ミュージアムグッズ界に
やってくることがけっこうあります。
- ──
- たとえば?
- 大澤
- はい、バッグと言えば長いこと
トートバッグ一辺倒だったんですが、
ファッションの世界で流行った
サコッシュがやってきたり。
あるいは、文具好きの間で流行った
マスキングテープとか。 - 世の中的に生産の体制が整うことで、
ミュージアム業界の人も、
参入が容易になるんだと思います。
- ──
- なるほどー。そちらのサコッシュは?
見るからにおしゃれなニオイがする。
- 大澤
- 金沢21世紀美術館のグッズです。
- 何しろ建築が素敵じゃないですか、
金沢21美って。
これは夜の美術館を撮った写真を
プリントしたサコッシュで、
昼バージョンもあります。
夜と昼とで
サイズも微妙に違っていたりして
使い勝手もそれぞれなので、
おそろいで持ってもいいかなあと。
- ──
- カッコいいです。
- 大澤
- 美術館って、
それぞれにすばらしい建築なのに、
案外注目されていない気がします。
こうしてグッズ化することで、
建物自体も
大切な財産なんだっていうことが、
わかりますよね。
- ──
- 金沢21世紀美術館の建物写真を
アップしてる写真家さんのインスタを
フォローしてるんですが、
空との組み合わせで、
幾何学的な絵画みたいに見えたり、
すごくおもしろいんですよ。
- 大澤
- わかります、その気持ち。
- 季節ごと‥‥はもちろんですけど、
一日のなかでも
時間ごとに表情が変わりますもんね。
ぜんぜん飽きない。
- ──
- いまやサコッシュって、
いろんなところでつくってますね。
- 大澤
- ですよね。最低限のものを入れて
展示室まわりたいときに、
けっこう便利に使えたりしますし。
- ──
- 財布とスマホ、みたいな。
- 大澤
- そうですね。あとメモ帳と鉛筆と。
とくに女の人の服って
ポケットが少なかったりするので。
- ──
- ああー、なるほど。
- その美術館のオリジナルだったら、
なおさら
アート鑑賞気分もあがりますよね。
- 大澤
- はい。おすすめです。
(つづきます)
2025-08-01-FRI
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取材では、時間の許すかぎり、大澤夏美さんの
お気に入りのグッズを見せていただいたのですが、
それでも、まだまだほんの一部。
保管庫には、丁寧に梱包され仕分けされたお宝が、
ぎっしり詰まっていました。
大澤さんの2冊のご著書には、他にもたくさんの
魅力的なグッズが、制作にいたる物語とともに
紹介されています。
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