写実的な表現を得意とする
画家の永瀬武志さんに、
新しく描きはじめる絵の制作過程を
連載していただくことになりました。
画家はどんなことを考えながら、
絵に命をふきこんでいくのでしょうか。
完成までの約３ヶ月間、
永瀬さんの視点を借りながら、
画家の世界をのぞいてみたいと思います。
毎週木曜日に更新します。
永瀬武志（ながせ・たけし）
画家。
2004年３月、多摩美術大学大学院
美術研究科絵画専攻修了。
2005年以降、国内外で個展やグループ展を多数開催。
2020年、第３回ホキ美術館大賞入選。
油彩による写実絵画を得意とする。
作品のテーマは、光、生命。
- こんにちは。画家の永瀬武志です。
- 制作から２ヶ月ほどが経ち、
そろそろ画面から完成のイメージが
湧いてくるくらいまで進んできました。
- 顔にかかる髪の毛は、極細の筆を使って
一本一本、線で描いています。
まつげ一本一本を植えるように描き、
唇のシワにできるハイライトを追いかけ、
セーターのふわふわした質感は
絵の具をやさしく置くように表現し、
細部を丁寧に、大事に描いていきました。
- もっと細部を描き起こしたり、
表現したい空気感はあるのですが、
画面に対して少し満足感も出てきました。
風に吹かれる髪の毛や、
セーターの網目を描くのは大変ですが、
顔が安定して見えてきたからか、
いまは落ちついた気分で制作ができています。 - ということは、顔が見えてくるまでは
やっぱり少し焦っていましたし、
がむしゃらに描き進めているところはありました。 - いまは、絵を描いていることに
ありがたさを感じながら、一筆一筆、
慈しみながら描いている感覚になってきました。 - こうやって長い工程をかけて
写実的な油絵を描いていますので、
ぼくの場合、絵の進み具合によって
いろいろな感情を経験することになります。
いまのところ何枚作品を仕上げようが、
冷静に作業的に描いたことは一度もありません。
毎回、いちいち心が揺れ、感動して、気負い、
焦り、悦に浸り、やさぐれ、そして感謝したり‥‥。 - 例えるなら、一枚の絵を描きながら、
子供から大人に成長していく過程を
経験しているようにも感じられます。 - 一枚完成したら、
また真っ白な画面からスタートします。
いつまでたっても心は不安定なままです。
でも、そうやって迷いながら、
心を動かしながら描いてるうちは、
作品も輝いていてくれるんじゃないかと思い、
きょうも制作をつづけています。
- 今回も読んでくださりありがとうございました。
- 完成が近づいてきた気がします。
この連載もあと３回くらいでしょうか。
まだ単純に、描き足りないところもあります。
そこをクリアしていきながら、
さらにもっとこの絵をよくするアイデアを
見つけていきたいと思います。 - また見に来てくださいね。
- 永瀬武志
（次回につづきます）
2021-04-15-THU
