写実的な表現を得意とする
画家の永瀬武志さんに、
新しく描きはじめる絵の制作過程を
連載していただくことになりました。
画家はどんなことを考えながら、
絵に命をふきこんでいくのでしょうか。
完成までの約3ヶ月間、
永瀬さんの視点を借りながら、
画家の世界をのぞいてみたいと思います。
毎週木曜日に更新します。

>永瀬武志さんプロフィール

永瀬武志(ながせ・たけし)

画家。
2004年3月、多摩美術大学大学院
美術研究科絵画専攻修了。
2005年以降、国内外で個展やグループ展を多数開催。
2020年、第3回ホキ美術館大賞入選。
油彩による写実絵画を得意とする。
作品のテーマは、光、生命。

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絵画教室アトリエことりえ

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09 命が宿る感覚。

 
こんにちは。画家の永瀬武志です。
2月から進めてきた人物画も、
だいぶん完成が近づいてきました。
表現したかった表情や空気感が出てきて、
描き方もより微細になってきています。
 
 
今週は、画面に薄く色を塗る
「グレーズ」という技法で、
微妙な色合いや陰影を描いていきました。
オイルで絵の具を薄く溶いて、
それを画面に塗ったあと、
柔らかい筆を使ってぼかしていきます。
グレーズするときは、
透明感のある黄色やピンク、
紫や青などの色をよく使っています。

▲永瀬さんがよく使う絵の具の色 ▲永瀬さんがよく使う絵の具の色

 
画面に色を薄く塗り込み、
そのあとホワイト系の絵の具で描き起こし、
また少しぼかして、また色を重ね‥‥と、
長い時間をかけて、同じことをくり返していると、
絵の具の色が「皮膚」や「髪の毛」などに、
すり替わっていくような時間があります。
いま描いている絵でいうと、
それは先週や今週あたりにやってきました。
その時間は、おおげさに言うと、
絵の中に命が宿っていくような時間です。
この絵は写実画ではあるのですが、
制作している本人としては、
絵画でしかできない工夫を
画面の中にいろいろと注ぎ込んでいます。
ぱっと見ただけでは、
写真のように思われるかもしれませんが、
画面がオリジナリティーを持って、
どんどん自立してきている実感があります。
その実感は勝ち負けや、優劣にとらわれて
奪いにいくものではありません。
もっと良くするために何ができるのか考え、
準備そして次の準備と、ただただ裏方に徹すること。
孵化しようとする卵の温度管理に徹するように、
ひたすら作品に謙虚に向き合い続けること。
そうした時間の先に、
命が宿っていく感覚があるように思います。
その実感が得られているからこそ、
ぼくは自分の作品に価値や意義を見出すことができて、
描くことを続けていられるのだと思います。

 
顔は9割以上できてきた気がします。
ただ、表情が少しだけ弱い印象です。
強くしすぎてもイメージと違ってしまうので、
次回、気をつけながら調整していこうと思います。
あと、セーターの描き込みが遅れているので、
そこはがんばって描いていくしかないですね。
完成が近づいてきて、
ワクワクと少しの寂しさを感じています。
いよいよ、この連載のゴールも見えてきました。
また次回も見に来てくださいね。
永瀬武志

(次回の更新は5月6日の予定です)

2021-04-22-THU

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