私立灘高等学校のある生徒さんから、
糸井重里に依頼のメールが届きました。
それは「あのメール、すごかったね」と
社内で話題になったほど、
熱意と真摯さのあふれた文面でした。
彼の依頼をきっかけに、灘高校の
「ひときわ癖ある、議論好きな生徒」さん18名と、
糸井が言葉を交わす場が実現。
全員で、粘り強く答えを探すことそのものをたのしみ、
ほかにない対話をかたちづくりました。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。

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第7回 バレたあとがコミュニケーション。

Oさん
僕は、いろんな人と対話をするのが好きです。
でも、対話のなかで相手の経験を語ってもらっても、
なかなか自分の頭の中に落とし込めなくて、
その後の生き方に活かせている気がしないんです。
これでは、相手が話してくれた甲斐がないのでは、
と心配することもあります。
たくさんの方と対談をしてこられた糸井さんに、
相手にも「対話してよかったな」
と思ってもらえるような聞き方や考え方を
教えていただきたいです。
糸井
Oさんの言うとおり、
僕はいっぱい人に会ってきました。
「社会的に見て偉い」とされている人にも、
「社会的には偉くない」とされてる人にも、
ものすごく会ってます。
そのことが、いまOさんが考えている問題に
直面しなくて済んだ理由だと思います。
つまり、ほんとうにふざけた人にも
ものすごくたくさん会っているので、
その人の経験を僕が生かしたら
まずい場合があるんですよ(笑)。
一同
(笑)
糸井
なぜ僕は人と会ったり
しゃべったりしたいのかというと、
言ってみれば、その人と自分のあいだでしかできない
ゲームができるからです。
なんの役に立たなくても、
そのゲームがおもしろくて、
なんだかいい時間が過ごせたなと思えたら、
それ以上は要らないんですよ、きっと。
「ぜひこの方と糸井さんに
対談をしてほしいんです」と
指名されているときって、
普通はプレッシャーがあるはずですよね。
僕にはできないような鋭い質問ができたり、
相手のことを綿密に調べてから話したりできる
インタビュアーはたくさんいます。
そのなかで、
あえて僕に依頼してくれたということは、
きっと鋭さや綿密さを求められてはいないんですよ。
ではどんな対談をすればいいかって、
それは始まる直前までわからないんです。
でも、だいたいなんとかなります。
なぜなんとかなるかというと、
「なんとかなる」って思ってるからなんです。
でも、対談相手の方が
「『この人と会ってみて、おもしろかったな』
と感じる時間にしたい」とは思っています。
だから「このテーマさえあれば、
まず話はできるな」という、
話したいことをひとつは考えています。
テストではないから、
用意していたその話題にならなくても
構わないんですけどね。
それから僕は、どんなに好きな人と話すときも
「好きすぎてあがっちゃう」
ということがないんです。
(永田さんを見て)
俺があがってること、あったっけ? 
永田
ないんじゃないですか。
ドラマに出演することになって、
正しく台詞を言わないといけなかったときは
あがってるどころか、
楽屋で話も通じないくらいでしたけど。
糸井
それは言わないでくださいよ。
一同
(笑)

糸井
僕があがらない理由をあえて言うならば‥‥、
あの、これから、すごく生意気なことを言います。
(乗組員のほうを向いて)
動画やよみものにするときは、
「これは、生意気なことだと
糸井もわかっています」と注釈を入れてください。
乗組員
わかりました(笑)。
糸井
つまりね、極端に言ってしまうと、
「どの人もたいしたことない」って思ってるんですよ。
(編集部注:これは生意気なことだと、
糸井もわかっています)
一同
おおーっ。
糸井
ここ、注釈ね。ちゃんと入れてくださいね。

糸井
もちろん、苦手な人を含めて、誰に対しても
敬意は持っています。
敬意は持ってるんだけど、
「そんなたいしたはずがない」というのは、
内緒で思っていていいんじゃないですかね。
みなさんも、僕とここまで話してみて
わかったと思いますが、
僕にもたいしたことない部分が
ものすごくあったでしょう。
それが人間なんですよ、きっと。
「多少、たいしたことがあるにしても、
まあたいしたことないな」ということは、
みなさんくらいの年から思っていて
いいんじゃないでしょうか。
Iさん
それで言いますと、
ほぼ日乗組員のみなさんを拝見していると、
糸井さんに対して、
ものすごく大きなリスペクトがあるわけではない
印象があって‥‥。
一同
(笑)
Iさん
もちろん、リスペクトがあるのはわかるのですが、
どちらかというとフラットな話し方で
接しているように見えます。
乗組員のみなさんは、糸井さんのことを
どんなふうに思っているのでしょうか。
糸井
あの人(乗組員・菅野)は、
僕のことを取るに足りないと思ってます。
菅野
思ってません!(笑)
ええとですね‥‥
インタビューなどでは、
こちらからのリスペクトが強すぎると、
逆に会話がスムーズに進まないことがあります。
なので私も「人間はみんな、たいしたことない」
と思おうとするのですが、
深く相手を知っていくと、どうしても
「たいしたことないと思いたいけど、思えない」
という気持ちが出てくるんです。
「なめちゃいけないな」みたいな気分になって。
なめられない部分が必ずある。

菅野
きょう来てくださったみなさんのことも、
「ふつうのお子さん」と思おうとしても、
全然思えないんですよ。
それは、先ほどの糸井の話にも出た
「敬意」が、実際にお話しする時間のなかで
どんどん強くなるからだと思います。
それから私は、お互いに
「この人のこと、たいしたことないと思いたいけど、
思えないな」と思い合って別れるのが、
一番気分がいいんです。
話を戻しますと、糸井に対してもそんなふうに
「なめたいのに、なめられない」
という気持ちでおります。
糸井
ベテランの菅野の次は、新人にも聞いてみようか。
(乗組員・松本に向かって)
あなたは、まだ入社2年くらい? 
松本
今年、2年目に入りました。
私も、もちろん糸井さんのことは
なめてないですけど‥‥。

松本
最初はお話するのに緊張しましたし、
糸井さん以外の、
インタビューでお会いする方に対しても
「私なんかがこんな有名な人と
お話ししていいのか」という気持ちが
ずっとありました。
でも「そういう気持ちは、
なるべくないほうがいいな。もう、なくそう」
と思って、なくしているところです。
きっかけは、ほぼ日で言われた
「緊張禁止」という言葉でした。
糸井
ああ、言いましたね。
松本
「緊張して相手に向かっていっても、
ほんとうに心をひらいたいい話はできない」
という意味だと私は解釈したんです。
緊張を禁止されたおかげで
できるようになったことが、いっぱいあります。
すべての人に対して「たいしたことない」と
思えてはいないですけど、
構えすぎないほうがいいな、とは思えています。
‥‥すいません、2年目なりの意見でした。
Iさん
いえ、よくわかりました。
僕はけっこう、小さいころから、
まず人を「すごい」と思って見るんです。
でも、一緒に過ごす時間が増えてくると、
相手のよくない部分も
見えてきてしまうことがあります。
「ああ、この人もふつうの人なんだ」
と思い直すことを繰り返していて。
人に対してそんな見方をしていていいのか、
ときどき不安になります。

糸井
Iさんのような見方をする人が多数だと思います。
相手を「すごい」と思うことから
始まっていることは多いです。
僕が「今度誰々さんと会う」と決まるときは、
ほとんどの場合「あの人、ここがすごいな」
と思ったことがきっかけです。
でも、だからといって、
緊張してなにかいいことがあるかというと、
ないと思うんです。
つまり、相手を奉っちゃうと、
人間どうしとしてコミュニケーションが
できなくなっちゃう。
だから、なるべく同じ目線の高さで話しています。
僕は、僕以上の実力を出せるわけがないですからね。
‥‥あ、これは、けっこう大事かも。
つまり、
相手を尊敬しすぎることによる緊張ではなく、
「自分がバカに見えないように」と意識するゆえの
緊張のほうが、厄介かもしれません。
「相手に失礼のないように」という緊張なら、
礼儀正しくいればいいので、なんとかなります。
でも、「バカだと思われたらどうしよう」
という緊張は、意味がないです。
いくら実力以上に見せようとしても、
バレちゃうから。
で、バカな部分がバレたあとが、
ほんとうのコミュニケーションなんです。
なので、人間的なところや欠点が見えてくるのは、
よくあることだと思います。
そして、言ってしまえば、
欠点もたいしたことないんですよ。
ひとりの人間の欠点は、
その人が持つ振り幅に収まるものだから、
あまり大きく捉えなくてもいいのではと思います。

(明日に続きます)

2025-06-12-THU

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