
- Oさん
- 僕は、いろんな人と対話をするのが好きです。
でも、対話のなかで相手の経験を語ってもらっても、
なかなか自分の頭の中に落とし込めなくて、
その後の生き方に活かせている気がしないんです。
これでは、相手が話してくれた甲斐がないのでは、
と心配することもあります。
たくさんの方と対談をしてこられた糸井さんに、
相手にも「対話してよかったな」
と思ってもらえるような聞き方や考え方を
教えていただきたいです。
- 糸井
- Oさんの言うとおり、
僕はいっぱい人に会ってきました。
「社会的に見て偉い」とされている人にも、
「社会的には偉くない」とされてる人にも、
ものすごく会ってます。
そのことが、いまOさんが考えている問題に
直面しなくて済んだ理由だと思います。
つまり、ほんとうにふざけた人にも
ものすごくたくさん会っているので、
その人の経験を僕が生かしたら
まずい場合があるんですよ(笑)。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- なぜ僕は人と会ったり
しゃべったりしたいのかというと、
言ってみれば、その人と自分のあいだでしかできない
ゲームができるからです。
なんの役に立たなくても、
そのゲームがおもしろくて、
なんだかいい時間が過ごせたなと思えたら、
それ以上は要らないんですよ、きっと。 - 「ぜひこの方と糸井さんに
対談をしてほしいんです」と
指名されているときって、
普通はプレッシャーがあるはずですよね。
僕にはできないような鋭い質問ができたり、
相手のことを綿密に調べてから話したりできる
インタビュアーはたくさんいます。
そのなかで、
あえて僕に依頼してくれたということは、
きっと鋭さや綿密さを求められてはいないんですよ。
ではどんな対談をすればいいかって、
それは始まる直前までわからないんです。
でも、だいたいなんとかなります。
なぜなんとかなるかというと、
「なんとかなる」って思ってるからなんです。 - でも、対談相手の方が
「『この人と会ってみて、おもしろかったな』
と感じる時間にしたい」とは思っています。
だから「このテーマさえあれば、
まず話はできるな」という、
話したいことをひとつは考えています。
テストではないから、
用意していたその話題にならなくても
構わないんですけどね。 - それから僕は、どんなに好きな人と話すときも
「好きすぎてあがっちゃう」
ということがないんです。
(永田さんを見て)
俺があがってること、あったっけ?
- 永田
- ないんじゃないですか。
ドラマに出演することになって、
正しく台詞を言わないといけなかったときは
あがってるどころか、
楽屋で話も通じないくらいでしたけど。
- 糸井
- それは言わないでくださいよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 僕があがらない理由をあえて言うならば‥‥、
あの、これから、すごく生意気なことを言います。
(乗組員のほうを向いて)
動画やよみものにするときは、
「これは、生意気なことだと
糸井もわかっています」と注釈を入れてください。
- 乗組員
- わかりました(笑)。
- 糸井
- つまりね、極端に言ってしまうと、
「どの人もたいしたことない」って思ってるんですよ。
(編集部注:これは生意気なことだと、
糸井もわかっています)
- 一同
- おおーっ。
- 糸井
- ここ、注釈ね。ちゃんと入れてくださいね。
- 糸井
- もちろん、苦手な人を含めて、誰に対しても
敬意は持っています。
敬意は持ってるんだけど、
「そんなたいしたはずがない」というのは、
内緒で思っていていいんじゃないですかね。
みなさんも、僕とここまで話してみて
わかったと思いますが、
僕にもたいしたことない部分が
ものすごくあったでしょう。
それが人間なんですよ、きっと。
「多少、たいしたことがあるにしても、
まあたいしたことないな」ということは、
みなさんくらいの年から思っていて
いいんじゃないでしょうか。
- Iさん
- それで言いますと、
ほぼ日乗組員のみなさんを拝見していると、
糸井さんに対して、
ものすごく大きなリスペクトがあるわけではない
印象があって‥‥。
- 一同
- (笑)
- Iさん
- もちろん、リスペクトがあるのはわかるのですが、
どちらかというとフラットな話し方で
接しているように見えます。
乗組員のみなさんは、糸井さんのことを
どんなふうに思っているのでしょうか。
- 糸井
- あの人(乗組員・菅野)は、
僕のことを取るに足りないと思ってます。
- 菅野
- 思ってません!(笑)
ええとですね‥‥
インタビューなどでは、
こちらからのリスペクトが強すぎると、
逆に会話がスムーズに進まないことがあります。
なので私も「人間はみんな、たいしたことない」
と思おうとするのですが、
深く相手を知っていくと、どうしても
「たいしたことないと思いたいけど、思えない」
という気持ちが出てくるんです。
「なめちゃいけないな」みたいな気分になって。
なめられない部分が必ずある。
- 菅野
- きょう来てくださったみなさんのことも、
「ふつうのお子さん」と思おうとしても、
全然思えないんですよ。
それは、先ほどの糸井の話にも出た
「敬意」が、実際にお話しする時間のなかで
どんどん強くなるからだと思います。
それから私は、お互いに
「この人のこと、たいしたことないと思いたいけど、
思えないな」と思い合って別れるのが、
一番気分がいいんです。
話を戻しますと、糸井に対してもそんなふうに
「なめたいのに、なめられない」
という気持ちでおります。
- 糸井
- ベテランの菅野の次は、新人にも聞いてみようか。
(乗組員・松本に向かって)
あなたは、まだ入社2年くらい?
- 松本
- 今年、2年目に入りました。
私も、もちろん糸井さんのことは
なめてないですけど‥‥。
- 松本
- 最初はお話するのに緊張しましたし、
糸井さん以外の、
インタビューでお会いする方に対しても
「私なんかがこんな有名な人と
お話ししていいのか」という気持ちが
ずっとありました。
でも「そういう気持ちは、
なるべくないほうがいいな。もう、なくそう」
と思って、なくしているところです。
きっかけは、ほぼ日で言われた
「緊張禁止」という言葉でした。
- 糸井
- ああ、言いましたね。
- 松本
- 「緊張して相手に向かっていっても、
ほんとうに心をひらいたいい話はできない」
という意味だと私は解釈したんです。
緊張を禁止されたおかげで
できるようになったことが、いっぱいあります。
すべての人に対して「たいしたことない」と
思えてはいないですけど、
構えすぎないほうがいいな、とは思えています。
‥‥すいません、2年目なりの意見でした。
- Iさん
- いえ、よくわかりました。
僕はけっこう、小さいころから、
まず人を「すごい」と思って見るんです。
でも、一緒に過ごす時間が増えてくると、
相手のよくない部分も
見えてきてしまうことがあります。
「ああ、この人もふつうの人なんだ」
と思い直すことを繰り返していて。
人に対してそんな見方をしていていいのか、
ときどき不安になります。
- 糸井
- Iさんのような見方をする人が多数だと思います。
相手を「すごい」と思うことから
始まっていることは多いです。
僕が「今度誰々さんと会う」と決まるときは、
ほとんどの場合「あの人、ここがすごいな」
と思ったことがきっかけです。 - でも、だからといって、
緊張してなにかいいことがあるかというと、
ないと思うんです。
つまり、相手を奉っちゃうと、
人間どうしとしてコミュニケーションが
できなくなっちゃう。
だから、なるべく同じ目線の高さで話しています。
僕は、僕以上の実力を出せるわけがないですからね。
‥‥あ、これは、けっこう大事かも。
つまり、
相手を尊敬しすぎることによる緊張ではなく、
「自分がバカに見えないように」と意識するゆえの
緊張のほうが、厄介かもしれません。
「相手に失礼のないように」という緊張なら、
礼儀正しくいればいいので、なんとかなります。
でも、「バカだと思われたらどうしよう」
という緊張は、意味がないです。
いくら実力以上に見せようとしても、
バレちゃうから。
で、バカな部分がバレたあとが、
ほんとうのコミュニケーションなんです。 - なので、人間的なところや欠点が見えてくるのは、
よくあることだと思います。
そして、言ってしまえば、
欠点もたいしたことないんですよ。
ひとりの人間の欠点は、
その人が持つ振り幅に収まるものだから、
あまり大きく捉えなくてもいいのではと思います。
(明日に続きます)
2025-06-12-THU


