
- Mさん
- 僕は「人と違う価値観や個性を持ちなさい」
「夢を持ちなさい」
と言われることがよくあるのですが、
あまり「夢に向かって突き進む」ことが
できていない気がするんです。
- 糸井
- 僕も、自分の「夢」については、
ずっとはっきりしたことがわからないです。
でも、仕事は「あなたを応援してるよ」という人が
集まってくれることで成り立つので、
夢や目標のようなものを語る機会が多いです。
スポーツ選手もよく
「応援してくれる人の望むことを、
できる限り実現したいです」と言いますよね。
いまの社会では、夢や目標を「約束」という形で
話すことが要求されているんです。 - 夢を持ちづらい理由のひとつは、
「夢は約束じゃないよ」ということを、
多くの人が忘れてるからだと思うんですよ。
とくに現在の、いわば資本主義の社会では、
いろんなものを数字に置き換えたり、
効率を求めたりしています。
「約束」ということにしておかないと、
実現しなかったときのペナルティーもなければ、
達成したときのご褒美もない。
だから「全部約束にしよう」と
決めてしまいがちです。
それが西洋社会のロジックであり、
契約社会の思想なんです。 - でも、ほんとはでたらめ言っていいんですよ、
夢ってね。
1日しか見なかった夢について
語ってもいいんです。
- 糸井
- そこでほぼ日は、ちょっとずるいんだけど、
「夢に手足を。」って言ってるわけです。
この言葉は、夢を「自分たちに扱えるスケール」
にしてくれるんです。
だから僕らは、「世界一の◯◯をつくる」といった
規模の大きな夢は掲げたことがありません。
僕らが夢だって言っていることは、
ほんとうにやりたいことなんですよ。
「ほんとうにやるぞ、という、本気の話をするよ」
という意思表明が、
僕らにとっては「夢に手足を。」なんです。
この言葉のおかげで、僕らは夢を
「実現できるもの」のスケールにできているけれど、
基本的には、夢なんて、
全部でたらめでも構わないと思う。 - 僕の長続きした夢は「漫画家になりたい」
だったけれど、実現はしなかったです。
逆に「アマゾン川で釣りがしたい」という夢は
実現しましたが、実現したからといって
誰かの役に立ったわけでもありません(笑)。
それでいいんだと思います。
ネットや制度上のやりとりでは、
「その定義はなんだ」
「ここから1ミリでもずれたらダメだ」
といった言い争いがよく起こります。
その環境のなかにいると、
夢は「絶対にやり遂げます」
という約束でなければならないと思いがちだけど、
実際の社会では、みんなもっと、許してるから。
なぜかって、人間がやってるからです。 - だから、もう割り切ってしまって、
ほんとうは自信がなくても
「はい、僕の夢はこれです!」
と言っちゃってもいいと思う。
さっき話に出た横尾忠則さんだって、
もともとは郵便配達員になるのが夢で、
実際は毎日大きな絵を描く人になったんですからね。
‥‥大丈夫ですか、この答えで。
- Mさん
- はい、ありがとうございます。
いったん、気負いすぎずにがんばってみます。
- 糸井
- うん。
「夢を叶えるまで監視してやる」なんて人は
いないから、大丈夫ですよ。
- Yさん
- 僕は、夢や目標ができて、新しいことを始める前に
「これ、いつまでやるんやろう」と、
終わりを考えてから始めることがあります。
糸井さんは、
ほぼ日のお仕事をいつまでやるか決めていますか。
それから、いま、
糸井さんがリーダーとして考えていることは
どんなことでしょうか。
- 糸井
- 終わりは、何年も考え続けていますね。
自分がまだやりたいことがあるかどうか、
あるいは、自分に望まれていることがあるかどうかは
考えないわけにいきません。
なので、自分の立ち位置や役目を
自分と相談しながら、
いつか「やめる」ときの練習はずっとしています。 - そして、僕のリーダーシップはね、
ゼロにしたいんですよ。
強いて言うなら、
「チームプレーをやりたい」という強い思いが
僕なりのリーダーシップかもしれません。
ほぼ日というチームがもっと大活躍するために、
「もっとそこに力を入れて」と
仲間に伝えることはありますし、
自分に「ここはちゃんとやろうよ」と
言うこともあります。
そんなふうに、自分もチームの一員として
チームプレーをするためのことを
一所懸命やっていて、
「自分がリーダーかどうか」という発想は
持たないですね。 - 理想は、リーダーがいない状態で、
生き物としてのチームが
ガンガン上に登っていくことです。
自分が褒められるより、その集合体の一部として、
みんなで褒められたほうがやっぱりうれしい。
自分ひとりで「俺はもっとできるぞ」と
言うことは、僕はできないけれど、
チームのなかなら「自分たちはもっとできるぞ」
と言えますからね。
(明日に続きます)
2025-06-09-MON


