いまなお、世界中で多くのファンに
愛されている『MOTHER』シリーズ。
全3作品のことばをすべて収録した本、
「MOTHERのことば。」も発売されました。
本の発売をきっかけに、ファンの人たちに
『MOTHER』のなかで思い出に残っている
ことばはなんですか? とうかがったところ、
たくさんの方が回答してくださいました。
そのなかから印象深い7つのことばについて、
『MOTHER』の作者、糸井重里に取材しました。
最初は「ちゃんと憶えてるかなぁ?」と
言っていた糸井重里でしたが‥‥。
『MOTHER』ファンの代表として
聞き手を務めるのは、ほぼ日の永田です。

写真:東 京祐

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第3回 ゲームの分岐の醍醐味

──
4つ目のことばです。
これも、多くの人が挙げてました。
一作目の『MOTHER』の終盤のことば。

わたしのこと すき?
はい  いいえ

糸井
ああー。これはもう、
いろんなところで話してますが、
こういう場面を描きたくてゲームをつくってる
みたいなところがありますよね。
小説には書けないんですよ、こんなことば。
──
まっすぐすぎるというか、
シンプルすぎるというか。
糸井
「わたしのことすき?」
「はい」「いいえ」なんて。
でも、ゲームだと成り立つ。
それがじぶんにとって大発見で。
しかも、単純だからこそ心に残る。
──
ああ、そうですね。
事実、たくさんの人が、
いまもこのことばを憶えています。
糸井
ねぇ。ちゃんと伝わったんだね、やっぱり。
──
ここは、そのまえからの流れでいうと、
終盤のけっこうつらい戦闘が続くところで、
山小屋みたいなところでふっと一休みしたら、
こういう展開になるんですよね。
しかも、いままで自分が操作していた
キャラクターがダンスを踊りだす。
糸井
ダンスと言っても、
もう、ちゃちなもんですよね。
ドット絵のキャラクターが
くるくる回っているだけのもので。
──
でも、それが泣けるんですよ(笑)。
そして、「わたしのことすき?」のあとに
「はい いいえ」の選択肢を持ってくるところが、
もう、ゲームというか、すごいなぁと思いました。
しかも、選択肢がループするわけじゃなく、
どちらかを1回しか選べない。
糸井
うん。けっこう考えたんだよ、ここは。
1回きりなんだけど、
プレイヤーが傷つかないように
先へ流していかないといけないから。
ゲームの分岐の醍醐味だよね。

──
質問をくり返されて、
いろんな答えをぐるぐる回るような分岐も
『MOTHER』シリーズの醍醐味ですけど、
ここは二者択一なんですよね。
ファンの方のコメントで、
「『わたしのことすき?』と聞かれて、
照れて、どうしても『はい』が選べず、
『いいえ』を選んだら、そのまま進行して、
とうとうエンディングまで行ってしまった。
だから『はい』とあの場面で答えるために、
もういっぺん最初からやり直しました」
というのがありました。
糸井
ああ、そうか、そうか。
「いいえ」って言うしかない
気持ちもすごくわかるよ。
だから、両方の答えを尊重してるんだけどね。
へぇー、でも、やっぱりこれ、
おもしろかったんだね。
「ことばが」というより、
「ことばを使ったゲームが」
おもしろかったということだろうね。
──
そうですね。
糸井
そして、意外というか、なんというか‥‥。
さっきから、ずっと、
「オレの腕を見せてやろう」っていうことばは、
ひとつも選ばれてないんですよ(笑)。
──
あ、そうですね(笑)。
糸井
なんというか、
「オレの腕を見せてやろう」っていうのも、
けっこうあるはずなんだけど。
──
ははははは。
糸井
「イヌてきなおにいさん」とかさ。
そういう、おもしろがらせるつもりで、
丁寧にふざけたようなところは、
「思い出のことば」には残らないんだね。
──
いや、トップには挙げてないけど、
好きな人は多いと思いますよ。
「イヌてきなおにいさん」、
ぼくも大好きです!
糸井
ぼくも好きだよ(笑)。

──
『MOTHER3』のクラブ・チチブーは
ペット禁止だから、
犬のボニーが入れないんですよね。
で、すごすご引き下がったあと、
ボニーが服を着て、二足歩行で現れる。
糸井
で、見るからにあやしいボニーのことを、
屈強な門番が
「そちらのイヌてきなおにいさん」
って言うんだ(笑)。
──
しかも、そのあと、お手もさせるんですよ。
糸井
ああ、そうそう(笑)。
──
門番が「あやしい」って言い出して、
「イヌてきなおにいさん、お手!」って。
で、そのあとのセリフがいいんですよ。
糸井
ええと、なんだっけ?
──
「お手は、できたはずだろう?」
って言うんですよ。
糸井
はははははは!
──
で、けっきょくクラブに
ボニーは入っちゃうんですけど、
通した門番が最後に言うセリフが、
「仮に、あんたがイヌなら‥‥
きっといいお手をするイヌだろうぜ」。
糸井
ああー、いいなぁ(笑)。
──
いいんですよ、最高ですよ。
糸井
そういうのは、つくってるとき、
うれしくてしょうがないんですよ。
現場でもゲラゲラ笑いながら
つくってると思います。

(つぎのことばにつづきます!)

2021-01-30-SAT

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