
糸井重里が監修し、企画、設定、全シナリオを手掛けた
RPG『MOTHER』シリーズ。
そのことばをすべて収録した本を
2020年12月に発売したことをきっかけに、
立ち上げたのが「ほぼ日MOTHERプロジェクト」です。
『MOTHER』にまつわるコンテンツや
アイテムをつくっている本プロジェクトのなかから、
代表的なアイテムの
つくり手のお話や現場のようすをお伝えします。
遮熱率64%、UVカットと遮光率は99%以上。
真夏の炎天下に守ってくれる晴雨兼用傘ができました。
骨はカーボン製。
折りたたみ傘としてはおおきな60cmサイズ。
そして、風にも強くて丈夫な8本骨です。
涼しい日陰にすっぽり包まれます。
この傘を開発した東レインターナショナルの
山口明男さんにお話をうかがいました。
- 高機能の布を無駄なく使って、傘を。
- ──
- 「東レ」って、とてもなじみのある会社ですけれど、
そもそもはレーヨン糸の生産をされていたんですね。
- 山口
- 1926年の設立時は「東洋レーヨン株式会社」でした。
そこからスタートして、合成繊維や合成樹脂など
新素材の開発を続けています。
今は、総合科学メーカーとして、
化学製品や情報関連素材も扱っています。
レーヨンは、再生繊維なんです。
- ──
- 「東洋レーヨン」が「東レ」になったんですね。
合成繊維というイメージは強いです。
- 山口
- ナイロンって、
歴史上、最初の合成繊維なんですけど、
日本では東レが初めて、1941年に開発しました。
その前にアメリカのデュポン社が、
ナイロン66というものを開発していたので、
東レではその特許を侵害しない、独自の技術で
ナイロン6っていうのを作ったんです。
- ──
- 日本で初めて、だったんですね。
- 山口
- 今回の日傘に使われているサマーシールドは
ポリエステルなんですけど、
ポリエステルも日本では
帝人さんと東レがタッグを組んで
イギリスの会社からライセンスを受けて
共同ブランドを立ち上げたのが始まりです。
その名も帝人の
「テ」と東レの「ト」で「テトロン」。
- ──
- テトロンって、そういうことだったんですね。
- 山口
- それを進化させて、
さまざまな形の繊維を作ったり、
物質を混ぜ込んだりして、
機能性の高い繊維を作れるようになったんです。
- ──
- 東レインターナショナルさんが
独自に傘を作ろうと思われた、
きっかけっていうのは何なんですか?
- 山口
- 私の所属する東レインターナショナルでは、
アパレル製品、その中でも特に機能製品、
高機能の製品をたくさん作っているんです。
アパレル業界って、
世界でも有数の環境に負荷をかける産業だって
言われてまして、
服の製造の中で、
大量の生地がどうしても残るんですよね。
- ──
- 手仕事でないかぎり、そうなりますよねえ。
- 山口
- この惨状は何とかしたいなとずっと思ってました。
そんな中で、僕らが捨ててしまう商品、
もしくはダウングレード、
ダウンサイクルしてしまうような商品を、
もう一回、価値をつけて利用してもらえないか?
そこで着目したのが傘だったんです。 - 傘って、日本でも年間6000万本とか
8000万本っていう数が、
買っては捨てられていく商品なんですよね。
それなら、僕らの作っている
撥水性・耐水性のある生地を
傘に転用したらどうだろう。
より上質で高いスペックのものができるんじゃないか、
っていうことで傘を企画しました。
- ──
- 洋服の、あまった生地が始まりなんですね。
そこに耐水とか遮光、UVなどの機能を足して?
- 山口
- 裏面にコーティングとかラミネーションとか
そういうものを施してる素材がありまして、
そのままで雨傘の生地の条件を、
簡単に満たしてしまうんです。
- ──
- もともと傘にむいている生地なんですね。
- 山口
- そうなんです。
衣類や日傘の紫外線保護指数の最高レベルが
UPF50+なんですが、
それはけっこう容易にクリアできる。
最近、話題の中心になっているのが
晴雨兼用の特にスペックの高いもの、
なかでも遮熱性の高い素材なんですね。
手前味噌ですけど東レのサマーシールドという素材は
特に晴雨兼用の生地のパイオニア的な存在でして。
それで今回の『MOTHER』の日傘にも
使わせてもらうことになったわけなんです。
- 酷暑にも、嵐にも負けない高機能。
- ──
- サマーシールドというブランド名の生地の中でも、
いくつか種類があるんですか?
- 山口
- そうですね、
「MOTHERのひがさ』に使っているのは、
今年からレシピを変えた、特に遮熱性の高い生地なんです。
遮熱性という意味では、東レのラインナップの中で
一番高いものを今回使っていますね。
- ──
- 今年デビューですか?
- 山口
- 取り立てて言ってはないですけど、
今年デビューです。
- ──
- 炎天下で使うのがたのしみになってきました。
- 山口
- 遮熱性って
色が薄いもののほうが高い傾向があるんです。
白色の生地だと実測で遮熱率68%とか。
『MOTHER』の生地はベージュで、
遮熱率64%ですね。
- ──
- 遮熱率64%‥‥
普通の雨傘だと遮熱率ってどのくらいなんですか?
- 山口
- たぶんほとんどのものは30%未満ですね。
20%台とか、それぐらい。
- ──
- では、炎天下で日傘の代わりに雨傘をさしても、
ちっとも涼しくないんですね?
- 山口
- ないよりはマシですけどね。
晴雨兼用傘の一般的な基準では、
遮熱率35%以上で遮熱効果がある
と認められてますから、
60%以上あれば相当高いという
認識で間違いないですね。
通常は高機能と言われるもので45%、
かなり高いというので55%以上。
飛び抜けて高いとされるのが65%以上、
なので「MOTHERのひがさ」は
「かなり高い」の中でも
「飛び抜けて高い」に近いんです。
- ──
- 遮熱の生地を作ろうと思ったのは、
何か理由があるんですか?
- 山口
- 東レでは雨傘の生地を
ずっとやってきたんですけど、
そもそも価格の安さを重視されることが多く、
撥水性以外の機能は
あんまり求められてなかったんですよね。
それと、日傘のほうは
別名「純パラソル」って言われてて
見た目の涼さと通気性などがが求められる、
いわばファッションアイテムでもあったんです。
- ──
- ファッションアイテムというだけでは、
東レさんの分野じゃない感じですね。
- 山口
- ですけど、夏の日差しとか熱、UVから守る傘が、
じつは潜在的な需要があるんじゃないかと
それと、東レが依頼してる加工先に、
ラミネーション技術に優れた企業があり、
その技術を傘に転用できるんじゃないか
っていうので、
開発を始めたのがサマーシールドだったんですね。
- ──
- サマーシールド自体は、
いつ頃からあるものなんですか?
- 山口
- 開発を始めたのが2010年ですね。
2011年の夏に試験販売、翌2012年から
本格的に開発、販売を進めました。
特に注目されたのは、この3年ですね。
- ──
- あ、暑いから?
- 山口
- そうなんです。
最初は、重いし、値段も高いし、で、
需要はなかったんです。
ところが近年、夏があまりにも暑くて、
サマーシールドを使ったお客さんから、
メチャクチャ楽だと、
そういうコメントをたくさんいただきまして。
- 人間や、弱い動物を守りたい。
- ──
- サマーシールドってどんな布なんですか?
- 山口
- 生地自体は三層の構造になってます。
ベースの生地はポリエステル100%の一層目です。
で、二層目と三層目がフィルムなんですよね。
それぞれに役割があって、それぞれ機能してる、
っていうのが正しい言い方なんですけど。
一層目のポリエステルのところは、
撥水性とUV遮蔽に特に優れたような物質。
で、二層目が白の膜で、表地でとれなかった、
光とかUVをさらにシャットアウトして、熱も止める。
三層目が黒の膜で、さらに熱と光を止める。
三層でそれぞれ分担して光をUVと熱を軽減していく、
というような構造になってます。
それがサマーシールドの考え方で。 - 耐水にももちろん優れてまして、
ふつうの傘の生地の耐水圧が250ミリぐらいかな、
そのぐらいですけど、これは22,000ミリとかで、
異常に高いんですよね。
- ──
- 22,000ミリ?
それってどういう意味ですか?
- 山口
- 大雑把に言うと、
22m分の水柱の圧力に耐えられますよ、
という意味です。
それぞれメーカーやブランド、
ショップなどによって表現が異なりますけど、
耐水圧の目安を
10,000ミリ〜が
「大雨レベルに耐えられる」、
20,000ミリ〜だと
「嵐に耐えられる」
なんて表現しているショップさんもありますね。
- ──
- そんな凄いレベルなんですか。
じゃあ日常的に使うようなものにはあまり‥‥。
- 山口
- そう。傘にはそこまで求められないですね(笑)。
- ──
- でもそこまでのものを作っちゃったんですね。
- 山口
- はい、フィルムをラミネーションしたら
そこまで出ちゃったということだと思います。
ウエアは着るものなので、耐水だけじゃなくて
湿度は逃がすっていう機能が求められますよね。
傘の素材はその機能が必要ないので、
耐水性が上がっちゃった、というわけです。
- ──
- ふーん。それすごいですね。
災害時のリュックとかに使っても良さそうですよね。
- 山口
- この生地、サマーシールド、すごいんですよ。
いろいろ用途開拓してましてね。
素材そのものに耐水性・撥水性があって、
それから遮光・UV遮蔽・耐熱、さらに遮熱ですから、
多目的のクロスとしても需要があると考えてまして。 - 特に屋外で夏の炎天下にさらされるような環境、
この前の大阪万博しかりですし、
災害で避難しなきゃいけないような時に、
携帯性の高いサマーシールドを持ち歩くことで、
熱とか水とかから身を守ることができると思うんですよ。
ですから万が一の災害時にも転用できる、
そういうことは考えてますね。
あとは人間以外の用途も開拓しようかなと思いまして。
一つは、今すでに使っていただいてる
犬、ワンちゃんのグッズのブランドさんがありますけど、
それ以外の生き物、具体的には馬とか畜産とか、
熱に弱い生き物とかにも使えるだろうっていうので、
いろいろ専門家の話を聞いていっていますね。
- ──
- 熱に弱い生き物…。
先ほどからお話をうかがっていると、
東レさんの考え方の根っこには、人を守る、
弱いものを守るというのがあるんだなって思いました。
- 山口
- そうですね、そういう事にしておいてください(笑)
サマーシールドがその典型ですから。
熱から守る、光から守る、水から守る。
もともと傘が、そういうものですよね。
(つづきます。)
2026-05-13-WED




