
大分県のゆたかな森で、
森に根ざしたものづくりを行う
ブランドがあります。
長年にわたり林業を営んできた
「久恒山林(ひさつねさんりん)」が手がける、
「六月八日」です。
森づくりの経験を活かし、
スギやヒノキ、クロモジなど、
森の素材から香りのアイテムなどをうみ出しています。
このたび「六月八日」と、
ほぼ日のいい眠りのためのコンテンツ、
「ねむれないくまのために」が出会い、
あたらしいアイテムが誕生しました。
ここちよい森の香りで眠りをささえる、
「森のなかでねむる」シリーズです。
アイテムをご紹介する前に、
まずは「六月八日」のみなさんが大切にしてきた、
大分県中津市の、
耶馬渓(やばけい)の森をご案内しましょう。
ほぼ日乗組員のくま「ねむくま」と、
私たち「ねむくま編集部」が体験した、
森の記録をお届けします。
- 雄一郎さんの案内のもと、さらに山を下ります
- 雄一郎
- この枝、ちょっと香ってみてください。
- ──
- はい。
(香ってみる)
- ──
- わっ、すっごくいい香り。
ちょっとスパイシーで、華やか。
- 雄一郎
- せっかくなので、葉も。
- ──
- んっ!?
またちがった、いい香りですね。
さきほどよりも明るい香り。
- 雄一郎
- この植物は、クロモジです。
養命酒の主原料として、よく知られています。
- ──
- なんと、薬として。
- 雄一郎
- ええ。
ここは10年ほど前にスギを植えたあとは、
ほとんど人の手がはいっていません。
このクロモジも、人が植えたわけじゃない。
自然に芽を出して、ここまで育ったんです。
- ──
- こんなにもパワーのある植物が、自然に。
- ‥‥それにしても、いい香りですね。
ずーっと嗅いでしまいます。
- 雄一郎
- よかったらその枝、持って帰ってください(笑)。

- 雄一郎
- 私たちはこのクロモジからも、精油を作っています。
収穫するときは、
全体の本数の、半分だけを切るようにして。
- ──
- あえて半分、残しておく。
- 雄一郎
- はい。
残しておけば、5年くらいで
ふたたび茂ってきますから。
そうすることで、クロモジを枯渇させることなく、
活用することができます。 - クロモジって、いい香りでしょ。
薬効成分も高いもんだから、人気が出ちゃって。
全部切って持って帰ってしまう人も多くいるんです。
- ──
- なんと‥‥。
- 雄一郎
- そんなことをすれば、
山の資源はどんどん枯渇してしまう。
そうさせないためにも、
森と向き合うときには、
循環させるという考え方が欠かせません。
- ──
- 「循環」。
- 雄一郎
- さきほどもお話した通り、
森の手入れはとてつもない時間と手間がかかります。
つねに森の先のことを考えながら、
森づくりに取り組んでいます。
これから先も、
枯渇してしまうことなく、
森とともに暮らしていけるように‥‥。

- ──
- また、雰囲気が変わってきましたね。
- 雄一郎
- ええ、このあたりから典型的な林業地に入ります。
生産のために育てられた、
いわば、木の畑です。
- ──
- 木の畑‥‥。
すこし、暗いですね。
- 雄一郎
- 材木のために育てられたものなので、
伐採して使いやすいように、
同じような背の高い木ばかりなんです。
そうすると、空一面おおってしまってね。
林の中まで太陽の光が届かずに、
暗くなってしまう。
- ──
- ほんとうですね。
枝や葉っぱで、空がおおいつくされています。
- 雄一郎
- 日が当たらなければ、
あらたな植物は育ちません。
生物なども生息しづらくなり、
どんどん暗く、単純な森になってしまいます。
- ──
- なるほど‥‥。
あっ、なにか木に印がついていますね。
- 雄一郎
- これは、間伐をするためのマーキングです。
地面に光がとどかなくなり、
森が育ちにくくなるのをふせぐため、
植えた木をほどよく間引くように伐採しています。
ここは、2年ほど前に間伐が行われました。
- ──
- そうだったんですか。
- 雄一郎
- ‥‥それにしては、暗いなと思ったでしょう?
- ──
- ‥‥はい。
正直、さきほどの場所と比べると、
鬱蒼とした雰囲気を感じてしまいます。
- 雄一郎
- 間伐には、手間もお金もかかるので、
必要最小限しかやらないことも多いです。
なので、全国の林業地で、
このような状態の森が増えてきてしまっています。
- ──
- 手入れを続けないと、
どんどん暗い森になってしまうんですね。
- 雄一郎
- ええ。
- ──
- おなじ山の中でも、
こんなにも景色のちがう森があるなんて。
- 雄一郎
- そうでしょう。
その土壌や位置、
そしてどう手を入れていくかで、
まったくちがう、森になる。
- 雄一郎
- さいごに、みなさんに
ぜひ見ていただきたい場所があります。
あまり道がよくないのですが‥‥。
- ──
- ええ、かまいません。
- 雄一郎
- では。

- ──
- ‥‥よいしょっ。
- 雄一郎
- ここです。
- ここが、
私たちが目指す、「理想の森」。
- ──
- ‥‥わぁ。
- 雄一郎
- 天から光がさし、
地には多様な植物が茂っている。
ほら、鳥の声もよく聞こえるでしょう。
- ──
- (耳をすませる)
- 雄一郎
- この場所も、もともとは、まっ暗な森でした。
そこを、光がよく入るよう強めに間伐をして、
約20年間かけて、
自然の力によって育った森です。
- ──
- (深く息を吸う)
- 雄一郎
- これは、生産を目的とした森とは、
まったくの別物です。 - 明るくゆたかで、
多様な生き物が生息し、生命力にあふれている。
私たちが目指しているのは、まさにこういう森です。 - 私がもし鳥だったならば、
この森に飛んできたいと思うはず‥‥。
- ──
- 鳥も昆虫も、もちろん人も。
きっとみんなが、同じ気持ちになると思います。
多くの森が、こうあってほしい‥‥。
- 雄一郎
- この子も、うれしそうな顔をしてるね。
- ──
- ほんとうですね。
やっぱり、ねむくまも、この森がうれしいのかな‥‥。
(つづきます)
2025-05-10-SAT