
大分県のゆたかな森で、
森に根ざしたものづくりを行う
ブランドがあります。
長年にわたり林業を営んできた
「久恒山林(ひさつねさんりん)」が手がける、
「六月八日」です。
森づくりの経験を活かし、
スギやヒノキ、クロモジなど、
森の素材から香りのアイテムなどをうみ出しています。
このたび「六月八日」と、
ほぼ日のいい眠りのためのコンテンツ、
「ねむれないくまのために」が出会い、
あたらしいアイテムが誕生しました。
ここちよい森の香りで眠りをささえる、
「森のなかでねむる」シリーズです。
アイテムをご紹介する前に、
まずは「六月八日」のみなさんが大切にしてきた、
大分県中津市の、
耶馬渓(やばけい)の森をご案内しましょう。
ほぼ日乗組員のくま「ねむくま」と、
私たち「ねむくま編集部」が体験した、
森の記録をお届けします。
- 2024年11月、
ねむくまと、私たちねむくま編集部は、
「六月八日」の久恒まゆさんと、
耶馬渓にある、道の駅で待ち合わせをしました。
- まゆ
- こんにちは。
まゆさん
- ──
- こんにちは、お久しぶりです。
- まゆ
- 遠いところまで来ていただいて、ありがとうございます。
私たちが以前、
ずっと手をかけてきた森の今の姿を
ぜひ、ご紹介したいと思って。
- ──
- ありがとうございます。
- まゆ
- 今日は、実際に森の中を歩きながら、
お話させてください。
森の中へは、社長が車でご案内します。
- 雄一郎
- こんにちは。
雄一郎さん
- ──
- はじめまして。
よろしくお願いします。
- 雄一郎
- はい、お願いします。
みなさんどうぞ、乗ってください。
- ──
- 失礼します。

雄一郎さんの運転で、山を登ります
- 雄一郎
- では、このあたりから。
- ──
- はい。
- 雄一郎
- どうぞ、降りてください。
ここからは、実際に森の中を歩いていただきます。
- ──
- わ、涼しい。
- 雄一郎
- ええ、かなり上の方まで登ってきましたからね。
では、みなさん。
- ──
- はい。
- 雄一郎
- いまから自分のことを、水だと思ってください。
- ──
- 水?
- 雄一郎
- ええ。
水は、雨として森に降りそそぎ、
てっぺんからすみずみまでを巡り、
やがて地上へと流れていきます。 - 今日は、そんな「水」になったつもりで、
森を上から下まで、
じっくり見て、感じて、知って帰ってください。

- 雄一郎
- まず、雨として降りそそいだ水が
森で最初に出会うのは、
じつは、地面ではなく「木」なんです。
- 雄一郎
- そう、まさにいま見上げているような、背の高い木。
- ──
- とても高いですね。
- 雄一郎
- これは、ヒノキです。
樹齢はだいたい50年くらい。
- ──
- ここまで育つのに、そんなにも。
- 雄一郎
- ええ。
水は、枝や葉に受けとめられ、
幹をつたって、地上におりたち、
やがて、土へとしみこんでゆきます。
- 雄一郎
- ほら、あそこ。
道沿いに小さな木が見えてきました。
ここは、10年ほど前に木を伐り、整えて、
スギの苗木を植えた場所です。
- ──
- 10年でも、まだほんの子どもに見えますね。
- 雄一郎
- ははは、そうでしょう。
あそこの、筒が見えますか?
- ──
- あの白い?
- 雄一郎
- ええ。
これは植林した苗木を保護するための筒です。
よく見ると、
ちょっと緑が顔を出している。
- ──
- あ、見えます。
一本一本、筒をかけているんですか?
- 雄一郎
- そのとおり。
林業は長い年月をかけて取り組む仕事です。
とくに、
苗木を植えてから自立するまでの10年間が、
最も手間とコストがかかる時期なんです。
- ──
- ほう。
- 雄一郎
- 苗木を植えるためには、
もちろん多くの人手が必要ですし、
そもそもの苗木代や、
木と競合する雑草を刈る「下草刈り」にも
膨大な手間とお金がかかります。
- ──
- この広さを、すべて手作業で?
- 雄一郎
- ええ、もちろんです。
ここは、手間を減らすために、
さっきのような筒を使ったり、
色々と試行錯誤をしているんです。
- ──
- 実験場のような場所なんですね。
- 雄一郎
- ええ。
ここは比較的うまくいっていますが、
うまくいかないことも、多いです。
- ──
- それは、どうして?
- 雄一郎
- さまざまな原因がありますが‥‥、
多いのは、雨ですね。 - ここは土壌の薄い地域ですから、
豪雨によって、土が流れてしまいやすい。
一度、すべての土が流れてしまったら、
我々の手で再生するのは、
ほぼ不可能と言っていいでしょう。
- ──
- えっ、不可能。
- 雄一郎
- 土がなくなってしまったら、
森がもとの状態にもどるまでに、
場所によっては、
何万年もの時間が必要ですから‥‥。
- ──
- な、何万年!?
そんなに、かかるんですか。
- 雄一郎
- そもそも、
土がどのようにできているか知っていますか?
- ──
- 土、ですか?
すみません、おはずかしながら‥‥。
- 雄一郎
- 私たちのまわりに、
あたりまえにあるものですからね。
では、ちょっと、足元を見てください。

- 雄一郎
- 道の上に、いろいろなものが落ちているでしょう。
- ──
- 葉っぱ、枝、あと木くずのような‥‥。
- 雄一郎
- ええ、私たちはそれらを「リター」と呼んでいます。
- ──
- 「リター」?
- 雄一郎
- 英語で、「Litter」。
落ち葉や枯れ枝などの、
植物が落とすものを指すことばです。
この「リター」が、
長い年月をかけて積み重なり、
ミミズや微生物たちに分解されることで
土がうまれます。
- ──
- はー。
- 雄一郎
- 今私たちが歩いている地面のように、
土が山を覆うまで、
何万年もの月日が必要なんです。
- ──
- そんなに長い歴史が‥‥。
- 雄一郎
- 岩や石だけでは、
植物や生物が住み着くことができません。
土は私たちにとっても、大切なものです。

- 雄一郎
- 土でいうと、
森の大切な役割の一つである「水土保全」。
これを忘れてはいけません。
- ──
- 「水土保全」?
- 雄一郎
- その名の通り、森が水と土を保つことです。
木や草が育つには水が不可欠。
でも、ちょっと想像してみてください。
土のない場所に雨が降ったら、どうなるでしょう?
- ──
- そのまま、流れていく?
- 雄一郎
- そう。
硬い岩肌では、水はとどまれずに、
すぐに流れていきます。
もし運よく、くぼみにとどまったとしても、
太陽に照らされて蒸発してしまう。
- ──
- あぁ。
- 雄一郎
- ですが、土の層がだんだんと厚くなってくると、
土はまるでスポンジのように、
水をぐんぐんと吸い込む。
- ──
- これまでただ、流れ落ちるしかなかった水が、
土によって、保たれるんですね。
- 雄一郎
- そのとおり。
だからこそ、
水と土、両方を保つことが大切なんです。
- 雄一郎
- そして、忘れてはならないのが木の存在です。
- ──
- 木。
- 雄一郎
- 木がない場所にいくら土があっても、意味がない。
雨や風で、すぐに流されてしまいますからね。
木が根を張ることではじめて、
土が山に定着し、維持されるんです。
- ──
- 長い年月をかけて、ようやくできた土も、
簡単にはとどまれないなんて‥‥。
ほんとうに厳しい環境ですね。
- 雄一郎
- ええ。
- ──
- そもそも、
木がなければ、土のもととなる「リター」もない。
- 雄一郎
- そのとおり。
- 雄一郎
- 土が蓄えた水は、
やがて川となり、平地に流れ出します。
その水で、田んぼをしたり、
生活用水として使ったりと、
毎日の生活で、水を使えるようになるわけです。
- ──
- 「水土保全」。
森にとっても、私たち人間にとっても、
とても大切なことですね。
- 雄一郎
- 水、土、そして木。
どれか一つでも欠けたら、森は崩れてしまいます。
それぞれが、とてつもないバランスを取り合って
森はなりたっているんです。
(雄一郎さんの森のおはなし、つづきます)
2025-05-09-FRI