さあ、冬季五輪です。今年はイタリア。
ミラノとコルティナダンペッツォ(長い!)で
2月6日から2月22日まで開催されます。
かつては膨大な量のメールを
狂気じみた長さで翌日に掲載していた
「観たぞオリンピック」シリーズですが、
東京オリンピックでその形式は終わり、
その後に開催されたオリンピックからは、
ぼくが1日に1本、原稿を書く
というスタイルでひっそり続けています。
あ、ぼくというのは、ほぼ日の永田です。
さて、今回のオリンピックでは、
さらにのんびりと、書けたら書きます、
というくらいの感じで行きたいと思います。
そしてリアルタイムの観戦実況的な発信は、
Xの「#mitazo」をご覧ください。
さあ、はじまったらはじまっちゃうよ?
開会式から閉会式まで、よろしくお願いします!

 

永田のX(旧Twitter)アカウントはこちらです。
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#15

坂本花織という太陽

 
明るい人、というのはいるものだ。
それも、とびっきり明るい人。
坂本花織選手のことを、
木原龍一選手は敬意をこめて
「やかましい太陽」と表現したそうだ。
表現した木原さんも、
表現された坂本さんも、いいなあと思う。
フィギュアスケートの日本代表選手たちが
ひとつのチームだとすると、
そこに坂本花織という太陽があるとないとでは
ほんとうに大違いだと思う。
競技を問わず、アスリートたちが
活躍する場のレベルが高まれば高まるほど、
そこはどんどん日常から遠ざかっていく。
4年に一度のオリンピックともなれば、
勝つことの難しさも、かかるプレッシャーも、
声援の量も、支援の体制も、費やされるお金も、
そして自分たちの未来への影響も、
計り知れないほど大きくなる。
きっと深海を降りる潜水艦のように、
行けば行くほど押しつぶされそうになる。
チームは内圧を高めていかなければ、
実力すら発揮できずに畳まれてしまう。
競技を問わず、高い場所で戦う
どんなスポーツチームもそうだと思う。
戦う場所の圧が高まれば高まるほど、
そこに太陽があることは大きな意味を持つ。
太陽がいるチームは、きっと強い。
たとえば読売ジャイアンツにおける長嶋茂雄さん。
いや、日本プロ野球界における長嶋茂雄さん。
盟友、王貞治さんは、長嶋さんへの弔辞のなかで、
「明るい太陽のような長嶋茂雄さん」と表現した。
どんなときでもポジティブで、
チャンスになればなるほどわくわくしたという長嶋さん。
グラウンドを離れればかなりの天然で、
尾ひれのついてない実話が
たくさんアーカイブされている長嶋さん。
(地味に好きなのは、試合前の練習で集中し過ぎて、
シャワーを浴びたあと満足して
シャツに着替えて帰ろうとしたという話)
9連覇という偉業を成し遂げるうえで、
成績だけでなく、その明るさは、
王さんだけでなくチーム全員の呼吸をらくにしただろう。
2010年の南アフリカ大会から4大会連続で
サッカーのワールドカップに出場し、
39歳になった今年も代表招集の可能性を残している
長友佑都選手もチームを照らす太陽だと思う。
「ブラボー」を連発する彼の言動は、
ファンにすらいじられ、
苦笑する人も多いのかもしれないけど、
ワールドカップの試合前のロッカールームに、
自称「メンタルモンスター」の
長友選手のあの声が響くだけで、
不安な気持ちはずいぶん軽くなると思う。
あと、チームのないスポーツではあるものの、
松岡修造さんの明るさと前向きさは、
たったひとりで戦うテニスという競技のなかで、
彼自身を彼が鼓舞し、彼自身を彼が救ったと思う。
松岡さんはいまテレビのレポーターとして
スポーツの大きな大会を取材することがよくあるが、
彼にインタビューされる現役アスリートたちは、
通常の記者会見などでは見せない明るい表情で
まっすぐな気持ちを語ることが多い。
あれも、太陽に照らされているからだと思う。
個人的な印象だけど、
アスリートには意外に暗い人が多いと思う。
ひとりで練習に打ち込み、自問自答し、自分を追い詰め、
高みを目指せば目指すほどストイックにならざるを得ず、
結果的に内に向かうことが多くなるからだ。
だから、国を代表するチームなんかを組もうものなら、
真面目でストイックな実力者、
みたいな人ばかりが集まってもおかしくない。
トップアスリートになる人に
チームの輪を乱すような人はいないと思うけど、
チームを引っ張っていけるような明るい選手が
そこにかならずいるかどうかはわからない。
もしも太陽みたいな人がそこに混ざっていたら、
照らされるチームのメンバーはとても幸運だと思う。
つまり、坂本花織選手がいた
今回の日本フィギュアスケートチームは、
そういう幸福なチームだったと思う。
だからこそのびのびと6個ものメダルをとったのだ。
フィギュアスケートの最終種目は女子シングル。
坂本花織選手は最終種目の最終グループで滑った。
いままで客席からチームのメンバーを応援するために叫び、
すばらしい演技にぽろぽろと涙をこぼし、
明るくみんなを照らし続けた坂本花織選手が、
今度はみんなから声援をおくられながら、
リンクの中央にひとりで立った。
まったくパーフェクトな演技じゃなかったかもしれないけど、
すばらしいスケートで、北京オリンピックから
ひとつ順位をあげて銀メダルに輝いた。
そしてこの日、リンクのなかでもっとも明るく、
はじけるような笑顔で会場をわかせた
アメリカのアリサ・リウ選手が金メダルに輝いた。
ぼくの思うアメリカのスケートのよさが
つまっているような明るくハッピーな演技だった。
17歳の中井亜美選手が銅メダル。
予定していたジャンプからちょっとだけ
レベルを落としてしまった演技の終了直後には、
笑顔になるでもがっかりするでもなく、
「ん?」と首をかしげ、
そんな反応はいままで観たことがなかったから
ぼくはそこまでを含めて演技かと思ってしまった。
実況していたNHKのアナウンサーが
「首をかしげた!」と叫んだのもなんだかおもしろかった。
表彰式のときはきょとんとしながらも
はじめての銅メダルにはしゃぐ中井亜美選手と、
それをあたたかく見守るかのような
坂本花織選手の対比がとってもよかった。
4位になった千葉百音選手を含めて、
「これからはちゃんとしなさいね」と
卒業生が後輩をやさしく諭しているみたいだった。
ぼくは思う。
ミラノ・コルティナオリンピックの
日本フィギュアスケートチームは、
ほんとうにいいチームだった。
こんなチーム、なかなかないと思う。
あ、まだエキシビションがあるね。たのしみだ。

(つづきます)

2026-02-20-FRI

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