次第に日差しがあたたかくなってきました。
きれいで、やさしくて、おいしいものが
大好きなわたしたち。
親鳥であるニットデザイナー・三國万里子さんの審美眼に、
ときめきに花を咲かせる4人が水鳥のようにつどい、
出会ったもの、心ゆれたものを、
毎週水曜日にお届けします。
「編みものをする人が集える編み会のような場所を」と、
はじまったmizudori通信は、
ニットを編む季節の節目とともに一旦おやすみします。
ニット風景も一挙ご紹介です!

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♯007

2020-12-09

あるベテランのウェブデザイナーの方と
就職についての話をしたときのこと。
その方は美術系の大学で学んだ後、
いわゆる就職活動をしなかったのだそうです。
「なぜしなかったんですか?」
「んーー、だってヤじゃない?
面接受けて会社なんかに入ったら、きっと、
よくわからないオヤジによくわからない理由で
怒られたりするんだよ」
「…わたしもいやです、怒られながら働くの」
「ヤだよねえ」
「はい」
相槌を打ちながら、ポカンとした小さい青空を
曇り空の隅っこあたりに
切り開いてもらったような気持ちになりました。
言っていいんだ、
怒られるのがいやだから就職しない、なんて。
そういえばわたしも似たような理由で
就職活動をしませんでした。
ことの起こりは大学生になって初めて行った
アルバイト先でのこと。
経営者のおじさんに「この子は使えない」と言われたのです。
ムッとしましたが、それは事実かもしれないと思いました。
少なくともそれを否定できる根拠が見つからなかった。
わたしは実際に物事に反応するのに人より時間がかかるし、
たまに人の話を聞いていないこともありました。
その後もいくつかのアルバイト先で「うかつ」な失敗をして、
人に呆れられるたびに自信を無くしていきました。
わたしはトロくて社会で役に立たないし、
人並みに働くのは無理なんだ。
就職なんてしたら、ひどい目に合うに決まってる。
いつの間にかそう信じるようになりました。
先のウェブデザイナーの方に話を戻すと、
彼はわたしのように社会に対して萎縮しませんでした。
自分の可能性を自覚して、
その使い方もイメージできたのでしょう。
新参者だからといって100パーセント自分を
社会に合わせるのではなく、
より対等に仕事をしていくために
友達とデザイン事務所を作ったのだそうです。
そして紆余曲折あって、
今は違う会社に「就職して」働いていらっしゃいます。
その紆余曲折の部分もとても興味深いお話なのですが、
ここで書くには長すぎるので、またいつか。
そして代わりと言っては何ですが、
わたしの「紆余曲折」についての
展覧会を開くことになりましたので、
そのお知らせをさせてください。
「編みものけものみち」というタイトルです。
会場は福岡市の「三菱地所アルティアム」というギャラリーで、
会期は12月19日(土曜)から1月31日(日曜)まで。
わたしの生い立ちから今に至るまでを
たくさんのもの(ニット作品と私物)と
文章で展示するという試みです。
基本的にはカラフルできれいな展示になるはずですが、
担当キュレーターの山田さんが設定した
展示の裏テーマが「孤独と愚鈍」。
わたしが自分を語るときによく使う言葉です。
その孤独で愚鈍なわたしが、
自分なりのやり方で社会に出ていき、
やがて仲間を見つけ、人の役に立てるようにもなった。
その道のりを、緩やかに時系列に構成します。
準備はもう一年も前から始めていたのですが、
実際に会場を設営するのはまだこれから。
来週にはわたしも福岡に飛んで行き、設営作業に加わります。
もしよかったら、見にいらしてくださいね。
〔三菱アルティアムでは、感染予防・感染症拡大防止のため、
対策をおこなっています。こちらを確認のうえご来場ください。〕

わたしの長く愛用しているもの。

 
marikomikuniのClassic Cashmereのスナップで、
「長く愛用しているもの」を伺いました。
靴や帽子、椅子など……
手入れされたモノたちは綺麗な状態で、
それぞれにその人の物語が重ねられていました。
ふと、じぶんが長く愛用しているものを考えてみました。
昔は母がよんでいたオリーブを愛読する
おませな小学生だったのですが、
なぜか、強烈にパリジェンヌへのあこがれがありました。
とくに、オードリー・ヘップバーンへの思いは強く、
サブリナパンツ、黒のタートルネック、大げさなくらい大きなハット……
不釣り合いな子どものじぶんを悔しく思いながら、
彼女の特集雑誌を切り抜いてスクラップにしていました。
パリに行くことができたのは、大学生になってからでした。
それはそれは長い時間をかけて、思いを馳せた夢の国。
パリに行ったら、必ずほしいものがありました。
それは、サブリナシューズです。
『麗しのサブリナ』という映画で、オードリーが
サブリナパンツに合わせて履いていたフラットシューズ。
日本でも探せば手に入るのですが、どうしてもパリでほしかった。
つま先はラウンドで、くりが浅く、エレガントな靴を探し、
いろんな靴屋さんをのぞきました。
しかし、いくつか気に入った靴を試着してわかったことは、
わたしの足の骨格は幅広で、ヨーロッパの靴は
きつくてほとんど履けないということ。
とても、ショックでした。
すがる思いでたどり着いたのが、
パリジェンヌの聖地「レペット」です。
何足も試着し、ぴったりの靴が一足だけありました。
それはレースアップのダンスシューズ。
ジャズダンスを練習する用の、
ソフトな皮の軽い靴です。
サブリナシューズのそれとは全く違うものでしたが、
踊りたくなるほど軽く、馴染みのいい靴をすぐに気に入りました。
それから何年も履き続けました。
もともと外履きではないためボロボロに。
日本のお店で買い換えることも検討したのですが、
思い出込みで大事にしてきた靴をなかなか捨てられず
いまも大切に手元に置いてあります。

耳から本を聴く

 
最近ほぼ日のオフィスが移転して、
少し通勤時間が長くなりました。
引っ越しで心機一転、新鮮な気持ちになり、
これを機会に前から気になっていたオーディブルを
聴いてみることにしました。
オーディブルというのは、電子書籍の音声版で、
スマホなどで書籍の朗読を聴くことができるので、
ちょっと本を読みづらい通勤列車や、
お風呂や、ずーーっとメリヤス編みをするときなんかにも
読書をすることができるのです。
わたしが最初の一本目に選んだのは、
ミヒャエル・エンデの「モモ」です。
7〜8歳くらいのころに
映画で「モモ」を見たことはあるのですが、
どうにも本で読むのが大人になってもなかなか難しくて‥‥
でもいつか「モモ」の世界に触れるのが憧れだったのです。
折しもオーディブル版の「モモ」は
声優の高山みなみさん朗読バージョンが
リリースされたばかり。
高山みなみさんといえば、大人の女性に少女、
少年、青年、いろんな役を行ったりきたり、
変幻自在の存在感で、子供の頃から大好きでした。
条件が揃いすぎて、いざはじまった
オーディブル生活。
ミヒャエル・エンデの細かい描写が
どこまでもしっかりと音声で表現されていて、
駅まで歩くちょっとした時間が
歓迎すべきうれしい時間になりました。
全体で12時間以上あるので、
まだまだ楽しめそうです。

セルリアンブルーの糸でカーディガン編みました!
アランの糸の編みやすさに
すずらん柄の指だし手袋のムック本も、送料無料キャンペーンで購入。
カーディガンに合わせて、手袋の玉編みを、
かぎ針で作ったせいで、毛糸が足りなくなりました。
左の親指だけ、カーディガンの残り糸で作りましたが、
はめるとき、左右がすぐにわかるから、これ!便利やんと、自画自賛です♪
(ユキ)

グレーにセルリアンブルーが映えますね!
冬の寒くて曇った日でも、
こんな明るい色をまとっていたら元気になれそうです。

 

すてきなカーディガンですねー、

ユキさんの玉編み愛が伝わってきました。
自画自賛は物作りの基本。
楽しく編んで、着ている姿がいいんです。

 

“わたしのニット風景”を、募集します。
大人数があつまる編み会がかなわない今年ではありますが、
ほぼ日の中で編みものの進み具合やできばえを
みんなでたのしみあえたら、と思います。
完成した作品のコーディネート、お供のお菓子やお茶など
写真とひとこと添えて送付ください。

送り先→postman@1101.com 件名→わたしのニット風景

三國さんのコラムにもありました、「編みものけもの道」という展示が開催されます。場所は、福岡県の三菱アルティアムです。ニット作品だけでなく、三國さんを形成してきた本なども並びますよ。

2020-12-09-WED

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