こんにちは、ほぼ日の奥野です。
昭和の東京喜劇で大爆笑を取り続けた俳優・
三木のり平さんを知る旅に出ます。
数多くの喜劇役者や舞台人に影響を与えた
「三木のり平さん」については、
世代的に「桃屋のCM」しか知りません。
もちろん、それだって大名作なのですが、
のり平さんが役者人生を賭けた
「生の舞台」については、
現在から遡って見ることは、むずかしい。
そこで、生前ののり平さんを知る人や、
のり平さんをリスペクトしている人たちに、
「のり平さんって、
いったい、どんな人だったんですか?」
と聞いてまわることにしたのです。
のり平さんの孫・田沼遊歩さんも一緒です。
第1弾は、高田文夫先生です。
のんびりじっくり、お付き合いください。
第5回
のり一さんも不思議な人で
- 高田
- いま、そこに置いてある文庫の
(『笑うふたり―語る名人、聞く達人』)
のもとになった単行本で、
晩年、対談をさせてもらったんだよね。 - のり平先生と。
- ──
- ええ。
- 高田
- そしたら、最後の1年くらい、
その本を枕元に置いて寝ていたんだって。
のり一に聞いた。 - 「高田くんもいい仕事をしたね」なんて
本人にも言われてね。
- ──
- うれしいですね! 大切にされてたんだ。
- 高田
- あんまり活字を残さない人だったからね。
- で、のり一も本当にいい仕事をしたんだ。
『何はなくとも三木のり平』って本、
あれ、素晴らしいよな。
ちゃんと残してくれた。
のり一の、最後の大仕事だったと思うよ。
- 遊歩
- 本ができたらすぐ死んじゃいましたから。
- 高田
- そうそう。俺もそう思った。
あいつ、ふだんは冗談しか言わないんだ。
久しぶりに会って話してもぜんぶバカ話。 - ところが、たった一度だけ、
真顔で俺のとこに来たことがあって。
「高田さんに、お願いがあるんだ」って。
「おいおい、おまえ何を気取ってんだよ」
なんて聞いたら、
「ぼくもそろそろ、
お父さんの本を書いておこうと思うんだ」
なんてまじめに言いやがって。
- 遊歩
- そうなんですか。
- 高田
- 戸田(学)さんがまとめてくれるそうだし、
「いい本ができる」って。
「高田さんなら、父もよろこぶと思うので、
帯を書いてくれませんか」
って真顔で頼んでくるから書いたんだよ。 - 長い付き合いだけど、あのときだけだね。
あんな神妙な顔して相談に来たのは。
のり一も照れ屋だからさ。
そしたら、あんな立派な本ができちゃって。
- ──
- 引用されている資料の質量がすごいですし、
めちゃくちゃ読みごたえがあります。
- 高田
- ちょっとすごいよな、あの本は。
- いろんなことにちゃんと調べがついていて、
間違いがないもの。
- 遊歩
- 戸田さんも、
編集にご苦労なさったみたいです(笑)。
- 高田
- でもさ、あの人はマメだもんね。
上岡龍太郎の本なんかも、すごくいいしね。
- ──
- できあがるのに、
実際、何年くらいかかってるんですか。
- 遊歩
- 3年以上かかってます。
- のり一はけっこうこだわる人なので、
「あれも入れたい、これも入れたい」って、
どんどん壮大になっちゃったんです。
- 高田
- 凝り性だからな。
- 遊歩
- そうなんですよ。
- 高田
- 俺はね、やっぱりのり一も好きなんだよ。
俳句の会も一緒だったけど、
不思議な句をつくってたよ。
とんちんかんで、おもしろいやつだった。
- 遊歩
- 駄句駄句会ですね。山藤章二さんの。
- 高田
- 不思議な男だった、のり一は。
俺にだって、手に負えなかったんだから。
- 遊歩
- あ、そうですか(笑)。
- 高田
- 変わり者なんだな。頭がおかしいんだよ。
- 俺にはじつにおもしろいやつなんだけど、
そのおもしろさが、
一般大衆にはぜんぜん伝わらないんだよ。
俺くらいマニアックじゃないと、
あのおかしさを拾ってあげられないんだ。
だから、
コメディアンとして通用するかというと、
また別の話。不思議なんだよ。
- ──
- 高田先生は、のり平さんのことを
すごく怖い人だと思っていたと言いますが、
この本を読むと、
ものすごく仲良くされてるじゃないですか。 - あこがれの人に臆せずツッコんでいくし、
まわりがヒヤヒヤしてたんじゃないですか。
- 高田
- 俺、フトコロに入るのが上手いんだよ。
「年寄りころがし」って言われてるけどさ、
永六輔だろうが、立川談志だろうが、
みーんなコロコロいっちゃう。
すーっと入っちゃうんだよ、好きだからね。 - 偉い先生を前にすると、
みんな怯えて、おどおどしちゃうじゃない。
それが嫌なんだよ、
のり平さんも談志師匠も。
俺なんか「え、どうですか、師匠」なんて、
ふつうだから。
- ──
- いい意味で、遠慮なく。
- 高田
- だから、のり一にも、よく言われてたんだ。
- 「高田さん、本当にありがとうね。
うちのお父さんとよく遊んでくれて」って。
のり平さんも、
「高田くんが遊んでくれるから、大丈夫だ」
って言ってたらしいし。
- ──
- 必殺の転がしテクニックで(笑)。
- 高田
- そうそう。それを聞いて、うれしかったね。
- 息子ののり一が、
怖くて口もきけないってって言うんだから、
ましてや演劇の連中にしてみれば、
のり平さんは、神さまだったわけだからさ。
- ──
- こういう本を読むと、
高田先生がいろんな現場にいらっしゃって、
重要な瞬間瞬間に
立ち会っていることがわかりますね。
- 高田
- 俺はおっちょこちょいだから、
現場にいないとダメなんだよ。 - 机の書物の上で勉強をするのが嫌いだから、
現場で見て聞いて人と絡んで、
それでしゃべったり書いたりしないとダメ。
資料だけ読んでやるのは好きじゃない。
セリフにしても空気感にしても、
自分で体感してきたものを出してるんだよ。
- ──
- 高田先生の体験されてきた
日本の演芸史のおもしろいエピソードって、
本やブログにも書かれてますけど、
きっとすべては書き切れていないですよね。
- 高田
- ぜんぜん。
- ──
- もったいないですねえ。
- 高田
- もったいないんだよ、そうなんだ。
- ──
- それこそ、活字に残したいですね。
- 高田
- そうだね。
- ちょっと前に、この本を出したんだけど
(『月刊Takada芸能笑学部』)‥‥。
- 遊歩
- 最高でした。
- 高田
- これの続編、また出そうと思ってるんだ。
- 山ほどあったからね。
いろんなおもしろいことがさ、いままで。
(つづきます)
撮影:福冨ちはる
2025-06-14-SAT
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何はなくとも三木のり平
俳優‥‥といってしまうだけでは到底、
その多才ぶりを表現できない
故・小林のり一さんが、
実の父であり、
戦後東京喜劇の大スターでもあった
「三木のり平」について、
膨大な資料や証言を
縦横無尽に駆使してつくりあげた、
三木のり平さん本の決定版にして
金字塔ともいうべき作品。
作家・映画評論家の戸田学さんによる
丁寧な編集の手さばきによって、
実父に関する博覧強記と深い思いとが、
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