前回の連載のなかで、
「ご実家などに眠っている
ファンシーなグッズはありませんか?」
と、呼びかけたところ、
メールやツイッターで
たくさんの投稿をいただきました。
どうもありがとうございます!
なんとメロさん、ほぼ全ての方の
投稿写真を鑑定してくださったんです。
ぱっと見ただけで、「あ、これはですね~」と
あらゆる方向に話が進んだ鑑定の様子を、
そのまま、こってりとお伝えします。
レアで貴重な「ファンシー絵みやげ」の数々、
その当時の時事ネタもおたのしみください。
担当はほぼ日のフジタです。

>山下メロさんのプロフィール

山下メロ(やましためろ)

ファンシー絵みやげ研究家。
1980年代・90年代の庶民風俗を研究。
特に観光地のファンシーイラストが描かれた
お土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を
収集・研究しており、
各種メディアで保護を訴えている。
所有するファンシー絵みやげは17000種を超える。

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第3回 いまも現役。

ーー
みなさんからの投稿を見て、
本当にたくさんの種類のファンシー絵みやげが
あるなあと感じます。
次は、ミントンさんから、
今も現役で使っているという湯呑みです。

祖父母が広島に行ったときのお土産です。
多分20年近くはこれでお茶を飲み続けています。
欠けたりヒビも入ってなく未だに現役です!
(ミントン)

メロ
これは宗教ファンシーですね。
ーー
宗教ファンシー?
メロ
神社仏閣、教会などにまつわるファンシーなものを
私が勝手に宗教ファンシーと呼んでます。
宮島といえば厳島神社ですから、
その神社の神主さんと巫女さんを使っているんですね。
宮島には鹿がいますが、さきほどの奈良の鹿以外では、
あまりモチーフにならないんです。
鹿は顔を大きく描くデフォルメや、
直立歩行させる擬人化がしづらい。
ファンシーにしづらいのです。
ーー
鹿はファンシーにしづらい。
メロ
はい。なので、宮島といえば、
厳島神社を復興させた平清盛をイラストに使う
ケースが多いんです。
そのため、これはめずらしい。
他の神社を見ても、神主さんと巫女さんを単独で
モチーフに使うことは少ないです。
さらにめずらしいのは、この髪の処理ですね。
ーー
はい。髪、これは‥‥。
メロ
髪がチリチリで、あんまり巫女さんっぽくない。
どうしたんでしょうか。
クレヨンみたいなタッチで、
なかなかめずらしくていいですね。
陶磁器のプリントって、階調でのグラデーションを
かけられないので、
微妙なニュアンスを出しづらいんですが、
このイラストはうまく出していると思います。
今も現役で使っている、というのが
何よりいいなと思います。

自分の修学旅行で買った
部屋のドアにかけておくヤツ(正式名称不明)です。
いつの日からか、ずっと外出中のままとなってます。
(ミントン)

メロ
やっぱり呼び方がわからないという
問題が出ていますね。
これ、「ドアプレート」と仮に呼びましょうか。
「勉強中」とか「外出中」という、
現在のステータスを表すものです。
ーー
懐かしい。
「立入禁止」とかもありましたね。
メロ
文字は「NIKKO」とあります。
日光で買ったんでしょうけど、
普通は「3猿」のところ2匹しかいないし、
見ざるでも言わざるでも聞かざるでもない、
何もしていない猿ですね。
日光猿軍団寄りのイラスト、という感じでしょうか。

我が家の小さいきつねのぬいぐるみです。
今、59歳の主人が20代のころに
もらったお土産だそうです。
自家用車にずっと乗せていて、
子供たちが生まれた時から大学生となった今も、
車に乗ると「こんこん」と呼んで遊んでいます。
(みき)

メロ
これ、かわいいですね。
ただファンシー絵みやげかというと難しくて、
ファンシー絵みやげは平面の絵が基本なので、
これは、ぬいぐるみメーカーが作っている
キャラクターですね。
でも、これも観光地の土産店にも流通していますよ。
当時、車に小さいぬいぐるみをぶら下げたり、
キツネの尻尾みたいな毛のものを掛けたりするのが
流行りました。
UFOキャッチャーが流行った時期は、
ダッシュボードにひたすらUFOキャッチャーの
ぬいぐるみを並べたり。
これが車に乗っている光景は、いいな。
ーー
気になったのは、
「59歳の主人が20代の頃にもらった」
と書いてあって。
20代の男性にこういうかわいいものをあげるような
時代だったわけですね。
メロ
そうですね。
みんながかわいいものが好きだった時代。
愛があります。次いきます。

鬼怒川のロゴとみどりの色合いとチープさが、
当時を醸しだしているなぁと(笑)。
万年カレンダーである=実用的
なところが私にとって大事。
したがいまして、令和になっても現役。
でも、月によってはバランスが悪くなり、
傾くのもこの当時のお土産らしさだ、と思うのです。
ひるぜんの壁掛けも、実用的。
いちばん下のフックは、鍵をぶら下げるに重宝。
だけど、バランスを考えてぶら下げないと、
これも傾くのです。
(ぽぽちゃん)

メロ
「月によってはバランスが悪いので傾く」
というのが、なんともいいですね。
鬼怒川温泉のほうは、
ファンシー絵みやげより、少し前のものですね。
メルヘンで牧歌的なカントリー調の木工品。
この頃は手芸ブームで人形を作るのが流行っていました。
こういう文化が、後のファンシー絵みやげにつながるので
重要なんです。

(ぽぽちゃん)

メロ
この「ひるぜん高原」のものは
まさにファンシー絵みやげですね。
下は超リアルなウシで、右上は2頭身のかわいいウシ、
という違う世界観が一緒になってて、
めちゃくちゃで、いいなあ(笑)。
左には字が書いてあって、これお面ですかね、
ひるぜん(蒜山)の伝統的な民芸品が描いてあると。
こういう実用的な、状差しと呼ばれるタペストリー、
よく玄関先とか電話台の上とかに掛けて、
ハガキとか領収書とかを分けて入れてましたね。
これは今もこのフォーマットで売っています。
ただ、ファンシー絵みやげのブームが去った今は、
全部がリアルな絵となっているものが多いです。

木製のクリップです。ラッコブームの頃、
下田の水族館で買ったような気がします。
何となく捨てられず、現在も会社の机の上に飾っていたら、
同世代の同僚の机で同じ物を発見してお互いにびっくり。
同じく、何となく捨てられて無かったそうで、
数多のオフィス引っ越し、
席替えを乗り越えて来た強者です。
同僚は既に退社し、並べて撮影できず残念。
(ねむねむ)

メロ
下田はラッコがいましたね。
「現在も会社の机の上に飾って‥‥」
え、同じものを?
社員旅行で買った、とかじゃなくて?
ーー
でもラッコブームの頃、と書いていますよ。
昔に買われたのでは。
メロ
いやだって、同じものが同僚の机から見つかるって‥‥。
「同僚はすでに退社して、並べて撮影できず残念」。
いますぐ同僚を探してほしいです(笑)。
ファンシー絵みやげって、
当時、何万種類とあって、下田の水族館だけでも、
おそらく100種類とか作っていたわけです。
それが1年で売り切れたりするんです。
たとえ同世代だからって、
たまたま同じ絵の同じクリップを持つ2人が同じ会社にいた、
そんな天文学的な話あるわけないじゃないですか。
ちょっとこれ、疑惑ですよ。

ーー
疑惑。
メロ
そうです。
この人がおいくつなのかわからないですけど、
可能性として考えられるのは、
たとえば昔、会社の誰かが買ってきて、
みんなに同じものを配った、ということならわかります。
こういう小さいクリップって、
3つくっついて売っていたりするんですよ。
紙に3つ挟んで。それを分けたとかも考えられます。
そうじゃなく、おふたりが偶然、
それぞれ同じものを買っていた、とすると事件です。
ちょっとこれは追加調査が必要です。
それが事実だとしたら、あり得ないというか、
「うわーっ」となってしまいます。運命の相手ぐらいの。
ーー
運命の相手。
メロ
裏に地名があるかも知りたいですね。
当時のラッコブームはすごくて、
どこの水族館もラッコを展示したくて。
三津シーパラダイスが最初だった気がします。
もう1つは三重県の鳥羽水族館。
鳥羽だけじゃなく伊勢志摩でも売られまくって、
ラッコを展示しているところの周辺では、
やたらとラッコが使われていたんですよ。
あと小樽水族館もラッコです。
同じ絵の流用もあったでしょうから、
同僚は下田じゃなく、
小樽でこれを買ったとかもあり得る。
それも含めて知りたいですね。
ーー
続報を待ちたいと思います。
次、いきましょう。

宝探しのような心持ちでワクワクと探しました。
写真を1枚、添付いたします。左上は、「北きつね」(HOKKAIDO)
右上は『B&B club』と描いてあります。
下は『イラストポエム集 旅するとき 那須高原』
発行(株)風光社/企画 アトリエふうらい房/
イラスト&ポエム 大門多美
(こもも)

メロ
こももさん、細かく情報も書いてくださって
ありがとうございます。
左上の北きつねは、純然たる
ファンシー絵みやげじゃないんですけど、
アイヌの木彫りを生かしたおみやげで、
これも大ブームだったんです。
今でもたくさん商品がありますね。
右の「B&Bクラブ」じゃなくて「R&B」で、
「ラビット・アンド・ベア」の略ですね。
おそらくミルクを運んでいるクマバージョンと、
人参を持っているウサギバージョンがあった。
もしくは反対側にウサギがいて、取れたかもしれない。
これは完全にファンシー絵みやげですね。
下の那須高原、これはいわゆる
ファンシーな女子向けのしおりセットですね。
この作者の大門多美先生と私は運命的な出会いをしています。
ーー
え! メロさん、お会いしたんですか。
メロ
江の島で保護活動をしていたら、
これが売っていたんです。
確か去年閉店しちゃった江の島のお店でした。
店内で「あるな」と思いながら見ていたら、少し遠くから、
「あ、これ私のお母さんが描いたやつだ」
という声が聞こえてきたんです。
「えっ?」と思って、
その方に話しかけたら、
大門多美先生の娘さんだったんです。
ーー
すごい偶然ですね。
メロ
もうテンションがあがってしまって、
「私、大門先生の『旅するとき』シリーズを
何個も持っています!」と言ってお伝えして。
さらに、それだけで話が終わらなくて、
その後、偶然が重なって、
最終的には大門先生ご本人とお会いする、
ということがありました。

とりあえず探してみました。で、すぐに見つかったものを。
ウサギのは猪苗代と妙高のスキー場のもの。
左下のはファンシーブームで作ったと思われる
ペンションのオリジナルグッズです。
当時、軽井沢に行った時に皆でお揃いの
Tシャツやタンクトップを買いましたが、
それも確かキツネかウサギだったと思います。
お土産屋さんにもありましたが、
このグッズの専門店もありました。
もー30年以上前ですね
(ダンデライオン)

メロ
妙高赤倉は、新潟と長野の県境ぐらいにありますね。
私は妙高高原の「夢冒険」という
ペンションに泊まりました。
その理由も、のりピーの曲と
同じタイトルだから泊まろうと。
ーー
さすがです。
メロ
妙高高原のすぐ北側に
赤倉温泉というのがありまして、
スキーで遊んで温泉に泊まれるエリアですね。
ちなみに赤倉温泉は山形にもありますが、
「妙高」が書いてあれば、これは新潟の赤倉とわかります。
猪苗代スキー場のものも
同じスキーラビットのモチーフですね。
左下のはペンションのオリジナルグッズです。
「ペンションマンボウ」。
プリントした布を切って巾着に縫い付けている。
これは、ロゴも入ってますし、
このペンションでしか売れないものですね。
ーー
そうですね。
これも、つまりレアということですね。
メロ
レアですね。
その場所でしか売れないわけですから、
この絵はペンションを建てるときに
作ったイラストなんでしょうかね。
ペンションはホテルみたいに
1日に何百人と泊まるわけじゃありませんから。
だから私も、特定の施設とか観光地のもので、
ペンションのものは特に重要視しています。
作られている数が少なかったり、
そこでしか買えなかったり、
売店があっても入れ替わっちゃうので、
今現地に行って見つかることもなかなかないわけです。
レアです。大事にしてほしいです。

妹と実家にお土産のキーホルダーが
たくさんはいった四角いお菓子の缶があったよね、
と盛り上がりました.
帰省中に探したところ、缶はありませんでしたが
写真立てとタオルがありました。
タオルは現役で、洗濯物として干されていました。
(ねね)

ーー
今度は「いけいけ新選組」です。
メロ
イケイケギャルが流行った時期ですから。
「缶はありませんでしたが」。
ええっ。捨てられちゃったんですかね、残念。
タオル、かわいいですね。
ーー
少し色あせているところも、現役感があります。
メロ
しかもこの新選組、
「誠」って入れちゃえばいいですからね、
新選組は。
ーー
「誠」と入れれば新選組。
メロ
こういう新選組のキャラクターの
良いところは、誰でもないことなんですよ。
ーー
「誰でもない」。
つまりモデルが特定できない。
メロ
そうです。
大体が個人名は書いてない。
だからご子孫の方々が
「うちのご先祖様を何してくれる」と言っても、
具体的に新選組の誰とも書いてない。
さっきのようにモーターバイクに乗っていても、
「いや、バイク乗ってねえし、勝手に歴史を曲げるな」
と怒られることも少ない。
そういう意味で、こういう子ども向けの商品が
作られやすかったんでしょうね。

(ねね)

メロ
和歌山県、南紀白浜の写真立て。
「ハッピー・ズー」とあります。
南紀白浜で「ハッピー・ズー」なので、
「動物園」というくくりで考えると、
これは南紀白浜の
「アドベンチャーワールド」でしょうね。
フォトスタンドに紙が1枚入っていて、
キツネ、ウサギ、クマがいます。
普通は動物園のアイドルといえば
キリンとかゾウ、ライオンです。
しかも「アドベンチャーワールド」
はパンダが有名です。
つまり、これは、
自然がいっぱいある観光地用のお土産で、
「ハッピー・ズー」と
後から貼り付けているだけな気がします。
そういう、雑さとゆるさがありますね。
ーー
そうですね。じわじわくるゆるさです。
そしてこれは、前回の連載でも話にのぼった
「ナキギツネ」でしょうか。

連載を興味深くよみました。
そして!なんと!初代と思われる、
このキーホルダーがありました。忘れていたのですが、
1985年(わたくし、14歳)、
札幌の陸上全国大会で購入したか、もらったか
したもののようです。比べてみると、
尻尾のようすがちがうので、
本物ではない可能性もありますが‥‥。
ぜひ、鑑定をお願いいたします。
(satoko)

メロ
本物、という概念とはちょっと違うんですが、
確かに「ナキギツネ」のキャラクターって、
上に尻尾が立っているんです。
ーー
前回見せていただいたのも、そうでしたね。
メロ
だからこれは、それを
真似して描いたものかもしれませんね。
それ以上に重要なのがまず1985(年)、
「ジュニア・ハイスクール・ミーティング」
と書いてあるんですよ。
シールでも何でもなく、プリントしてある。
普通は北海道全域で売れるものには
「北海道」とだけ印刷して、北海道全体に卸します。
しかしこれはあくまで中学校の陸上大会の限定品。
ーー
そうですね、かなり限定的なアイテムです。
メロ
こういうのはトロフィーとかを作る会社が
キーホルダーも同時に作っていたりしたんですよ。
トロフィーとかメダルも金属加工をするので。
「子ども向けの参加賞、何かないかな」
「キーホルダーがいいんじゃない」
「北海道に来た記念になるように、
北海道のキャラをのせよう」
「最近こういうのが流行っていて、
観光地に卸しているから‥‥」
きっと、こういう経緯なのかもしれません。
ーー
やりとりが浮かんできました。
メロ
ただとにかく、この文字が入っている
というのがすごいです。
だって観光地をいくら探しても
こんなの出てこないわけですから。
もちろん問屋さんとか工場では
余りがあったりするかもしれないですけど、
なかなか見つかりません。
ちなみに同じように北海道の旭川で
高校生の大会向けに作った、のれんみたいな、
観光地みやげの体をとった商品を見たことがありました。
でも、イラストが若干ファンシー絵みやげとは違ってまして、
こちらは、よりそのままファンシー絵みやげの
「ナキギツネ」のキャラなので、貴重です。
レアだし、資料性が高い。
でもこれは思い出の品なわけですよね。
陸上大会に参加した思い出の品なんですよね。
おいそれと「欲しい」とは言えないですけど‥‥。
ーー
メロさん、ものすごく
欲しがっているじゃないですか(笑)。

(つづきます)

2020-04-02-THU

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