突然ですが、上のタイトルまわりの画像、
懐かしくないですか?
馴染みがない、という世代の方も、
ご家族が持っていませんでしたか?
1980~90年代に日本中の観光地で売られていた、
これらのファンシーな絵が施されたグッズに
「ファンシー絵みやげ」という名前をつけ、
全国で「保護」活動をしている
山下メロさんという方がいます。
ある日、メロさんが書いた1冊の本が
ほぼ日に届いたことをきっかけに、
社内でちょっとしたブームがおきました。
メロさんは、なぜ、こんな活動をしているんだろう。
ファンシーな世界が大好きな
ほぼ日・フジタが話をうかがってきました。

>山下メロさんのプロフィール

山下メロ(やましためろ)

ファンシー絵みやげ研究家。
1980年代・90年代の庶民風俗を研究。
特に観光地のファンシーイラストが描かれた
お土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を
収集・研究しており、
各種メディアで保護を訴えている。
所有するファンシー絵みやげは17000種を超える。

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第1回 気づいた人の責任。

(まずは、メロさんの研究室近くにある
飲食店でお会いしました)

ーー
はじめまして。
今日はよろしくおねがいします。

▲山下メロさん。飲んでいるのはメロンソーダ。
雰囲気とぴったりです。 ▲山下メロさん。飲んでいるのはメロンソーダ。 雰囲気とぴったりです。

メロ
こちらこそ、よろしくおねがいします。
ーー
『ファンシー絵みやげ大百科』を拝読して、
いつかお会いしたい、と思っていました。
本を私のデスクの上に置いていたら、
通りがかる同僚たちが、次々に、
「え、何これ。‥‥懐かしい」と言って、
中をパラパラとめくりはじめ、
しばらく見入っているんです。
それだけみんなの心にぐっとくるものがあるんだな、と。
メロ
ほぼ日さんの『ただいま製作中』にも
載せていただいて。
ありがとうございます。
ーー
メロさんは、全国の土産店の片隅に
ひっそりと残っている、
懐かしくファンシーなグッズを集めて
「保護」しているそうで。
なぜ、こういう活動をはじめたんですか?
メロ
簡単に説明すると、
私は小学生のころ、ファンシーなキーホルダーや
文房具をすごくたくさん持っていたんです。
観光地に行くとそういうものしか売っていないし、
自分でも買うし、友達からもおみやげにもらうし。
それから、ジャンルはちょっと違いますが、
サンリオグッズも好きでした。
「けろけろけろっぴ」とか「みんなのたあ坊」のような、
女子だけでなく、男子が持っても許されるものが
ありましたから。
ーー
「けろっぴ」や「たあ坊」、わかります。
持っている男子、多かったです。
メロ
そういうファンシーグッズを
喜んで使っていた小学校高学年のころ、
女子の中で、突然、英語のロゴしか入っていない
「パーソンズ」の布のペンケースを
使いはじめる子が出てきたんです。
みんながファンシーな缶ペンを持って
キャピキャピしていたところに、
その子は、突然、「パーソンズ」の
ペンケースをかばんから出した。
それだけでなく、
「無印良品」のアルミの定規まで出して、
使いはじめたんです。
ーー
「パーソンズ」!
私が通っていた小学校でも同じ現象がありました。
メロ
あ、同世代ですか。
それは話が早いです(笑)。
それで、みんな一気にキャラクターの缶ペンが
恥ずかしくなったんです。
私も、恥ずかしくなりました。
ーー
その感覚、覚えてます。
革命のようなできごとでした。
「パーソンズ」は、大人びて、かっこよく見えました。
メロ
ですよね。
まあ、そういう恥ずかしさがあって、
缶ペンを捨てると同時に、
家にたくさんあったファンシーグッズも
全部捨てました。

ーー
全部、捨てた。
メロ
はい。捨てたあと、
なぜか、ずーっと忘れていました。
同時に、修学旅行先の定番である京都でも、
ファンシーな絵が描かれたグッズが
徐々に影を潜めはじめます。
一方でパロディグッズが全盛を極めていきました。
サザエさんとバカボンのパパを
無断で合体させた「サザエボン」とか、
清涼飲料水「なっちゃん」のパロディの
「おっちゃん」とか、「アムロ波平」とか。
京都と関係ないものが大量に売られはじめ、
おみやげコーナーが変わっていったんです。
ーー
ああ、はい。
おっしゃっている現象、わかります。
メロ
自分が捨て、観光地からも消え、
私はその存在を完全に忘れていました。
そして約20年後の2010年に、突然再会したんです。
フリーマーケットで、あるキーホルダーを見つけて、
「懐かしい。こういうファンシーなキーホルダー、
昔、ものすごく好きだったな」
そう思って、買って帰りました。

これがそのときの、突然「再会」したキーホルダー。 これがそのときの、突然「再会」したキーホルダー。

メロ
そのとき、同時に
「そういえば、なぜ忘れていたんだろう」と思いました。
ちなみに私は20歳ごろから10年間ほど、
80年代のタレントグッズが好きで集めていたんです。
『1980年大百科』などの
80年代のカルチャーの本もよく読んでいました。
そういう80年代を追いかけていた10年間にも、
過去にたくさん持っていた
ファンシーなお土産のことは
一度も思い出さなかった。
なんでだろう、と考えていて、わかったんです。
つまり、これらのグッズが、
一切言及されていなかったんだと。
ーー
誰も話題にしていなかった。
メロ
はい。
そしてこのキーホルダーを見つけた2010年は、
きゃりーぱみゅぱみゅさんがブレイクしたり、
クリィミーマミがアパレルとコラボしたりと、
80年代ファンシーがリバイバルされつつあって、
こういうグッズを集めたら、
当時の若い世代に受けるかな、と思いました。
とはいえ、さすがに誰かが先に集めているはずだと思い、
ネットで調べようとしたんですけど、
検索ワードがわからなかった。
検索窓の前で「この名前は何なんだ」と。
「サンリオ風」とか「かわいいおみやげ」とか
いろんなワードで検索したんですけど、
どうも出てこない。
それで、怖くなりました。
ーー
怖くなった?
メロ
あれほど長く世間に存在し、
受け入れられた時代があったのに、
今、こんなにネットで言及されていないものがあるのかと。
歴史の中に確かに存在したものが忘れ去られている。
そのことに怖くなって、
これは誰かがちゃんとやらないとまずい、
この文化を残さないといけない、
そう思って自分が集めることにしました。
ーー
どうやって集めはじめたんですか?
メロ
最初はフリーマーケットです。
週末ごとに行って、10円なら買う、
100円、200円なら高いから買わない、
という気軽なノリで集めはじめました。
当時、コレクターの先輩からは、
「早く言え、こういうのを集めている、って
宣言した者勝ちなんだから、早く言え」
と言われ続けていました。
私としては、まだ全体像も見えない状況で発表して
お金の力で全国を回る人が現れたら、
すぐ抜かれちゃうかも、と思って、
内緒にしていたんです。
その人がちゃんと文化を残す形で動いてくれるなら
安心なのですが、それもわからないので。
ーー
なるほど。
メロ
でも2014年に『ファンシーメイト』という本が出て、
そこでコレクションについて書くことになり、
結局は公表しました。
そのとき、そもそもの問題だった
これらのグッズを総称する
名前をつけようということになって、
「ファンシー絵みやげ」という名前をつけました。
ファンシーショップで売られていたような商品群に
平面イラストのキャラクター(絵)をプリントした
観光地みやげ、という分類です。
公表した以上、
これはライバルが増えるに違いないと思って、
それまでは観光地にも行かず
近場で気軽に集めていたんですけど、
そこから日本中を回るようになって、
一気にコレクションが増えました。
ーー
今、何個くらい集まったんですか?
メロ
2014年の段階では
500個くらいしか持っていませんでした。
そこから全国を回りはじめ、
5年経って一気に1万7000種類になりました。
ーー
1万7000種類!
メロ
でも、誰か追いかけてくるだろうなと思ったら、
誰も後ろを追いかけてこなかった。
ライバル出現せず。

ーー
誰も真似しなかった。
メロ
公表するまで、ずっと孤独に集め続けてきました。
集めているうちに、
1つ1つに当時の若者文化が反映されていたり、
当時の最新技術が用いられていたり、
あまりに民俗学的な資料として
価値が高いことに気づきました。
そこで集められる限り集めて、
体系化することにしました。
他にやりたい人がいるなら、
その人に譲ってもいいぐらいだったんですけど、
たぶんこんなに面倒くさいこと
誰もやってくれないだろうし、
これは気づいた人の責任だから、
ゴールまで持っていかないといけない。
私がやらなきゃいけないんだ、と思ったんです。

(つづきます)

2019-12-26-THU

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  • 年末年始ファンシー企画!

    山下メロさんが鑑定します。

    年末年始、大掃除したり帰省したりする方も
    いらっしゃるかと思います。
    ‥‥それはつまり!「ファンシー絵みやげ」を
    発掘する可能性があるということです。
    もしご自宅やご実家からそれらしきものを見つけた
    という方は、ぜひ写真に撮ってお送りください。
    お写真をメロさんが見て、ファンシー度や
    レア度などの観点から鑑定します。

    メロさんの心をぐっと掴んだ1名様には
    「山下メロ賞」としてメロさん所有の
    「ファンシー絵みやげ」を1つと
    「ほぼ日グッズつめあわせ」をプレゼント。
    発表は3月末までに「ほぼ日」上で、
    鑑定中の様子とともに記事にて
    掲載します。

    <応募期間>
    2019/12/26(木)から
    2020/1/20(月)23:59まで
    <送り先>
    postman@1101.com

    「ファンシー絵みやげ」の写真をメールに添付し、
    ハンドルネームを記入し、上記までお送りください。
    件名は「ファンシー絵みやげ」でお願いします。

    また、Twitterでの応募も可能です。
    ハッシュタグ #ファンシー鑑定
    をつけて上記期間までにツイートしてください。

    ※お送りいただいた全ての写真を鑑定できるわけではありません。予めご了承ください。
    ※「山下メロ賞」当選者には、こちらからご住所を伺うフォームをお送りいたします。
    ※いただいたお写真とハンドルネームは当企画にのみ使用いたします。

    =======

    <2020年4月追記>
    応募は終了しました。
    2020年3月31日より、こちらの
    山下メロさんのファンシー絵みやげ鑑定!
    で鑑定を行いました

  • ファンシー絵みやげ大百科/山下メロ著
    (イースト・プレス)

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