さあいよいよGWは「生活のたのしみ展」。
「ほぼ日」内の飯島奈美さんのウェブショップ
「SUPER LIFE MARKET」では、
いままでに展開してきた食品・グッズ・書籍に加え、
新製品がずらりとならびます。
すでに「生活のたのしみ展」サイトでも
お伝えしておりますが、
新製品のこと、もっと知っていただきたくて、
ここで、さらにくわしい情報をまとめました。
ここで紹介したアイテムの一部は、
後日ウェブショップにもならぶ予定です。
どうぞおたのしみに!

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[対談]沼田行雄(おだし香紡)×飯島奈美おいしいおだしができるまで。

飯島奈美さんの監修のもと、
「ほぼ日」オリジナルでつくった
出汁専門店「おだし香紡」の
2種類のだしパック。
飯島さんと「おだし香紡」の沼田行雄さんに
お話をうかがいました。

プロフィール

沼田行雄(ぬまた・ゆきお)

1983年、静岡生まれ。
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、
大手外資系IT企業で大企業向けのシステム構築に従事。
29歳で、慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ。
ケロッグ経営大学院への留学を経て、MBAを取得、
経営戦略コンサルタントを2年経験したのち、
都内の鰹節専門店で鰹節削りを学ぶ。
2017年「有限会社沼田」(1934年創業)に入社、
三代目となる父親・豊一郎さんのもと、
「日本の食文化を正しい知識とともに拡げること」を
企業理念にしている同社で、
食材の使い方などの正しい知識とともに
最上の製品を届けるべく“おだしコンシェルジュ”として
「だし」の普及につとめている。
幼稚園から英語、小学1年生からプログラミングを勉強、小学校の卒業文集には「将来はコンピューター関係の会社に勤めてから、父の仕事を継ぎたい」と書いた。

飯島
「おだしをつくりたい」と連絡をさせていただいてから、
あっという間にできあがったことにびっくりしました。
沼田
そうですね、2か月経たないくらいでしょうか。
飯島
すごいことですよね。
「ほぼ日」のみなさんから、
「おいしいおだしが欲しいんです」と相談をいただき、
そのお話の中で「おだし香紡」さんの名前があがりました。
わたしはちょうど、
「えそ」という珍しい魚を使ったおだしを探していて、
それを扱っている「おだし香紡」を知ったんです。
完全無添加、食塩も使っていない、ということで、
気になって使ってみたら、とてもおいしかった。
そんな経緯でご連絡を差し上げたら、
沼田さんが快く引き受けてくださいました。
──
すぐにみんなで三島のお店に伺って、
その場で沼田さんの指揮のもと、
原材料の組み合わせを変えて、たくさん試飲をして、
配合を決めたんですよね。
飯島
『LIFE』というレシピ本をつくったときに、
レシピに掲載する調味料や塩分を決めるのに、
みんながいちばんおいしいと思う味を探して、
同じ料理を何種類も配合を変えて試食し、
勝ち抜き戦をしたことがあるんですが、
それを思い出しました。
沼田
勝ち抜き戦! まさしくそうでしたね(笑)。
──
ここで味の話にいく前に、
まずは沼田さんが何者なのかを
読者の皆さんにご紹介したいと思っています。
飯島
沼田さんは、おだしの先生ですね。
かなり分かりやすく教えてくださいました。
ビックリしました、
だしの元となるお魚の味の個性、
苦味とか、うま味とか、甘味とか、
すべてがデータベースそして実体験として
頭のなかに入っているんですよ。
だから「こう組み合わせるとこういう味になる」
という説明をどんどんしてくださって、
なおかつ産地の情報にもとっても詳しい。
改めて沼田さん、一体、何者なんですか?
沼田
(笑)何者なのかと問われると難しいですね。
うちは創業88年のだし屋なんですけど、
元々はかつお節屋から始まっていて、
ずっとBtoBがメインだったんです。
飯島
つまり、一般におだしの販売は
していなかったということですか?
沼田
はい、一切していませんでした。
旅館だったりお食事処に卸すのがメインで。
かつお節も真空パックの技術がない時代から
やっていたので、
毎日朝夕で削りたてを届けていたんです。
飯島
すごい!
沼田
そうすると、板前さんと仲良くなるんです。
「沼田は毎日何回も来る」ということで。
それで「じゃあ沼田のとこから昆布も仕入れよう」とか、
「煮干しも仕入れよう」という話になっていって、
取り扱いの品目がどんどん増えていき、
最終的に「だし系は沼田にお願いしよう」となりました。
そういうものがベースにあって、
2006年に私の母(みち代さん)が
「おだし香紡」を始めたんです。
飯島
お母様が。
沼田
BtoBのほうは父(豊一郎さん)がやっていたのですが、
小売は母が始めました。
ちょうどその頃、
一般家庭では、だしが顆粒に変わりつつあって、
日本伝統の「だし」という文化が
このままでは廃れてしまうんじゃないかと考えた母が、
自分たちで何かできないか、ということで
だしの小売店を始めたんですよ。
──
それが「おだし香紡」。
沼田
はい。そこに私は4年前から参加しています。
飯島
ただ、それにしても
沼田さんのデータベースは膨大です。
どんな経験をしてこられたんですか?
沼田
僕は「おだし香紡」に入る前に
老舗の鰹節専門店で
修行をさせてもらい、かつお節を学びました。
それと並行して、これは今も続けていることですが、
築地‥‥いまは豊洲ですね、でヒアリングをしたり、
日本全国、例えば昆布の産地や
かつお節の産地に行ったりして、
実際に製造者の方とお話しをする中で
知識を増やしています。
飯島
ああ、すごいです。
沼田
僕は、日本で一番だしに詳しい人に
なりたいと思っていますので。
飯島
わあ! なってください!
でも、だから1日だけおじゃました私たちでも、
ちゃんとだしを完成させられたんですね。
やっぱり先生ですよ。
──
最初、飯島さんは「えそ」に興味があった。
けれどもそれがとても稀少なものだとわかり、
まずはごくごく定番のものを
作らせていただきたいというところで、
「かつお節」と「煮干し」をメインにした2種類に
なったんですよね。
飯島
私は基本的におだしは
かつお節と昆布でとっているんです。
でも全国いろんな土地に行くと、
それぞれのおだしの味があって、
「あぁこれもいいな」ってなるんですよね。
なので今回は、
かつお節と昆布だけだともったいないと思って、
せっかくなら煮干のだしもつくりたいと。
料理によって使いわけられるし、
気分によってもね、
「今日はちょっと華やかなかつお節のだしで
味噌汁をつくりたいな」とか、
「しみじみおいしい煮干しでつくりたいな」とか。

まずは「かつおのおだし」。

──
「かつおのおだし」には
カツオ、ソウダガツオ、利尻昆布が使われています。
まず、どうしてこの組み合わせになったのかを。
沼田
日本のだしといえば「かつお節」というくらい、
カツオは代表する素材ですよね。
その特徴には、まず香りの高さがあります。
かつお節をつくるとき、
捕れた魚を3枚におろして、煮熟させて、
焙乾という燻製作業をするんですけど、
その過程で200以上の香り成分がつきます。
いや、実は科学的に確定しているのが200というだけで、
推定では香り成分が400以上と言われているんですよ。
飯島
400!
沼田
このいい香りは、
科学的に再現するのはなかなか難しいものだそうです。
さらにカツオには、
イノシン酸という、うま味成分がたっぷりと含まれています 。
ただ、うちの鰹節は
脂が少ないものを使っているので、
コク、という面ではちょっと少なめなのが特徴です。
飯島
かつお節は、どこの産地のものですか。
沼田
かつお節の名産地といわれている、
鹿児島県の枕崎のものと、静岡県の焼津のものです。
飯島
荒節(あらぶし)ですよね。
沼田
はい。カビ付けをしていないものです。
飯島
カビ付けしなくて、香りはそんなに増えるんですか。
沼田
はい、香りは大丈夫です。
ただ、さっきも申しました通り、
これだけだとコクが足りないので、
ソウダガツオ節をブレンドすることにしましたね。
──
ソウダガツオ(宗田鰹)。
沼田
ソウダガツオは高知県でとても有名なカツオで、
他のカツオと比べると、血合いの部分が多いんです。
血合いは、お刺身でいうと、
ちょっと赤黒い感じのところですね。
そこに味のクセがあるので、コクが生まれます。
さらに、ソウダガツオ自体が比較的脂の多い魚。
その脂もコクにつながるんですよ。
──
聞いていると、
ソウダガツオだけでも良さそうじゃないですか?
沼田
ただやっぱり香りの面でいうと、
カツオのほうがいいんですね。
なので、カツオとソウダのバランスは、
香りを重視するのか、
コクを重視するのかで変わってきます。
飯島
たしかにその配分は
工房での試飲でも、
相当細かく変えて、
どの配合がいちばんバランスがいいか、
選びましたよね。
今回は、カツオの華やかさを
ちょっと多めにしてもらいました。
──
そしてそこに昆布が入るわけですね。
沼田
今回合わせたのは「利尻昆布」という
北海道でとれる昆布……って言うと語弊があるかな。
昆布って95パーセントが北海道でとれるので(笑)。
利尻昆布は、利尻島だったり礼文島だったり、
北海道でも北のほうでとれる昆布です。
主張は少なく、でもうま味はしっかりある昆布で、
京都の千枚漬けにも使われています。
「主張は少ない」というのは、普段、千枚漬けを食べても、
昆布の香りや味をあまり感じないと思うんです。
でも野菜がとてもおいしいじゃないですか。
あれは昆布がうま味を補っているからなんです。
今回も同じで、
カツオの香りをしっかり味わっていただきたくて、
あえて、利尻昆布を使っています。
昆布のグルタミン酸は、カツオのイノシン酸と、
うま味の相乗効果を働かせるので、
舌にしっかりアピールしますよ。

コクが強めの「煮干のおだし」。

──
そしてもうひとつが、「煮干しだし」ですね。
飯島
こちらは
カタクチイワシの煮干し、
いわし節、真昆布で作りました。
飯島
「煮干し」というのは、
その名の通り、煮てから干したものですよね。
産地はどこのものですか。
沼田
カタクチイワシは
九州産のものを使いました。
主に長崎と熊本、いわゆる名産地のものです。
「煮干し」なのでガツンとした魚の香りがあります。
これもうま味成分はイノシン酸です。
ただ、煮干しの味にはちょっと苦味があるんですよね。
飯島
ああ、煮干しには特有の苦味がありますね。
沼田
内臓が含まれているまま粉にしているので、
どうしても苦味が入ってきてしまうんですよ。
ただ今回は、
「小羽(こば)から中小羽(ちゅうこば)」といわれるちっちゃいサイズ、
大体7センチぐらいのものを使っていて、
小さいぶん、内臓がそんなに発達していないので、
特有の苦味は少ないんです。
飯島
へえ!
沼田
それでも少しだけ苦味が気になってしまう、ということと、
このままでは脂の量が少なくてコクが足りないので、
そこを補うために、いわし節を使うことにしました。
飯島
「いわし節」っていうのは、
かつお節のいわし版ということですね。
これもカタクチイワシですか?
沼田
正確に言うとカタクチイワシとウルメイワシを
ブレンドしています。
カタクチイワシは大きさは12センチくらいのものを
使っているのですが、
大きくなっているぶん脂肪の量が増えて、
そのぶんコクも多いんです。
飯島
そこに昆布を入れるわけですね。
沼田
はい。「真昆布」を入れました。
飯島
うま味の相乗効果ですね。
──
真昆布は利尻昆布とはまた違うんですか?
沼田
はい。こちらは北海道の南のほう、
函館の近海でとれる昆布です。
利尻昆布、真昆布、羅臼昆布が
「三大だし昆布」と呼ばれていて、
とてもいい風味のだしがとれるのですが、
3つの中のちょうど中間にあると私が思うのが、
この真昆布です。
昆布としての香りもありつつ、
うま味もしっかりしている。
これが羅臼昆布になると、
単体で使えるくらい濃いだしが出るんですよ。
そうなるともう、イワシの良さも消してしまうほどで。
──
味の個性が強いんですね。
沼田
はい。
なのでここでは
利尻昆布よりは主張のある真昆布を合わせて、
煮干という強いだしの中でもちゃんと主張するように。
そういう選び方ですね。

おいしい料理を、家庭で、あたりまえのことに。

飯島
おいしいおだしができて、よかったです。
このおだしさえあれば、
家庭でパパッと作れる料理がたくさんあります。
そういえば「おだし香紡」さんのホームページには
「二番だしでスパゲッティを茹でる」
というレシピがあって、面白いなと思いました。
沼田
好きなんですよ。
されたことないです?
飯島
いえ、ないです。
沼田
僕がよくやるのは、
電子レンジで作るパスタの容器を使うもので。
沸騰させた方が二番だしと麺を入れてチンすると、
だしの香りがついたパスタができあがります。
基本的にカツオのだしは、
うま味成分的にはトマト系、野菜系のソースとの
相性がとってもいいんですよ。
飯島
へぇ~! 
じゃあ、カルボナーラにしたら、
卵かけご飯のパスタバージョンにもなりますね。
沼田
たしかにそうですね!
──
それもおいしそう。
飯島さんが二番だしの出し殻(だしがら)を1袋使って
ピーマンと生きくらげを
きんぴらにしてくださったのも、
すごくおいしかったです。
飯島
ピーマンって普通は
調味料をはじいちゃうじゃないですか。
でもだしの残りを入れることで、
そこに調味料が絡むんですよ。
ご飯にも合う感じになりました。
──
あと、おにぎりもおいしかったですね。
飯島
だしパックをしっかり絞ったものを、
チンするか、乾煎りして、
そこに梅干を刻んだのを混ぜて、おにぎりにしました。
ご飯に乗せてお茶をかけたらお茶漬けにもなります。
梅干も引き立つし、おだしの味もほんのりするし、
カルシウムも摂れますしね。
──
無駄のないおだしですね。
飯島
「かつおのおだし」の調理例には
「おだし肉じゃが」を入れました。
メークインとにんじんと玉ねぎで、
ライスを食べるためというよりは、
おだしをおいしく飲みながら食べる肉じゃがに
してみました。
沼田
おだし肉じゃが、いいですね! 
ソウダガツオが入っているぶん、
しょうゆとかで味付けする料理に向いてますよ。
──
沼田さんオススメのレシピはありますか?
沼田
ちょっと変わったところだと、
「煮干しだし」を使って、
ラーメンスープとかもおいしいかなと思います。
カタクチイワシ、いわし節、真昆布の組み合わせなので、
塩、しょうゆ、味噌、全部いけそうな気がしますし。
飯島
ラーメン! いいですね。
沼田
あと味噌煮込みもおいしいかもしれない。
「煮干しだし」はしっかりと主張してくれるので。
──
おぉ~! いいですね。
ちなみにこのだしパックは
サイズが大きいのも特徴ですね。
沼田
通常のだしパックの2、3倍ぐらいの大きさです。
そもそも無添加で素材だけを入れているので、
中に入ってるものの容量が大きくなるんです。
飯島
鍋に入れるときは皆さん、
おまじないのように平らにならして、
ファサッと入れて欲しいです。
──
入れる前に、ちょっと広げるように。
飯島
はい。傾けて入れたらそのままになっちゃうから。
サラサラーっと広げてパッと水に。
──
大事ですね! 
だしの取り方って難しい印象があるんですけど、
これは守らないといけない、みたいな、
決まりのようなことはあるんですか?
沼田
ものによっても好みにもよっても
変わるものではありますが、
研究でちゃんとわかっていることがあります。
カツオだしは、
70度ぐらいが一番香りが抽出されます。
そして85度が一番うま味が出るんです。
──
へえ!
沼田
さらに85度以上になると、
かつお節に含まれてる脂質やたんぱく質が溶け出して、
だしが濁ったり雑味が出てきたり、
魚の匂い出てきたりもします。
でもそれは料理のコクにもなるので、
しっかり味をつけたい場合は、
85度以上にするべきなんですよ。
だからお吸い物で香りを重視するんだったら
70度ぐらいがベストだと私は思いますし、
もうちょっとうま味を出したかったら85度ですし、
麺つゆみたいなしっかりした味を出すんだったら
沸騰させた方がいいと思います。
──
今回のオリジナルだしは
どんな使い方がおすすめですか?
沼田
今回のものに関しては煮立てちゃっても大丈夫です。
こういうふうに言うと元も子もないんですけど、
だしパックにはいろんな素材が入っていますよね。
当然、素材によって煮出し時間も温度も違うわけです。
昆布だって、しっかりだしをとろうとしたら、
半日だったり1日だったり水につけてから、
60度で1時間、というとり方になる。
飯島
だから逆に、
70度でとってみるとかっていうのは
別にやらなくてもいいですよ、と?
沼田
そうなんです。
私なんてもう、自社の製品は
鍋にポイッて入れたらしばらく放置して、
時間も計らず大体10分ぐらい経ったら火を止める、
というような感じで使っています。
それでも十分おいしいおだしがとれるので。
そんなに神経質になる必要はないです。
飯島
水の量も600~800ミリリットルぐらいと、
幅がありますね。
沼田
二番だしをとらない方は、
しっかりと煮出して、
濃厚にしてもいいと思いますよ。
飯島
よくわかりました。
沼田さん、今後も定期的にお目にかかって、
だしの相談をしたいです。
次は「えそ」のスペシャルだしも作りたいですし。
──
そもそも「えそ」ってどんな魚なんですか?
飯島
私のイメージですが、
ちっちゃいタラみたいな感じの魚です。
味はなんだろう。イワシとかとも違って‥‥。
沼田
上品ですよね。
飯島
そう、上品。
沼田
でも「えそ」って偶然にしか手に入らないんです。
「えそ」を狙った漁というものがない。
普段は海の深いところに棲んでいるんですけど、
たまに、カタクチイワシの群れを食べるために
上がってくるんですね。
そのときに、カタクチイワシ漁の網にかかったものを集めて
「えその煮干し」を作るということしかできない。
──
そうか、それゆえに、
「えそ」を使ったおだしは、
ある程度量が確保できた時に
スペシャルで作りましょう、
ということなんですね。
飯島
そうなんですよ。
沼田
数量限定で良いのであれば、
いけると思いますよ。
なのでまたぜひ試しに来てください。
この度は「おだし香紡」を見つけてくださって
ありがとうございます。
飯島
いや、こちらこそです!
いい方に出会えました、
ほんとに、うれしいです。

原稿協力:中川實穗

写真:有賀傑

2022-04-28-THU

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