「あの場所に帰りたいな」と思うとき、
頭に浮かんでいるのはどんなところでしょうか。
私、ほぼ日の松本にとってそれは、
子どものころに読んだ物語の舞台
「こそあどの森」です。
どこにあるのかわからない、ふしぎな森。
しかし、作者の岡田淳さんに
お話をうかがって感じたのは、
「『こそあどの森』は、
私たちの現実と地つづきなのかもしれない」
ということでした。
ファンタジーのたしかなちからを感じるお話、
精密な原画とともにおたのしみください。
岡田淳（おかだ・じゅん）
1947年兵庫県生まれ。
神戸大学教育学部美術科を卒業後、
38年間小学校の図工教師をつとめる。
1979年『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』
で作家デビュー。
その後、『放課後の時間割』
(1981年日本児童文学者協会新人賞)
『雨やどりはすべり台の下で』
(1984年産経児童出版文化賞)
『学校ウサギをつかまえろ』
(1987年日本児童文学者協会賞)
『扉のむこうの物語』(1988年赤い鳥文学賞)
『星モグラサンジの伝説』(1991年産経児童出版文化賞推薦)
『こそあどの森の物語』
(1～3の3作品で1995年野間児童文芸賞、
1998年国際アンデルセン賞オナーリスト選定)
など、子どもが大人になってからも
心に残り続ける作品を、たくさん生み出している。
- ──
- 岡田さんが『こそあどの森の物語』を書き始められた
30年前と現在では、
読者である子どもたちの置かれている状況が
変わったと思います。
それに伴って、
お話を書くときに意識なさっていることに
変化はありましたか。
- 岡田
- 僕自身の意識は、あまり変わっていないと思います。
そのかわりに、
登場人物たちの内面が、太ってきたというか。
- ──
- ひとりひとりのキャラクターが、
いろんな面を見せるようになった、
ということでしょうか。
- 岡田
- そうです。
たとえば、スミレさんは素っ気ない人だと
思っていたら、じつは、スキッパーの心情を
いちばんよくわかっている人だったり。
巻を重ねるにつれて
それぞれのキャラクターが立体的になり、
ひとりの人間のなかに複雑な性格があることが
わかってくるという変化は、書きながら感じました。 - １巻を書いているときは、それぞれの人物を、
かなり役割分担的に描いていたんです。
けれど、２巻で
住民のなかに魔女を登場させようとなったとき
「魔女と言っても、誰を魔女にすればええねん」
と迷ってしまって。
「ふだんからミステリアスなスミレさんが魔女では、
意外性がないよなあ。
いつも面倒見がよくてやさしい、
トマトさんにしようかな」と決めました。
- 岡田
- そうして設定を練っていくうちに、
「トマトさんは
『いい奥さんであり、みんなの母親的な存在』
として生活しているけれど、
じつは、その生活のなかで、気づかないあいだに
『自分で自分を殺してしまっている部分』が
あるのではないか」と思ったんです。
- ──
- 「やさしくておおらかなお母さん」
という立場にいるトマトさんには、
無意識に抑え込んでしまっているものが
あるかもしれない、と。
- 岡田
- こうして、トマトさんが１年に１度魔女に変身し、
抑えていた自分を開放する
というお話になっていきました。
では、トマトさんが魔女になったとき、
パートナーのポットさんはどうするのか。
魔女の部分をなくそうとするのか、というと、
そうではありません。
ポットさんは
「魔女の部分も、トマトさんにとって
必要なものなんじゃないか」と考えて対応します。
ここで、誰より現実的にものを考えることが多い
ポットさんの「理屈だけでなく、
相手の感情を深く考えて接する」一面が
出てくるんです。
- ──
- なるほど‥‥。
ひとりのキャラクターが、
ふだんのイメージと違う面を見せたことによって、
別の登場人物の性格にも深みが出たのですね。
お話にあったとおり、
２巻の『まよなかの魔女の秘密』は、ポットさんの
「トマトさんのふだんと違う部分も尊重する」
という選択がすごくいいなと思いました。
- 岡田
- その箇所については、
ご家族が精神的な病をお持ちで、ときどき
人格が変わったようになってしまうという方から、
「ポットさんの選択に、大きくうなずきました」
とお手紙をいただいたことがあります。
ファンタジーであっても、
物語の渦中にいる登場人物たちの心情を
一所懸命想像して動かすことによって、
作者である自分も想定していなかったところまで
物語が響いていくことがあるのだな、と学びました。
- ──
- スキッパーに共感する方がいるように、
ポットさんの選択に励まされる方も
いらっしゃったのですね。
ファンタジーの世界の登場人物が、
感情によって現実の読者とつながって、
「たのしいばかりではない現実」を生きることを
助けるって、ものすごいちからだと感じます。
- ──
- きっと、現実では、
「簡単にポットさんのような選択はできないよ」
という意見もあると思うんです。
でも、ある意味、理想的な方法というか‥‥
希望のある方法を選ぶ物語があることが、
現実にいい影響を与えるのかもしれないですね。
- 岡田
- そうなっていたら、いいなと思います。
- ──
- 最後に、冒頭と同じように
「『こそあどの森』シリーズのファン」として
お聞きしてしまうのですが‥‥岡田さんは、
今後も作品を書かれていくご予定でしょうか。
- 岡田
- ええ。
「もう、これ以上書かなくていいか」とは、
考えていません。
- ──
- ああ、よかったです。
- 岡田
- 「もう書かないんじゃないか」と思いました？（笑）
- ──
- もし、そうだったらどうしよう‥‥と（笑）。
- 岡田
- 健康で丈夫であれば、これからも書くと思います。
- ──
- 安心しました。ずっとお元気でいてください。
きょうは、貴重なお話をたくさん聞かせていただき、
ありがとうございました。
『こそあどの森』が、ますます好きになりました。
- 岡田
- こちらこそ、ありがとうございました。
帰り道もたのしんでいってくださいね。
（終わります。お読みいただき、ありがとうございました。）
2025-04-16-WED
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『こそあどの森の物語』シリーズの概要
「この森でもなければその森でもない、
あの森でもなければどの森でもない」
ふしぎな森で起こるできごとを描いた、
12巻＋番外編３巻のシリーズ。
森には、内気な少年「スキッパー」をはじめ、
もてなし好きな「トマトさん」と
「ポットさん」夫婦、
遊んでばかりの「湖のふたご」、
少し皮肉屋な「スミレさん」と
寡黙な大工の「ギーコさん」姉弟、
作家の「トワイエさん」が住んでいる。2025年４月18日（金）〜５月11日（日）
TOBICHI東京で
岡田淳さんの原画展を開催します。
『こそあどの森の物語』の原画を、
TOBICHI東京で展示させていただけることに
なりました。
物語の挿絵や、精密な設定画、
ストーリーのもととなった
スケッチブックなど、
『こそあどの森』の世界観を
存分に感じていただける内容です。
あたたかく、やさしい色合いの作品から、
息を呑むほどの精密さが迫ってくる絵まで。
すみずみまで眺めたくなる原画の数々を、
ぜひご覧にいらしてください。入場は無料、
グッズ販売もございます。
くわしくは、
TOBICHI東京ホームページをご確認ください。