──

『こそあどの森の物語』シリーズは、
12巻でいったん完結しています。
2024年に、30周年というタイミングで
２冊の「姉妹編」を出されたのは、
あらたに「こそあどの森」で書きたいことが出てきた
ということでしょうか。

岡田

そうです。
１巻から12巻では、
主人公のスキッパーが人との関係を広げたり、
深めたりしていくことが、
大きなテーマになっていました。

岡田

たとえば２巻では、スキッパーが
トマトさんとポットさんという
ふたりの秘密を聞いて、
「いろいろな人生があるんだなあ」と知ります。
３巻では、100年以上昔の人物が
スキッパーに乗り移ります。
スキッパーは、細かいところはわからないけども、
過去の人が抱いていた気持ちは
はっきりと感じます。

そんなふうに「関係」を意識して書いてきたので、
みんなが集まるシーンなどでは、
「この人はいま、こうしている」という
チャートをつくって、それぞれの言動を考えました。

▲場面ごとにつくられた、キャラクターの言動の表。

──

わぁ、すごい‥‥。
キャラクターどうしの関わりが、
こんなに綿密に考えられていたのですね。

岡田

このように、12巻をとおして、
「人との関係を結んで世界を広げていくこと」を
ずっと書いてきました。

ですが、一方で、
シリーズの最初から大切にしていることが
もうひとつありました。
それは「自分ひとりの時間」です。

──

ひとりの時間。

岡田

どんなに関係を広げても、
「自分がひとりでいる時間」に
戻ってこられなければ、
人は安定しないのではないか、
という気持ちが強くあったのです。

岡田

スキッパーやトワイエさん、ギーコさんのように、
もともとひとりを好むキャラクターもいます。
彼らのファンの方から、
「ひとりでいることを肯定されている気がする」
というお手紙をいただくことがよくあって、
スキッパーたちに共感する人は、
たくさんいるんだなと気づきました。

とくに、聴覚過敏の方がお手紙をくださったことが
印象に残っています。
「１巻のはじめに、
訪ねてきた人たちがにぎやかに話すのを聞いて
げんなりしてしまった、
スキッパーの気持ちがとってもよくわかります」と。

岡田

作者である僕自身も気づかないうちに、
キャラクターたちが、現実のだれかの気持ちを
代弁することがあったのです。
そこで、「やはり『ひとりの時間』についても
しっかり書いたほうがいいな」と思い、
番外編や姉妹編をつくることに決めました。

──

だから、番外編や姉妹編には、
大人たちが子どもだったころのお話や、
それぞれの住民がひとりで体験したことが
描かれているのですね。

岡田

『こそあどの森』11巻で、スキッパーが
「もしも森のみんながここにいて、
僕の相談に乗ってくれるとしたら、
どういうことを言うだろう」と
想像する場面があります。
スキッパーはもともと内気な少年なので、
１巻の最初、
まだみんなと交流していない時期だったら、
きっとそんなことは想像しません。
でも、森の人たちと関わってきたなかで、
「みんなの言いそうなことを想像するスキッパー」
になっているんです。
部屋にひとりでいるけれども、彼のなかには、
ほかの人も入っている。
僕はわりと、このシーンが好きなんです。

岡田

ですが、そんな場面も、
やはり「ひとりで考えるのが好きなスキッパー」
だからこそ生まれたものです。
いまでも、彼のおおもとには
「ひとりが好き」ということがあります。

──

おっしゃるとおり、スキッパーは、
自分からなにかに突っ込んでいくような、
活発なタイプではありませんね。
児童文学の主人公のなかでは、
めずらしいキャラクターだなという印象があります。
スキッパーをおとなしい性格にしたのは、
どんな理由からなのでしょうか。

岡田

どうしてでしょうねえ‥‥。
僕自身が内気な子どもだったから、
ということもあります。
でも、大きな理由は、
小学校の図工の先生をしながら、
いろんな子を見てきたからだと思います。
スキッパーのように、
あまり気持ちを言葉にして出さず、
ひとり眉を寄せているような子たちもふくめて。

１巻の『ふしぎな木の実の料理法』のストーリーは、
そういう子でなければ成立しなかったのかも
しれません。

──

ああ、たしかに、１巻の
「調理法のわからない木の実について、
少しずつ勇気を出して森の人々に聞きに行く」
というお話は、
もとから人と話すのに慣れている子からは
生まれてこないです。

岡田

そう、そう。
１巻の話を思いついたときに、
僕のなかの「内気な子ども」の部分が、
顔を出してきたのでしょうね（笑）。

──

岡田さんのなかの、「スキッパー部分」が！