──

この展覧会場の一角で、
山の映像が上映されていましたけど、
あれは、アトリエの近くですか。

酒井

はい、
家の近くを撮ってもらった映像です。

──

けっこうな「山の中」ですよね？

酒井

東京の家と山の家を行ったり来たり、
定期的に移動しているんです。

東京の家で煮詰まっていた絵本が、
山の家へ移動したら、
進んだりすることがあるんです。

──

気分がガラリと変わりそうですね。

酒井

はい、変わります。

逆に、山の家で煮詰まっていた本が、
東京に帰ってきたら、
また、ゆっくり、動き出したりとか。

──

さっき、おおきな団地で育ったって、
おっしゃってましたものね。

酒井

そうなんです。

新興住宅地で育ったので
山のなかの家とか、
自然に囲まれて住むのが、夢でした。

──

ちいさいころからの。

酒井

はい。小学生のころに、
コロボックルの物語が大好きでした。

語り手の「せいたかさん」は、
小山を自分で借りて、住むんですね。

──

ええ、ええ。

酒井

本当は小山がほしかったんだけれど、
「売れない」と言われて、
でも、地主さんとなかよしになって、
借りることができるんです。

その土地に、
ちいさな小屋をたてるんですけど、
そのようすが、とっても楽しそうで。
わたしもいつか、
あんな山のなかに住みたいなあって。

──

小学生のころの夢を叶えたんですね。

酒井

はい（笑）。

──

実際に住んでみたら、どうですか。

酒井

たとえば、風というものは、本当に、
向こうから吹いてきて、
あっちへ吹いて行くんだな‥‥
というようなことがわかったりとか。

──

風を実感！（笑）

酒井

さわさわさわさわ‥‥って、
山の木々が順番に動いていくのが、
見えるんです。

──

なるほど、なるほど。
動物も、たくさんいそうな感じです。

酒井

います、います（笑）。

鹿とか、キツネとか、フクロウとか、
どこかにクマもいるみたい。

──

クマ‥‥さん、まで！

酒井

実際に会ったことはないんですけど、
木の幹に、
ギャッて引っ掻いた爪あとがあるし。

──

わー！

酒井

ふふふ（笑）。

──

実家が相当な山の中なんですが、
鹿とか猪、タヌキは見るけど、
キツネは‥‥見たことないなあ。

酒井

いますよ。夕方に、よく見かけます。

──

人間が、いちばんいなかったり？

酒井

はい、いません。

人には会わなくても苦じゃないので、
大丈夫なんですけど、
あんまり人がいないところなんです。
１週間くらい、
誰にも会わないこととかもあります。

──

そんなに！

酒井

標高の高いところなんですけれど、
そのあたりより上には、
もう、
住んでる人はいないという感じ。

──

じゃあ、寒いでしょう。

酒井

寒いです。

まあ‥‥でも、
寒くても零下１５度くらいですが。

──

超寒いじゃないですか（笑）。
でも、楽しそう、おもしろそうです。

酒井

おもしろいですよ。

──

東京との行き来も、大変ですよね？

酒井

ネコとかもいるので、大騒動です。

──

大騒動の大移動、で（笑）。

酒井

車の中でネコが大騒ぎしたりとか、
わーわーいいながら、
行ったり来たりしているんですよ。

──

でも、酒井さんの絵本が、
都会と山の中とで、
かわりばんこに描かれていたとは、
知りませんでした。

酒井

そうなんです。

──

デビューされて、もう２０年以上。
どれくらいの絵本を、そうやって。

酒井

これまでに何冊くらいつくったのか、
すぐには、
はっきりと言えないんですが、
２０年で２０冊くらいだと思います。

１年に平均１冊くらいな感じなので、
すごく遅いと思います。

──

そのペースだと「遅い」んですか。

酒井

そうじゃないかなと思います。
描くのは毎日、描いているんですが。

──

毎日。やっぱり、
好きだからできることなんですよね。
毎日毎日って。

あたりまえかもしれないですが‥‥。

酒井

まぁ、好きです。描くのは。

あと、他にやれることがないんです。
それはもう、本当に。

──

絵だけを、毎日。

酒井

少しずつですけれど。

──

ネコちゃんたちと、
都会と山を行ったり来たりしながら。

酒井

はい（笑）。

『森のノート』原画（筑摩書房、2017年）