よく見かけるのに
あまり知らないもの‥‥

それは雲です。

毎日雲を愛でている
「すごすぎる天気の図鑑」シリーズの著者で
雲研究者の荒木健太郎さんに、
雲の魅力と、
災害などをもたらす雲とうまく付き合う方法を
教えてもらいました。
雲が身近に感じられて、
空を見上げるのがたのしくなる。
そんな授業です。
担当はほぼ日のかごしまです。

>荒木健太郎さんプロフィール

荒木健太郎(あらきけんたろう)

気象庁気象研究所主任研究官。
1984年生まれ、茨城県出身。
慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。
地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。
専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、
気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取り組んでいる。
映画『天気の子』気象監修。
『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。
著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)、
『空となかよくなる天気の写真えほん』シリーズ(金の星社)、
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)

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第5回 ペットボトルの中に雲をつくろう。

──
生活の中で雲に出会える場面って結構あるんですよね?
荒木
あります。一つはお風呂。
お風呂で浴槽にお湯を張って、
換気扇をつけていないと
ほぼほぼ湿度100%近い状態になっていると思います。
──
湯気でお風呂が充満しているような状態ですね。
荒木
そうです。実はお風呂のお湯から出る
湯気も雲なんですよ。
ほかにもお味噌汁の湯気も雲ですし、
アイスキャンディーの袋を開けたときに出てくる
もわもわっとした白いものも雲なんです。
──
アイスから出る白いものも
雲なんですか!
荒木
雲はそもそも何かというと、
小さな水の粒とか氷の粒がものすごいたくさん集まって
空に浮かんでいるものなんです。
実はその湯気とかも見てみても、
なんか白っぽいなと思いますよね。
白っぽいところにはものすごいたくさんの粒があるんです。
それに光が当たって光を散乱して白く見えている。
では実際に雲を作ってみましょうか。
──
簡単に作れるんですね!?
荒木
はい。
ペットボトルとアルコールで雲を作ってみます。
手で潰せる柔らかいタイプの
ペットボトルを用意してください。
中身が何も入ってない状態で、蓋を開けて、
アルコール消毒スプレーを2、3回
シュッシュッシュッと入れます。
そしてきつく蓋を閉めます。

荒木
これで 思いっきりひねります。これ、結構力がいるんです。
このようにひねります。

──
ねじる感じですね。

荒木
じゃあいいですか?
ひねった状態で一気に手を離すと雲ができます。
じゃあやりますよ。
3・2・1

──
おお!
荒木
これが雲です。見えますか?
──
ペットボトル内に白い雲ができている!
荒木
できてよかった〜。
これどういうふうにしてできているかと言いますと
思いっきりひねると
ペットボトルの中の空気が縮まって気圧が上がるんですね。
そこから一気に手を離すと気圧が下がると同時に
空気が膨らむので、
空気の温度が下がって雲ができる、ということです。
アルコールってすぐ蒸発しますよね。
それは凝結もしやすい性質があるということなんです。
だから水よりもアルコールのほうが凝結しやすく、
雲を作りやすいんですね。
これまだ多分 2、3回はできると思うので、
もう一回やってみましょうか。
一緒にやります?
お子さんとかと一緒にやるときは、
向かい合ってペットボトルを2人で持ってもらって、
逆の方向にひねるとやりやすい。
──
では向かい合ってひねり合いましょう。

荒木
あ、いいですね。じゃあこの状態で手を離しますね。
いきます。3、2、1。
あ、ちょっとできました。
成功です。
──
すぐできますね。
そしてひねったとき、
ペットボトルがちょっと温かくなりました?
荒木
その通りです。
空気は上昇すると膨らんで冷えますが、
下降すると気圧が上がって空気が縮み、
温度が上がるんです。
実はこれ、高気圧が来るときに
暖かくなって、雲がなくなる仕組みと同じなんですよ。
高気圧があるときは空に下降気流がある。
温度が上がって、水蒸気をたくさん含めるようになるので、
雲があってもそれが消えちゃうんです。
そもそも雲ができにくいという状況になり、
晴れやすいということですね。
逆に低気圧があると上昇気流があり、
下から上に行くような空気の流れなので、
雲ができる。
ペットボトルをひねると、
曇りがちょっと晴れて透明になります。見えます?
──
おお、透明になりました!

荒木
これはまさに、
ペットボトルの中の気圧が上がっている状態。
──
ひねるだけで気圧が上がるんですね。
荒木
そうです。
そこからさらに気圧が下がると雲が見えます。
──
これは、
まさにペットボトルの中に空と雲が再現されている
状態ですね!
そう思うと、ロマンチックです。
荒木
楽しいですね〜。
自分で作れるっていうのが楽しいですよね!
まあいろいろなところに身近なところに
気象はいっぱいありますからね。
──
いや〜面白いですね。
荒木
空気の動きが見られる
アイスコーヒーの実験もあります。
──
ぜひお願いします。
荒木
こちらにアイスコーヒーがあります。
気象関係者がアイスコーヒーを飲むときにやるのが、
ミルクを入れるときに、
積乱雲の中の下降気流である、
ダウンバーストを再現するということをやります。
ダウンバーストとは
積乱雲から強く吹き降りる下降気流と、
その気流が地表に衝突して吹き出す強い風のことです。
冷たい空気って重いので下がっていくんですね。
下がっていって地面に到達すると
周りに広がっていくんです。
ミルクを冷たい重い空気に、
コーヒーをその周りにある空気に見立てると、
ダウンバーストっぽい現象が起こります。
──
見える位置に移動して観察しますね。
荒木
行きますね。
できるかなちょっと心配ですが‥‥。
(ミルクを入れる)
あっ! 見えました。今 見えました?

──
見えました!
ミルクが降りてって横に広がっていきました。
横に広がっていくときに、
ミルクが回転しているような様子も見えました。
荒木
まさにダウンバーストですね。
積乱雲の下で起こっている現象です。
──
雨が降っているときに起きているんですか?
荒木
はい。
ずっと雨が降り続いている状態というよりは
むしろ単独の積乱雲が発達したときに起きます。
──
雨が降りそうな雰囲気になってきたときに
急に空が暗くなって、
冷たい風が吹いてくることがありますよね。
まさにあのときですかね?
荒木
まさにそれに近いものです。
ダウンバーストはもっと激しい風で、
実はその冷やっとした風が吹いてくる瞬間に
突風が発生することもあるんです。
ダウンバーストは積乱雲の真下で起こる現象なんですけど、
周りに広がっていった冷気の先端部分が、
突風前線とかガストフロントって言われていて、
それが通過するタイミングで
突風が発生するっていうことがあります。
──
突風というと物が飛んでいくくらい強い風ですね。
荒木
そうです。
突然強い風が吹いてくるっていうようなことが起こります。
──
気象の研究者はアイスコーヒーを飲みながら
やるんですね。
荒木
わりとやりがちです。
研究者はむしろやらないかもしれないですね。
気象が好きな人ですかね 。
──
荒木さんはよくやりますか?
荒木
やります。
周りの人から「絶対やると思った」って言われます(笑)。

(つづきます)

2025-04-25-FRI

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    スピンオフシリーズの
    第2弾は防災がテーマ。
    豪雨、台風、猛暑などの異常気象、
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