「相手の気持ちがわからない」と
悩んだことはありますか?
人は、他人の気持ちを
どれくらいわかっているのでしょうか。
そもそも私たちは、
人間関係について悩みすぎでしょうか?
『なぜ心を読みすぎるのか』の著者であり
社会心理学者の唐沢かおりさんに、
人間関係のあれこれを相談しました。
聞き手は、相手の気持ちを推測するあまり、
人をごはんに誘うのをためらってしまう、
ほぼ日の玉木です。

このときの動画はほぼ日の學校でご覧いただけます。

>唐沢かおりさんプロフィール

唐沢かおり(からさわ・かおり)

京都府生まれ、社会心理学者。
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
著書に『なぜ心を読みすぎるのか:
みきわめと対人関係の心理学』、
『「気が利く」とはどういうことか
──対人関係の心理学
(ちくま新書 1892)』など。

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【第4回】ステレオタイプは活用できる

──
唐沢さんがいろいろな媒体で
話されていることのなかで、
とくにおもしろいなと思ったのは、
ステレオタイプを「活用」
するという考え方です。
「ステレオタイプとは関係なく
他者を見たい」と思っても、完全には、
ある種の偏見から抜け出し切れない。
そこから発想を転換して、
人がそれぞれ属している属性は、
人間関係において活用できるんだ、
というお話が新鮮でした。
唐沢
ステレオタイプは、ある集団に対して、
「この業界の人はこんな人」
「男性はこう」「女性はこう」といった
決まり切った見方を当てはめることですね。
だから、基本的にはネガティブなこと。
でも、あまり知らない相手と接するとき、
ステレオタイプという知識を
「活用する」と考える。
つまり「この人はこういう属性を持っているから、
こういうところがあるかもしれない」とか
「この人はステレオタイプには
当てはまらないんだな」とか、
ちょっとだけ理解が深まって、
距離が縮められるかもしれません。
限られた頭のリソースのなかで、
いったん、おおまかに相手を理解することができる。
その意味では、ステレオタイプは「使える」し、
ある集団に対する「いい印象」という
ポジティブなステレオタイプもあるから、
100%悪いと断言はできないのです。
それに、言ってくださったとおり、
どれだけステレオタイプをなくそうとしても、
私たちは逃れられないんです。
新しくなにかや誰かを理解しようとするとき、
一度も既存の型にはめずに判断するのは難しくて、
ひとつひとつ全部に対して
事例から判断するのは不可能です。
なので、ステレオタイプをなくそうとするよりは、
効果的に使っていけたらいいなと思います。
ただ問題は、ステレオタイプが、
相手に対して加害的な、
差別になってしまう場合です。
「偏見」は「態度」ですが、
「差別」は「行動」に結びつきます。
ステレオタイプを利用するとき、
差別的な行動にはつながらないよう、
気をつけなければなりません。

──
ステレオタイプと差別は、
シームレスにつながってしまうので、
気をつけないといけない。
でも、そこを気をつければ、潔癖に
「すべての人をまっさらな目で見なくてはならない」
と思わなくてもいいんですね。
「私は◯◯に対して
ステレオタイプ的な見方をしているんだろうか」
と悩んで、ステレオタイプをなくそうとするよりは、
ステレオタイプを活用したうえで、
それが差別的な行動にならないように
意識するほうが、現実的というか。
唐沢
そうですね。
自分がどういうふうにステレオタイプを
使っているかに気がつけるといいと思います。
──
「第一印象が大事」とよく言われるように、
人は、相手のことを推し量るときに、
相手の属性のステレオタイプや、
目で見て最初にわかる
相手の情報を使いがちなんですね。
唐沢
第一印象で、その人に対しての「見方の型」が
ある程度決まってしまいます。
一回、見方の型がつくられると、
それを引っくり返すには、時間をかけて
相互作用をしていかなければなりません。
もちろん、長いあいだ付き合っていって、
相手への見方が変わる事例はたくさんあるけれど、
一方で「第一印象だけで付き合いが終わる人」も、
けっこう多いと思うんです。
──
とくに仕事上の付き合いだと、
第一印象以上に相手の情報を得ることは
少ないかもしれません。
そうすると、やっぱり第一印象は大事ですね。
日本の就職面接って、
みんなリクルートスーツを着て、
決まった話し方をするのが推奨されますが、
この面接方法は、むしろひとりひとりの第一印象を
わかりにくくしているんでしょうか。
唐沢
リクルートスーツの是非はいろいろあると
思うんですけど、私が「すごいな」と感じるのは、
見た目や話し方を同じ条件で揃えると、
それぞれの違いがよりわかる、ということです。
話し方のクセや、
その人の持っている人間力みたいなもの、
仕事ができそうかそうでないか‥‥といった判断は、
ほかの条件が揃っていると、比べやすいんですね。
だから、「比べる」ということにおいては、
就職の面接はよくできたシステムだなと
思うことがあります。
──
「突飛な服から堅い服まで、なんでもありです」
としてしまうと、むしろ、それぞれの人の
「ちょっとした違い」が見えづらくなるんですね。
そういえば、ほぼ日では「いい人募集」という採用を
したことがあって。
唐沢
「いい人募集」ですか。
──
ほぼ日の場合、「いい人」には
いろんな意味が入っています。
入社してもらったあとに、
「いい人に来てもらったね」と言われるような
「いい人」だったり、
旅行に行くときに
「あいつはとくに役に立つわけではないけど、
いると楽しいから呼ぼうか」って呼ばれる「あいつ」
だったり。
この採用のことを考えると、
「人はなにを基準に人を評価しているんだろう」
ということが気になってきます。
唐沢
私たちが他人を認知したり、
評価したりするときには、
大きく2つの軸があると言われています。
ひとつが「人柄の良さ」で、
もうひとつが「能力」なんですよ。
──
ほぉー! 
唐沢
人柄とひと言で言っても、
「どんな人柄がいいんだ」と疑問が生まれますが、
結局、明るいとか、誠実であるとか、
そういったベーシックなところが「いい人柄」と
感じられやすいです。
能力というのは、仕事ができる・できない、
勉強ができる・できないだけでなく、
コミュニケーションスキルなども含まれます。
この「人柄」と「能力」、ふたつがそろうと
「いい人」と評価されることが多いです。

──
たとえば勉強ができることと、いい人であることは、
必ずしも一致するわけではないですよね。
他人に対しても自分に対しても、評価基準が
「能力が高い」のひとつだけではなく
たくさんあると、
より柔軟な評価ができるのでしょうか。
唐沢
人柄と能力の先は、いろいろ、
その人なりの評価基準に分かれてくると思います。
また、人柄と能力をもっと細分化して、
「こんなタイプの人、あんなタイプの人」と
分けることもできます。
すると、自分にとって付き合いやすい人と
そうでないタイプの人が出てきます。
だから、相性の問題にもなってきますね。

(明日に続きます)

2026-02-20-FRI

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  • いい人間関係を築くのは難しい。
    「気が利く人」になってみたいけど、
    どうしたらいいんだろう?
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