
「相手の気持ちがわからない」と
悩んだことはありますか?
人は、他人の気持ちを
どれくらいわかっているのでしょうか。
そもそも私たちは、
人間関係について悩みすぎでしょうか?
『なぜ心を読みすぎるのか』の著者であり
社会心理学者の唐沢かおりさんに、
人間関係のあれこれを相談しました。
聞き手は、相手の気持ちを推測するあまり、
人をごはんに誘うのをためらってしまう、
ほぼ日の玉木です。
唐沢かおり(からさわ・かおり)
京都府生まれ、社会心理学者。
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
著書に『なぜ心を読みすぎるのか:
みきわめと対人関係の心理学』、
『「気が利く」とはどういうことか
──対人関係の心理学
(ちくま新書 1892)』など。
- ──
- 他人の感情を気にしすぎる傾向って、
たとえば国や地域によって
違うものなんでしょうか。
- 唐沢
- よく「日本人は周りの目を気にする」
と言われますが、
実証的に測らないとなんともいえません。
「日本人はこう」というイメージに縛られるのも、
また怖いといいますか。
「日本は心を読み合う文化だから読まなくちゃ」
「配慮しなくちゃ」といった意識が過剰になると、
苦しいですよね。 - 相手にどう思われているかの評価を気にすることを
「評価懸念」といいます。
それがあることによって、
私たちは社会のなかでちゃんと振る舞えているのも
事実です。
評価懸念がみんなのなかに少しずつあるからこそ、
他人を無暗に傷つけへんとか、助け合うとか、
気にかけるとか、
そういったことが維持されています。
その意味では、評価を気にするというのは
悪いことではないんですけどね。
- ──
- 最近、「人の心がわからない」の逆で、
「自分は繊細過ぎるんじゃないか、
人が自分をどう思っているかを
読み取りすぎてしまう」
「相手がどうしてほしいかを
わかりすぎてしまうから、
全部叶えてあげられないのが苦しい」
といった悩みも耳にします。
- 唐沢
- 「配慮疲れ」のようなことでしょうか。
配慮するのはいいことですが、
人間、他人に割けるリソースは限られていますから、
疲れてしまうのもうなずけますね。
そのような悩みがある方は、「役割」をみずから
背負ってしまっているんじゃないかと思います。
ある組織のなかで、
「私は、みんなに配慮して
場をうまく回す立場なんだ」
と役割を背負っちゃうと、苦しいです。 - 本人だけの問題ではなくて、まわりの人も、
特定の人に役割を押しつけないようにしたほうが、
組織はうまくいくかもしれません。
いつも配慮してくれる人には、
どうしても甘えちゃうんですけどね。 - 組織の上に立つ人にとっては、
配慮ができるって、すごく大事なことです。
だから、そのような人がただ「気を配る役」を
押し付けられるのではなく、ちゃんと評価されて、
リーダーに任命されるなど、立場の向上が
伴えばいいなと思います。
仕事だけすればいいわけじゃなくて、
お互いに調整し合って、分担し合って、
配慮し合う面がないと、組織は回らないですから。
- ──
- ほぼ日では、数年前から
「心理的安全性」を確保することに
取り組んできました。
そのような取り組みを進めるなかで、
上司的な立場の人が気をつけるべきことは、
どんなことでしょうか。
- 唐沢
- そのままですが、
「心理的安全性が脅かされる状況」を
発生させないことだと思います。
実際はそこまでやらなくても大丈夫なのに、
部下が「ここまでやらないとダメだ」
と思ってしまっていたら、
そのギャップに気づいて、修正してあげたり。
あと、リーダーの立場からだと、
部下たちの人間関係が見えづらいことがあります。
上層部は「このふたりは仲がいい」と思っていても、
実は違うとか。
そういうのって、結構、当事者からしたら
ズキッときますよね。
- ──
- 「リーダーは全然自分のことを
見てくれてなかったんだな」
という気持ちになりそうです。
- 唐沢
- だから、部下たちの人間関係に、
ちょっとだけ、一歩だけ踏み込んで、
本当に大丈夫なのかを見るのは大事ですね。
- ──
- 仕事を熱心にされている方や、
誇りをもって働いている方ほど、
実際は疲れていても、
それを隠すのがうまくなってしまうと思うんです。
そうなると、
他人からは手の差し伸べようがないというか。
- 唐沢
- うん、うん。
本人が自分で「あ、いま疲れてるな」と気がつくのが
いちばん大事ですが、それができないときに、
まわりが気づいてあげれるかどうかって、
実際、難しいです。
とくに、
ネガティブな感情をすごく抑え込む人は多いです。
それは、私たちは社会生活のなかで、
いきなり他人に怒りをぶつけたり、
目の前で泣いたりしてしまったら大変だから、
自己を制御することが推奨されてきたからです。
もちろん、制御するのがうまい人と
苦手な人はいますが。
- ──
- 「この人は感情を制御するのがうまい人なんだな」
と気づいたときに、自分の前で
本心を出してくれていないだろうその人と、
どう付き合ったらいいんだろうと考えてしまいます。
- 唐沢
- 本心を隠すと言っても、
つらいことがあっても明るく振る舞ってくれる
という人と、
自分の抱えている悪意を隠すタイプなど、
いろいろな人がいます。
だから、付き合い方は
一概には言えないんじゃないでしょうか。
- ──
- ああ、なるほど。
‥‥でも、私の考え方のクセだと思うんですが、
「この人とどう付き合えばいいんだろう」
ということを、熱心に熱心に考えちゃうんです。
「そんなに考えなくていいんじゃない?」と
誰かに言ってほしくて、きょう、
唐沢さんをお招きしたような気もしているんです。
じつは。
- 唐沢
- ああ、そうなんですね! 言いますよ、全然。
- ──
- 頭では「考えすぎだ」とわかるんですけど‥‥。
たとえば何人かでご飯を食べたとして、帰り道に
「◯◯さんがつまらなそうに帰っていったな」とか
思い出して、悶々とするんです。
- 唐沢
- まわりのことをよく見ているんですね。
- ──
- でも、本当に相手の心をわかっているかは
わかりませんよね。
そんなこと考えても、
自分になにかできるわけでもないし‥‥ああ‥‥。
- 唐沢
- あ、でもそれって、なんだか美徳っぽいですよ。
- ──
- 美徳ですか?
- 唐沢
- もしかしたら
「つまらなそうに帰っていった」ことが、
その人の発していたSOSサインかもしれません。
まったく気がつかないよりは、気がつくほうが、
本当にサインだった場合に
相手を助けられる気がします。 - 度を越えたら「考えすぎ」になるから、
自分がしんどくなるなら、いったん、
人のことを考えるのはやめはったらいいと思う。
でも、「ちょっと人のことに気がつく自分」
に対しては、美徳だと思っておいても
いいんじゃないでしょうか。
(明日に続きます)
2026-02-19-THU
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いい人間関係を築くのは難しい。
「気が利く人」になってみたいけど、
どうしたらいいんだろう?
唐沢さんが心理学の視点から解き明かす
「気が利く」の入門書です。

