京都のアサヒビール大山崎山荘美術館で、
みうらじゅんさんの「マイ遺品展」が開催中です。
京都といえば、みうらじゅんさんの故郷。
おそらく「故郷に錦」のすごい展覧会に
ちがいありません。
そこで、いつもみうらさんにお世話になっている、
ほぼ日の見習い乗組員の鳥、シジュちゃんが
美術館におじゃますることにしました。
なぜなら展示の中にシジュちゃんの写真もあるという
情報を聞きつけたからです。ほんとうにあるのかな‥‥?
みうらさんが館内を案内してくれます!

みうらじゅんさんのOFFICIAL SITE

見習い乗組員シジュとは

背景:みうらじゅん「コロナ画」より
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第2回


残そうと思っても、ふつうは残せない。

シジュ
この部屋には、ヘンヌキ(へんな栓抜き)が
展示してあるんだジュよな。
故郷に錦は飾らないけど、
ゴムヘビやヘンヌキは飾る、
そんな展覧会が開催されています。
みうら
だから今日はシジュちゃんに
「これは故郷に錦を飾ったことになるのかな?」
というポイントを、
ぜひ見てほしいんだよね。
シジュ
うん、わかっただジュ。

みうら
もっと言うとね、僕はいまの段階で、
まだ錦は飾りたくないんだ。
シジュ
あ、そうなんだジュか?
みうら
これはまだ、錦には
なっていないんです。
そうだね、おそらく、あと100年後です、
未来の柳田國男があらわれて
「これは民俗学的に貴重な資料である。
ああ、よく残してくれました」
と言ってくれる、
そういうものが陳列されているわけです。
シジュ
ほんと、ほんと。
だってさ、こんなの残してる人、
いないよ。
みうら
これ、残そうと思って
残せるもんじゃないんです。
それはね、僕もそんなに欲しくないわけだから。
シジュ
え、そうなの?

みうら
僕はよく、人から
「趣味が多いですね」とか、
「好きなものいっぱいあっていいですね」とか
言われがちなんですけどね、
そうじゃないんです。
シジュ
そうじゃないんだジュか。
みうら
僕は「それらを好きになることが好き」なんです。
シジュ
‥‥‥‥!!
みうら
うん。たとえば、これ。
シジュ
このヘンヌキ。

みうら
みやげ物のなかに「いやげ物」という、
もらっても困るものが
混入されてることは、
ずいぶん前から気がついてたんですけど。
けれども、そこからさ。
シジュ
みうらさんが人と違うのは、そこから。
みうら
これらのものが
ここに集まっているということはつまり、
僕がどこかで買ってきてるわけですよ。
はじめの1個を買うときには
それなりに勇気が要るもんです。
まず、こういうものを見つけるのは、
どこかに出かけた旅先でしょう?
これね、よく考えてね、
ヘンヌキは金属でできてるんです。
重いし、土産にしては意外と値段が高いんだよ。
シジュ
あ‥‥高いんだ。
みうら
うん。
なかには3000円ぐらいするやつも
あるわけですよ。
シジュ
え? じゃあ3つで1万円ちかく‥‥。
みうら
そんなのね、嫌でしょう?
シジュ
嫌だ。
みうら
嫌だし、持って帰るとき、
こんなヌードの栓抜きをね、
かばんに入れると重いんだ。
よく見て、この、頭の上で
輪にした手のとこで、
栓は抜くらしいんだけど‥‥
シジュ
わははははは。

みうら
そういうことより、南部鉄でできていて、
ずっしり重いわけよ。
もういまや、抜くものもほとんどない時代にですよ。
シジュ
そんなのおみやげにもらっても、困るし。
みうら
でしょ? 
買うのももらうのも困るし、
高いし重いし、まぁ、言ってみれば
「嫌なことばっかり」のものを、
勇気を出して買うんです。
シジュ
どこから切り取っても
いま欲しくないものを
ずしっと手にとって。
みうら
断腸の思いでレジに持っていくという、
その時点からもう、
民俗学なんだよね。
シジュ
そうだジュよ。
こんな、何万円も何万円も‥‥。
みうら
僕がやってるのは「学」だから。
シジュ
「学」だジュからね。
みうら
コレクションじゃないんだ。
「学」のための資料ですから。
シジュ
マイ遺品であり、なおかつ、
未来の柳田國男さんに対する
メッセージだジュからな。
みうら
ほら、これも見てよ。
この灰皿は「コイ皿」と呼んでるものなんだけど。

シジュ
ははは、かわいい。そして大きい。
みうら
鯉に‥‥肩ってあるの?
シジュ
肩?
みうら
人間には肩があるでしょ? 
この鯉にも肩らしき部分が
無理やり作ってあるんだよ。
そこに穴があいていて、
タバコを置く仕組みなんだよ。
シジュ
ちょっとおかしな発想だジュな。
みうら
鯉の口の部分が空いてるから、
きっとここからタバコの煙が
出るようになってるんじゃないかな。
でもね、どう考えても、それは無理だし、
第一、中が洗えないでしょ。
シジュ
洗えないね(笑)。
みうら
設計ミスでしょ。
シジュ
これ、すごく高かったんじゃないだジュか?
みうら
いや、いま思い出したんだけど、
これ、奈良の橿原神宮前のみやげ物屋さんで
買ったんだ。
そんな高くなかった気がするけど、
さすがにデッドストックでね。
シジュ
そうだジュよな、こんな割れそうで大きな、
使いにくくて洗いにくい灰皿を
おみやげに買う人は
今後あらわれないだジュ。
みうら
店の人も、持って帰ってほしくて
たまらなそうな顔をしてた。
だから、だいぶ安くしてくれたよ。
シジュ
それは、徳を積んだね。
みうら
デッドストックは値札がついてない
場合もあるんだよ。
シジュ
そうなんだ。
みうら
こういうものは、たいがい、店の奥のほうにいる。
僕は視力がよくないんだけど、
こういったものたちのことは、
なんだかよく見えてしまうんだ。
それはね、ほんとうに
「早く引き取ってほしい」という
いやげ物からのサインなんだろうね。
シジュ
値段は一種の賭けだね。
みうら
うん、交渉次第のとこもあるよ。
シジュ
人々との交渉、フィールドワーク。
柳田國男だ。
みうら
だから、柳田國男用なんだよ。

(明日につづきます)

2022-01-19-WED

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  • アサヒビール大山崎山荘美術館
    開館25周年記念
    みうらじゅん マイ遺品展
    2021年12月18日(土)– 2022年3月6日(日)

    みうらじゅんさんが長年にわたり収集、制作し、
    自ら「マイ遺品」と名づける品々を、
    出身地である京都の地で一挙に公開する展覧会。
    ゆるキャラ、いやげ物、スクラップ、ヘンヌキなどの
    みうらさんの「マイ遺品」が
    国の有形文化財として登録されている「大山崎山荘」と
    安藤忠雄さん設計の「地中館・山手館」からなる
    静かな美術館にずらっと並ぶさまは、圧巻です。
    京都の歴史ある空気を味わいながら実感する、
    みうらじゅんさんの偉業のかずかず、
    ぜひおたのしみください。

    カフェでは特製のどらやきも食べられます。

    【会場】アサヒビール大山崎山荘美術館
    〒618-0071 京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
    JR山崎駅または阪急大山崎駅より徒歩約10分
    【開館時間】10:00 – 17:00(最終入館 16:30)
    【休館日】月曜日(ただし、祝日の場合は翌火曜)