さまざまなミュージアムが所蔵する作品や
常設展示を観に行く連載・第3弾は
「トライアローグ」展を開催中の
横浜美術館さんに、おじゃましました。
「トライアローグ」展は、
横浜美術館・富山県美術館・愛知県美術館
という日本の公立美術館を代表する3館が、
それぞれのコレクションを組み合わせて
20世紀の西洋美術の歴史を振り返る試み。
「所蔵作品を活用した企画展」なので、
常設展じゃないけど、行ってきました!
ピカソ、デュシャン、マティスから、
シュルレアリスムを経て、
ウォーホルやリヒターなど現代美術まで。
作品の解説をしてくださったのは、
学芸員の大澤紗蓉子さん。
担当は、ほぼ日奥野です。どうぞ!

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第1回 横浜美術館の、なりたち。

──
横浜美術館さんが設立されたのは、
いつのことなんですか。
大澤
1989年11月です。
──
あ、案外お若いんですね。31歳ですか。
横浜ってトリエンナーレもやってるし、
アートな印象が定着しているから、
横浜美術館さんも
もっと昔からあるのかなと思ってました。
大澤
ええ、この横浜美術館ができる以前には、
現在は移転していますが、
関内駅の目の前に
「横浜市民ギャラリー」があって、
そこが、横浜市としての、
はじめての文化施設だったようです。
全国に美術館がそれほどなかった
1964年に、
まずは中区桜木町に建てられたんですが。
──
じゃ、その後、関内に移転して。
大澤
はい、前川國男さん設計の
横浜市教育文化センターの建物のなかに。
──
東京都美術館も設計されてますよね、
前川國男さんって。
大澤
はい、横浜市民ギャラリーでは、
中原佑介さんなど
戦後の前衛的な美術評論家らをお呼びして、
現代美術の展覧会を開催したり。
──
その時代に「現代美術」の展覧会。
大澤
そうなんです、
長く市民の文化の中心だったのですが、
70年代の後半から
横浜にも本格的な美術館をつくろうという
機運が高まってきたんです。
そして、
1979年に、美術館をつくることが決定。
10年後に、横浜美術館は開館したんです。

撮影:笠木靖之 撮影:笠木靖之

──
神奈川県には、
葉山に県立の近代美術館もありますよね。
大澤
そう、神奈川県立近代美術館は、
いまはいくつか分館がありますが、
もともとは
鎌倉の鶴岡八幡宮の境内に建てられました。
1951年開館ということで、
「日本初の公立の近代美術館」なんです。
──
なるほど。では、ここの横浜美術館には、
どういった特徴があるんですか。
大澤
黒船がやってきたあと、
横浜が開港したのが
1859年なんですけど、
その年、つまり
1859年以降の美術品を集めています。
──
へえ‥‥そうなんですか。そこが基準。
おもしろいですね。
大澤
実際に収集された美術品のジャンルは
多岐に渡るのですが、
ほとんど
1859年以降の作品であることは
共通しています。
──
具体的には、どういうジャンルが?
大澤
西洋画と日本洋画、日本画、版画、
写真、彫刻、工芸。
大きくわけると、
そういった分野の作品を集めています。
細則では、
さらにはデザイン、建築、映像など、
現代の表現にも注目しているのですが。
──
ええ。
大澤
ひとつ大きな特徴は、
収集作品に写真を位置づけていること。
じつは
日本ではじめての商業写真館のひとつは
横浜にできたので、そのこともあって。
──
写真を意識的に収蔵しているところは、
めずらしいんですか。
大澤
1989年当時は、
東京都写真美術館のできる前でしたので、
先駆的でした。
──
そういえば‥‥石内都さんの展示会を
こちらで拝見しました、数年前。

「絶唱、横須賀ストーリー」展示風景 2017-18年 「絶唱、横須賀ストーリー」展示風景 2017-18年

大澤
本当ですか、ありがとうございます。
「石内 都 肌理と写真」展は、
わたしが担当していたので、うれしいです。
──
はい、すごくよかったです。
石内さんの『絶唱、横須賀ストーリー』は、
ずっと古本ですごい価格になっていて、
中身を見たことがなかったので、
ヴィンテージプリントをたくさん見られて、
ものすごく、よかったです!
大澤
ありがとうございます。
「肌理と写真」展のときは、
石内さんの《絶唱、横須賀ストーリー》は
本展に組み込まず、
あくまでも横浜美術館の所蔵品として、
あのシリーズだけを、
コレクション展示室で展示したいっていう
石内さんのご希望だったんです。

「絶唱、横須賀ストーリー」展示風景 2017-18年 「絶唱、横須賀ストーリー」展示風景 2017-18年

──
たしかに、部屋が別でしたね。
大澤
あのシリーズを
この横浜美術館が持っているということに、
石内さん、
すごく重要性を感じてくださっていまして。
──
でも、たしかに、横浜美術館の展示では、
絵画や立体作品の合間に、
必ず写真が展示されているイメージです。
ちなみに収蔵の基本方針って、
各美術館で、策定されているんですよね。
大澤
そうですね、それぞれに。
──
横浜美術館の収蔵方針は、
どんなふうにして決まっていったんですか。
大澤
はい、横浜美術館の開設が決定したあとに、
西洋美術研究者で
大原美術館の現館長である高階秀爾さんや、
横浜国立大学の教授で
洋画家の國領經郎さん、
美術批評家の中原佑介さんらによって、
横浜市美術館基本構想委員会が組織されたんです。
──
錚々たるみなさんによって、決められたと。
そういう方針を、各美術館が持ってる。
大澤
今回「トライアローグ」展を
一緒にやってる富山県美術館さんの方針は、
なかでも個性的ですよ。
もともと富山県立近代美術館という名称で、
横浜美術館より前に誕生したのですが、
開館にあたって
助言したのが美術批評家の瀧口修造だったので。
──
瀧口さん‥‥名前しか知らないのですが。
大澤
戦前戦後にかけて、
シュルレアリスムの日本への導入のさいに
多大な功績のあった方で、富山出身。
その瀧口さんの影響のもとに
コレクションを構築しはじめるんですけど、
ジュアン・ミロなど、
当時、
そこまで国内で評価の高くなかった作家の作品を
コレクションの第一号にするなど、
魅力的な作品を数多くお持ちなんですよね。
──
すごーい、富山県美術館さん。先見の明。
大澤
とくに「トライアローグ」展では、
「60年代以降の現代美術の作品」
については、
他にはない作品をたくさんお持ちなんです。
──
コレクションって、
どんどん増えていくんだと思うんですけど、
横浜美術館さんでは、
どういうイメージで、
買い足していくものなんでしょうか。
足りないピースを埋めていく感じか、
とにかく上にどんどん積み上げていくのか。
大澤
なかなか答え方の難しい質問ですけど‥‥。
横浜美術館の場合は、
最初は20世紀美術を俯瞰できるような方向性で
収集していたようなのですが、
100年を網羅するということが、
ことのほか並大抵なことでなかったんです。
──
ええ。
大澤
それで、途中から
コレクションの「個性」をつくる方向に
シフトしまして、
シュルレアリスムの作品を
重点的に増やしたりとか。
──
網羅するって、大変ですもんね。
モネという人の印象派以降の人生だって
20世紀の範疇ですし。
そこからはじまって100年間ですから。
大澤
そうなんです。
でも、今回のように「トライアローグ」
つまり「鼎談」というコンセプトで、
日本の公立美術館が力を合わせれば、
体系的に
西洋美術や各地の名品を並べられるんです。
──
いきなり「ピカソ」が4点、ですものね。
入ってすぐのところで。
大澤
そうなんです。

──
ちなみに、そういう特別展の企画などは、
どれくらいの人数で進めているんですか。
大澤
はい、当館は12名の学芸員がいますが、
そのなかの3〜4名ほどでチームを組んで、
各展覧会の準備を進めています。
横浜美術館は規模が大きめなので、
この人数は、多いほうかなとは思います。
──
はあ‥‥でも、それくらいの人数のみなさんで
数ヶ月ごとに切り替わる、
海外から有名絵画を借りてくるような
展覧会なども企画して、動かしているんですか。
大澤
そうですね。展覧会だけでなく、
作品の保存や修復、
コレクションの収集や研究なども
学芸員の大切な仕事です。
美術教育普及にも力を入れているので、
別に専門のグループもあったり。
──
どういうことをしてるんですか。
大澤
展示室がある場所とは別の棟の
2フロアにアトリエを設けています。
下階は市内の幼稚園児や小学生など
12歳までの子ども限定で、
絵具も粘土もお好きなようにというプログラムや
子どもや学校・先生のためのワークショップなど。
──
おお。
大澤
上階は大人向けで、
専門のエデュケーターを設置した上で
版画や彫刻、絵画、写真などの
実技指導をしています。
写真の暗室、焼き物の窯もあるんです。
──
わあ、楽しそうだなあ。
ぼくたちも
ちいさなギャラリーをやっていますが、
それでも、
企画を考えるのに四苦八苦してるので、
これだけ大きな美術館の展覧会を
12人とかで担当しているというのは、
すごいことだなあと思いました。
大澤
美術館の規模にもよりますけど、
たとえば
東京の区立の美術館さんなんかですと
もう少しコンパクトなので、
学芸員2、3人で
年4本とか企画をまわしていますから。
すごい仕事量だと思います。
──
三菱一号館美術館の
前の館長だった高橋明也さんの本を
最近、読んだんですけど、
海外から絵を1点、持ってくるだけで、
特別な梱包をあつらえたり、
あちらの人が必ず1人ついてきたり、
高額の保険金をかけたりとかしていて、
すごく大変そうだったんです。
特別展なんかをやろうとした場合には、
そんなことだらけだろうし、
しかも、
同時に複数の企画が動いているわけで。
大澤
まあ、よくやれてますよね(笑)。
──
そういう目で
入り口に並ぶ「ピカソ4点」を見ると、
いっそう「うわー」と思います。
大澤
ありがとうございます(笑)。

左から:パブロ・ピカソ《座る女》1960年 富山県美術館蔵、《肘かけ椅子で眠る女》1927年 横浜美術館蔵、《肘かけ椅子の女》1923年 富山県美術館蔵、《青い肩かけの女》1902年 愛知県美術館 左から:パブロ・ピカソ《座る女》1960年 富山県美術館蔵、《肘かけ椅子で眠る女》1927年 横浜美術館蔵、《肘かけ椅子の女》1923年 富山県美術館蔵、《青い肩かけの女》1902年 愛知県美術館

(つづきます)

2021-02-22-MON

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  • この連載で取材させていただいている
    「トライアローグ」展は
    2021年2月28日(日)まで開催。
    愛知県美術館・富山県美術館と共同で、
    3館それぞれが所蔵する
    20世紀西洋美術の名品がせいぞろい。
    みごたえばつぐんです。ぜひ!
    その後、展覧会は、
    愛知県美術館・富山県美術館に巡回。
    横浜美術館は、この展覧会をもって
    2年を超える長期休館に入りますので、
    その意味でもぜひこのタイミングで。
    来館する場合は、
    日時指定予約制になっていますので
    公式サイトでご確認を。